残り98日
頭に鳴り響く五月蝿い鐘の音によって心地よい眠りから覚めてしまった。
「…飯でも食うか」
4時限目が終了するチャイムが学校内に鳴り響いた後、俺は1人で教室を出て階段を目指す。
基本的に一階が一年、二階が二年、三階が三年、四階が特別教室(実験室や調理室)という構造になっている。
部室は別の棟になっており、部活に入っていない俺からしたら縁の無い棟に聞こえるが、そこには職員室や保健室などあるので割と行く機会はあるのだ。
しかし今回は今言ったどの教室にも用はない。行きたいのは4階の上…屋上だ。
ぶっちゃけ言うと屋上は立ち入り禁止エリアとなっており、教師や生徒会の許可なく入ると罰が下される。そもそも、普段扉には鍵がかかっているので入ることは出来ない。よってここは全校生徒誰一人近づくことはない静かな場所になっている。
「よっ……と」
しかし俺は気にすることなく扉を開く。
実は、もう随分前から扉が開きっぱなしになっている。しかし全生徒どころか教室でさえ近づかないので、誰も確認も報告もしないのだ。
「しかし暑いな……。日陰になっているベンチが無ければ溶けてしまうところだった」
唯一、肌を焼き尽くすような直射日光から避けているベンチに座り弁当箱を開けた。色々あって毎日弁当を作ることになっているのだ。
さっそく箸をオカズに伸ばして食べようとしたその時、突然後半からいるはずのない声が発せられた。
「やっぱここにいたのね」
驚くべきことに、例の謎少女「柏木花蓮」が背後から話しかけてきたのだ。
何でわざわざ立入禁止のここまで登ってきたのか理解できない。
「お前な、ここ、立入禁止だぞ?」
「それアンタが言えた言葉じゃないでしょ!!」
「それで……なんの用だ」
どうせろくでもない用事だろうと思うが、一応聞いてみることにした。
「なんの用ですって? ええ、そうよ、あるわ。とっても大事な用事が」
もはや死の宣言を聞いた後じゃ何を聞いても驚かない自信しかないけど。
「あなた、いつもここで昼休みを過ごしているの?」
「まあそうだな」
特別用事がない限り、俺はここで昼を過ごしている。
理由としては静かで気持ちよくて誰もいない場所だからだ。
「……誰もいないけど、一人?」
「悪いかよ」
「そう。なら遠慮なく言えるわ」
彼女は目をつぶり、手を胸に添えて静かに呼吸を整える。まるで本物の告白をする前にみたいな挙動で。
「……」
やがて屋上になびく風の音しか聞こえなくなったころ、彼女が腕を組み、俺を哀れな目で見下しながら言葉を吐き捨てた。
「いつも一人でご飯なんてとっっても残念な人なのね!!あーかわいそうに!!」
これ以上ないくらいのドヤ顔で言い終えた後、彼女はそれ以上の言葉を発することなく沈黙する。
「……おい。もしかして用事ってそれ言いに来ただけじゃないだろうな?」
「は? そうに決まってるじゃない。一昨日から馬鹿にされたまま返事ができなかったから、そのお返しを言いたかったの。あー、やっとスッキりしたわ。今日はよく眠れそう」
そう言うと彼女は本当に満足したようで、こちらの興味を完全に失くし踵を返して屋上から去っていった。
用事とやらが俺の想像した100倍くらいくだらないことだったので呆気にとられてしまい、そのまま彼女をただただ見送った。
そして今、俺は一つの確信を得る。
「あいつとだけは仲良くなれる気がしねえ!!」
まあ、そもそも仲良くしてる奴なんて健人と……例外を入れて二人以外だけしか存在しないけどな。
「……教室に戻るか」
――今日はやけに、蝉の声が五月蝿く感じた。
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