幼馴染はさせない


 ドアを開けて外をみる。朝日が登り起きたときよりはだいぶ明るくなった。

雲ひとつなく晴天だ。入学式日和だろう。

しかし朝6時半、明らかに早すぎる。

入学式の受付は8時半から、始まるのは9時半からだ。

自宅から学校までは途中まで電車で20分ほど移動し学校の最寄り駅へ、そこからは徒歩10分程度で着く。

つまり、40分もあれば電車が遅れることがない限り学校へ着くことができる。

そして現在の時刻は「…」


チーン。 1時間越える余裕があるじゃないか。

とりあえず、自宅近くの駅へと向かう。

 俺の家からすぐ目の前には橋があり、そこを渡って右へ直進すれば5分ほどで駅へと着く。

 我ながら利便性は抜群であると思う。中学時代も同じく電車通学で今日から通う高校と最寄り駅まで同じ。そこから学園通りと呼ばれる通りを歩いてすぐ左手に中学校があり中高一貫校ではないが向かい合わせに春ノ青高校が建てられており高校へ行くのもあまり真新しいわけではない。

なんせ向かいだからもう幼馴染的なw ……。

おい!


ゆっくりと歩いて駅まで向かう。

田舎のような町並み、左に畑、右は川が流れている。その川を渡るために橋を通る。

 中盤に差し掛かったところで後ろから誰かが声をかけてきた。


「おはようございます。朝から早いわねぇ。もう学校へ行くの?」

 母と同じぐらいの年。

俺が小さいときからよく知る人物。三郷 花さん。

俺の幼馴染のお母さんである。


圭佑「おはようございます。花さん。朝からランニングですか?」


花「そうなの。最近太ってきちゃって、旦那のためにも痩せようと思うの」

 なるほど、旦那さん思いの良い奥さんである。俺もこんな人が奥さんならな〜

まじで俺を愛人にしてください。はい。すいません。気の迷いです。そんなことしたらこの物語が一気に変わっちゃうよまったく。笑


圭佑「旦那さん思いのいい奥さんですね。羨ましいです」



花「そうぉ?ありがとう。そんな私に似てうちの若菜も尽くすタイプよ。ぜひ嫁にお連れになって」


 いや結構です。親からの推薦とかいりません。付き合う通り越して、結婚ちらつかせてこないで。ホント勘弁。今日でこの人は確実に危険人物認定だわ。おまわりさんこの人です。キャッチセールスしてますw 冗談だよ。


圭佑「いえ、ちょっとそういう話はやめてください。本人の意向とかいろいろあるでしょう?それに俺らまだ高校生になったばかりですし」


花「別に予約でいいのよ。今すぐでなくてもねぇ。それともうちの子では不満かしら。あっ!もしかして他に嫁候補が‥ 困ったわ」


圭佑「そんな人はいませんよ!もうこの話はやめです。僕は、学校に行きます」


花「もう言っちゃうの。お話楽しいのに。どうぉ?この後お姉さんといいことしない?」

 腰をくねらせながら妖艶に迫ってくる幼馴染母。恐怖だ。これは退散すべきだ。

この人は俺を狙ってるのか。落としに来てるのか。

これはラブコメでも類をみない事例だ。こんなことがあってなるものか。だ、だれかた‥すけてくれ。

色気をまといながらジリジリと俺に詰め寄ってくる。万事休すか。


「おか〜さ〜ん。何してるの?」

橋の反対側、俺の家の方から歩いてくる音が聞こえてくる。

 助け舟が出された。危ない。2話目から全く新しいお母さんラブコメになるところであった。

げふん。げふん。

 

声をかけてきたのはもちろんいわずもがな幼馴染の三郷 若菜。家は隣同士でよく小さい頃から遊んでいた。ショートボブヘアーで可愛い系の顔、感情が読み取りやすいほど感情に合わせて顔が変わる子である。

もちろん俺と同じ高校一年生で今日から同じ学校へ通うことになっている。そして、ラブコメ上における要注意人物だ。


若菜「あ。圭ちゃん。おはよぅ〜。もう学校へ行くの?早くない?もうちょっと待ててよ。学校一緒に行こ?」

 少し照れた様子ではにかみながら俺にそう言ってくる幼馴染。ふふフラグ勃発。きましたよみなさん。

これがラブコメディ展開でございます。

幼馴染と高校に一緒に向かう。

これは死亡案件ですね。

穏やかではない日常がおとずれることでしょう。


圭佑「はて、学校とはなんぞや?」

若菜「ちょっと。そのボケはよくわからないよ圭ちゃん」

 うん知ってる。自分でも制服着た状態で若菜に会う時点でごまかせないと分かっていたさ。

分かっていたんだけどさ。わかって…


花「若菜ちょっと私の圭佑くんですよ。私がいる中で堂々と学校へ一緒に行こうだなんて誘って、おこがましいわ」

 ちょっと!なにいっちゃてんのこの人。やっぱりこれってお母さんラブコメなんすか。え、そんな新ジャンルの物語なんですかこれ。


若菜「お母さん、娘の幼馴染の男の子に手を出すなんてそれは犯罪です。それに圭ちゃんはお母さんのものではありませ〜ん」

花「犯罪だなんて。ねぇ〜私達は愛し合っているのに。愛は正義よね圭佑くん」

圭佑「いや知らんがな」

 もう、誰かどうにかしてください。この状況打破してください。


若菜「お母さん悪ふざけはやめてよ。私の圭ちゃんなの!私が圭ちゃんのものなの!」


 顔だけでなく耳まで真っ赤にしてうつむきながらつぶやいた。


んんんぅ〜!!いますごいこといったくね?


花「若菜ったらぁ〜大胆。わたしが圭ちゃんのものですって。お母さん困っちゃうわぁ〜」


 ちょっとぉ奥さん。最近の子はマセてますわよ。私が圭ちゃんのものですって。

あらやだw


………。


 じゃないよ!この感じ。確実に俺のことすきだよね。もう私のとか私がとか発言しちゃってるしさ。

この流れやばいやないかい!「私が圭ちゃんのものなんだから」とか言って俺と一緒に行動をともにしだしてさ。学校行ったら新しい友人とかクラスの子達に「私は圭ちゃんのもので圭ちゃんは私のものなの」と発言してクラス中が「あの二人お似合いだよね」とか言い始めて、しまいに夫婦認定されちゃうやつやん。


圭佑「あの、おれは誰のものでも無いよね。若菜も花さんも冗談きついよ笑」


若菜 花「「冗談じゃないもん(もの)私のなの(ものよ)」」


 なにこの展開。重すぎない?

2話目で愛がおもすぎるわ!嫁候補に幼馴染とその母ということになるんでしょうか?

崩壊しちゃうよまじで。


圭佑「そうな、の。じゃーおれもういくわ」

退避!戦略的撤退です!隊長!


さっと踵を返し、最寄り駅の方へ向かおうと歩き始める。呼び止められるのは言うまでもない。立ち止まらないがな。

後ろから圭ちゃん一緒にいくのに〜と聞こえてくるが無視を決め込む。振り返っては駄目だ。前へ進まなきゃ。うん。



高校生活初日から大丈夫だろうか。絶対に平穏じゃないだろう。はぁ。


春風が頬を撫でるように通り過ぎる。その風を受けて寒気を感じるのだった。

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