鈍関係主人公はラブコメをさせない
おうさかひなと
ラブコメとは
早朝、外はまだ薄暗い中一人の男が目を覚ました。この物語の主人公である。
黒髪短髪のその男の名は「奥村 圭佑」という。
特に朝が弱くない圭佑はすぐにベッドから起き上がり、羽毛布団をたたむ。それが終わるとベッド横のカーテンを開けて外の景色を眺める。丁度5時頃の起床であるためか日の出が見えそうだ。
ザァーピシャ!
すぐさまカーテンを閉める。
「いかん、日の出なんて見ている場合ではない。フラグが立つ」
一人部屋でつぶやきながら頭を抱える。
畳んでいた布団に再びダイブし暗闇の中でひとり愚痴った。
俺こと奥村 圭佑はラブコメが嫌いである。それはもう吐き気を催すほど。
ラブコメは日本において漫画やライトノベル、アニメ、ドラマなどに数々の作品として世に出回り、いまでは一つの大きなジャンルとして確立されている。
ギャグシーンの多い作品から、青春活劇をベースとしたギャグシーンの少ない作品まで幅広く存在している。しかしその多くはお色気要素やハーレムといった現実とはかけ離れた世界である 。
圭佑が嫌いなこのジャンルにおいて最も忌み嫌うのは “鈍感系ハーレム主人公”である。それは主人公の周りに女の子がたくさん登場してくる。
家族には妹、お隣には幼馴染、学校に行けば可愛い後輩、さらには美人生徒会長と親しいなどなどこの路線が組まれたラブコメ作品は皆が主人公を好きであり狙い、主人公をかけての争いがおこる。それは察そう穏やかではない日常である。
それに拍車をかけるように主人公はなりふり構わず様々な人に思わせぶりな発言をし場を荒らす。極めつけは転校生美少女などという新しい女の子をハーレム投入し修羅場とかす。この作品を作る人は 馬鹿なのか馬鹿なんだろうとつくづく思う。
だがしかし、この俺が作品において最も嫌いな人物はこの主人公である。
たくさんの女の子の好意に全く見向きもせず、一人に絞ろうとしない。
優柔不断であり
「一生この友達関係で居たいんだ」
と甘ちょろい考えを吐露する。その考えが痛いんだとなぜ気づかない。
こんな主人公をみていると怒りが沸々と湧いてくる。
いけない熱くなりすぎた。頭を冷やそう。
そんなわけで、俺は鈍感系主人公にならない。
そう心に決めている。
今年から俺は高校生となる。最も危険がいっぱいな青春時代と言っていいだろう。
何故か、一番ハーレムラブコメの設定に出てくる時間軸だ。日常に危機を感じる時代である。
4月1日 午前5時 起床
今日は入学式。冒頭後の現在。真新しい制服に袖を通しながら姿見の前に立つ。
“私立春ノ青高校” 俺が通う学校。
創立50年の歴史を誇り元は有名な女学校であったが5年前から共学制となった高校である。
その名残もあるので他の高校に比べると女生徒の人数の方が多い。
また、5年前から男女ともにブレザーの制服である。かばん自由で校則が緩い。巷では可愛いと評判なそのブレザーの制服を着たいがために志望校にする女子生徒もいる。それがさらに女子生徒が多くなる理由である。男女比は3:5 男子3の女子5になっておりまあ許容範囲だ。しかしこの高校に通うのは怖い。設定がラブコメ風だから。
制服を着終わると2階の自室を出る。階段を降段し1階のリビングへ。まだ誰も起きてはいない真っ暗なリビングの電気を付ける。キッチンに向かいコーヒーメーカーに豆を入れてスイッチ・オン。朝のテレビニュースをみながらコーヒーができるのを待つ。
テレビ「新着速報です。芸能界に激震が走りました。ドラマ・映画等主演で引っ張りだこだった女優 桐沢茜さんが引退を発表。本人からは今後メディアに出演等はないとのことです。以上新着でした」
圭佑「へぇ引退するんだ。まあ芸能界の仕事も忙しいだろうしメディア等に疲れたんでしょうね」
一人つぶやきながらコーヒーを注ぎに行く。
軽く観ていたこのニュースが後々ラブコメ展開に一石を投げるとは
このときの圭佑は思いもしなかった。
俺は家族の中でも朝起きるのが早い。これは癖で中学生の頃から続いている。
何故なら、俺には妹がいるからである。ひとつ下の中学3年生 奥村 凛。
ラブコメにおいて妹との朝の登校は諸侯フラグである。周りの人達から奇異の視線で見られることこの上なし。避けなければならない。毎朝必ず妹よりも早くに起きて家を出ることを習慣化している。
「あら、朝から早いわねぇ。入学式今日だけど張り切り過ぎじゃない?」
声をかけてきたのは俺の母 奥村涼子。黒髪ロングで少しつり目色気抜群でプロポーションが素晴らしく外見はとてもよい。もうすぐ40代とは思えないぐらいに若作りで近所の奥様方には羨ましがられている。それにばりばりのキャリアウーマンだ。仕事もできる。
いつも俺の次に早く起きてくる。働き方改革の影響で早朝出勤して定時に帰ることが多いため俺が中学校に上がってからは俺と同じぐらいに家を出ることが多い。
圭佑「まあ、ゆっくり道草食って行くよ。余裕持っていくことに越したことはないだろう?」
涼子「そうね。別に早く行くのはいいと思うわよ。う〜んだけどたまには凛と一緒に行ってあげてもいいんじゃない?あの子寂しそうに朝起きてくるし」
俺が凛から避けてるからな。
寂しい思いをしてるなら罪悪感はあるがしかし、今日は駄目だ。
入学式早々可愛い妹をつれて校門近くまで登校。これは展開的にアウトだ。そう、妹は可愛いのだこれだから困る。通行人の男という男が振り返るぐらいの容姿をしているから必然的に注目を集める。そして、その横の男誰なんだ。状態に陥り、人知れず俺のヒットポイントをゴリゴリに削ってくる。母に似ているが髪はセミロングで黒色、タレ目でおとなしい印象。庇護欲を掻き立てるその姿はまさにザ・妹である。
圭佑「分かっている。また、俺から誘うようにするよ。『おはよぅ〜』
噂をすれば起きたみたいだな。行ってきます」
涼子「はいよ。気をつけてね。妹なんだから仲良く頼むわよ」
圭佑「あぁわかってる。じゃあ」
通路を歩いて玄関へ向かう。下駄箱から靴を出し下へ投げる。
凛「兄さん。もう行くのですか?今日は入学式だからそんなに早く行かなくても・・」
寝起きそうな顔をして目をこすりながら玄関へと凛が歩いてくる。
圭佑「おはよう。凛はいつも通り学校へ行けばいいさ。俺が個人的に早く行きたいだけだから」
凛「う〜んそうだと思うけどたまには妹と一緒に行こうよ。おねがい」
圭佑「今日はもう俺用意してしまってるし。今度誘うからさ。今日は勘弁な」
凛「分かった。だから、今度は絶対一緒に行こうね。忘れちゃ駄目だよ」
愛らしく俺にそう言ってくる凛に少しドキッとしてしまった。俺は恋に落ちやすいタイプらしい。いやいやどこの乙女だよ。暴君から助けてもらった人を好きになるどこかのラブコメキャラじゃないだから。こんなことで動揺はしないぜ。
謎に考え込んでしまったが手だけで合図をしてドアへと向かう。
さっさと家を出ることにする。
今日は入学式という最初のビックフラグイベントである。ここは、おとなしくしておかなければ。
【目立つ、女の子に話しかけられる、女の子を助ける】等がないように。てか、女の子を助けるとか考えすぎだ。絶対にない。よし、行くか。
違う意味で胸を踊らせながら自宅を後にする。
これからの高校生活に穏やかな日常が訪れることを願って。
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