第8−2話 〜火を通しましょう、低い温度で〜
高い温度で殺菌する方法は極めて有効で、食品の長期保存を可能にしました。
その一方で、高温による「タンパク質の変性」で、食品の味の変化も生じます。そこで、味を変化させないため、長期保存は諦めて滅菌に至らない、大部分の菌を殺すだけで良いという方法も検討されてきました。
特に酒類は78℃が沸点であるエタノールを含みますから、高温にしたらそのエタノールが「揮発」してしまうのです。
そこで、「パスツール」と「クロード・ベルナール」によってワインの殺菌のために「低温殺菌法」が開発されました。1866年のことです。
この方法は、パスツールの名から「パスチャライゼーション」と呼ばれることもあります。
なお、ベルナールは、生物の体内の「
日本では、パスツールの約500年前の室町時代に記された日本酒の醸造技術書の中で、「火入れ」という工程が記されていました。日本酒は前に記したとおり「並行複発酵」をさせていますから、複数の細菌とそれら由来の「酵素」の働きをある程度「失活」させておかないと品質の劣化が起き、濁ったり味が変わってしまったりするのです。
また、火入れとして熱を加えるにしても、温度が足らなければ失活させられず、加熱し過ぎればエタノールや揮発性の香気成分が蒸発して失われてしまいます。そのため、杜氏はこれらの条件を満たす65℃前後の温度を感覚的に掴み、その見極め方を受け継ぎながら常温保存できる日本酒を作ってきたのです。
なお、近年、「コールドチェーン」の充実により、火入れをしない「生酒」の流通も盛んですが、これは生酒の香りと味という特徴を味わうことができる選択肢の広がりを示すものです。決して、火入れをした酒が生酒より劣っていることではありません。熟成という工程を経ることで生まれる、まろやかさや五味の調和による完成度の高まりは生酒にないものなのです。
この生酒は火入れができないため、高精度なフィルターを通して除菌をしています。これは「メンブレンフィルター」という0.22μmもの目の細かさのフィルターで菌を通さず、濾過による除菌が可能です。
低温殺菌法が使われることが多い、もう一つの例が牛乳です。
日本で最も多く流通している牛乳は、120℃から135℃で数秒間の殺菌がされていて、賞味期限は10日ほどです。さらに、135℃から150℃もの高温で数秒間の殺菌したロングライフ(LL)牛乳もあり、これは常温で60日もの保存が可能です。
その一方で、牛乳に豊富に含まれるタンパク質を熱変性させないように、低温殺菌法で処理したものの方が食味の点で優れているとした需要もあります。これは63℃で30分間の加熱殺菌する方法ですが、賞味期限は4〜6日ほどしかありませんし、一部の菌は生き残ってしまいます。
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※ 食品の高温加熱について
食品の高温加熱はタンパク質が変性し、人体に対して悪影響があるという記述が一部あります。しかし、高温でタンパク質が変性するのは当たり前のことで、生卵より茹で卵の方が体に悪いということもありませんし、肉などを焼く調理の過程で150℃を超えて焦げが生じるほどの高温になることも当たり前に起きていることです。
また、食品の焦げの発がん性は確かに認められるものの、日常に中で常識的な量であれば問題ないことが実験で確かめられています。日に体重の4倍もの焦げを1年以上毎日食べ続けて初めてリスクになる程度の発がん性なのです。
逆に、焦げによる香ばしさによる食欲増進など、正の効果の方が大きいと筆者は考えています。
なので、生に近いものが良いか、加熱したものが良いかを、個々人の好みと利用目的で決めれば良いのは日本酒の場合と同じだと考えます。
ただ、刺身を好む文化的背景を持つ日本人は「
例えば、鯵の刺身とアジフライ、どちらのほうがイメージとして高級感を感じるでしょうか? そして、どちらを好きと言った方がカッコよく見てもらえるでしょうか?
また、この2つを比較する際に、スーパーの特売の鯵の刺身と高級洋食店のアジフライを対比させた人はいますか? 大抵の人は、綺麗に盛り付けられた鯵の活け造りと、冷凍のアジフライを比較したのではないでしょうか?
あなたはフェアな比較をしましたか?
そして、フェアな比較ができなかった場合、その思い込みはどこから来たのでしょうか?
その「生」の優位性にあやかりたいがために、生クリーム、生パスタ、生キャラメルから生どら焼きに至るまで、生という言葉が多用され、中には意味不明な誇大広告に近いものになってしまう例もあるようです。
「生」食品の味覚上の優劣は個人の好みで良いことですし、味覚のバリエーションが増えるのも良いことです。一方で、不要な宣伝に踊らせられないことも必要です。中学校までの理科と社会をきちんと学習しておけば、ほぼ全ての宣伝と呼ばれるものの
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