第6話 足手まといでざまぁねえ

「聖女様! 緊急です! 直ちにギルドに参上していだきたい」


 オレが聖女パーティーの世話になってしばらく経った頃、ギルドの使いと名乗る男が血相を変えてパーティーのアジトにやってきた。 


「いかがされましたか?」


「水の神殿を、至急調査して頂きたいのです! 詳しくはギルドで」


 水の神殿といえば、ズミスの管轄だ。


 爺……何かやらかしたのか?



 ——緊急ということで、早速オレたちは身支度を整え、ギルドのあるビギナの街へ向かった。


 ネイに教えてもらった話だとギルドは確か、冒険者に仕事を斡旋してくれるところだ。


 冒険者は……ブロンズ、アイアン、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤの順でランク付けされていて、それぞれのランクに応じた仕事をギルドから斡旋してもらえる。


 仕事内容は多岐にわたるが、魔物の討伐が大半だだそうだ。魔物の体内には魔石と呼ばれる結晶を宿し、それを討伐の証としてギルドに提出すれば報酬がもらえる。


 ちなみに今回の仕事は、聖女ネイご指名だから冒険者ランクとは無関係だ。




 ——ギルドに到着したオレたちは、多くの冒険者たちの注目を集めた。


 聖女ネイの注目度かと思ったが、その視線の多くはオレに向けられていた。


 こいつら……もしかして、オレがネロスだと分かっているのだろうか。


 その様子を見た受付嬢がオレたちの存在に気付き、奥の部屋に案内してくれた。


 いった何だったんだ。




 ——「ネイ様よくお越し下された」


 くりんくりんヘアーの馬鹿でかい女が、俺たちを迎えてくれた。顔立ちは整っていて、ボンキュッボンでスタイルも抜群。なかなかいい女だ。


「ミカ様、お久しぶりです。お元気でしたか?」


「ああ、この通り元気だ」

 ミカは袖をまくり、力こぶをネイに見せた。確実にオレよりも筋肉がある。


「ん、そこの彼は? 彼氏か?」


「いえ違います。このお方は、ネロス様です」


 つか……彼氏ってなんだろう? まあ速攻で否定されたから、どちらにしてもオレには関係のない話しだな。


「ネロスだ」


 とりあえず軽く挨拶をしておいた。


「ギルドマスターのミカだ、でも……ネロスって何処かで聞いた名前だな?」


「戦神ネロス様です」


「そうそう、戦神ネロス」


 ミカが大きく目を見開いた。


「せ……戦神ネロス様だとぉぉぉぉぉ!」


 ミカがネイに詰め寄った。


「あの、あの、あの戦神ネロス様か?」


「はい」


「か……神様?」


「はい」


 動揺するミカに笑顔で答えるネイ。


 人間のことはよく分からないが、反応としてはミカが正しい気がする。


 そう言えば……ネイは最初からオレが神だと言うことに驚いていなかった。




 ——ミカは混乱してしまい、落ち着くまでにしばらくの時間を要した。


 とりあえずミカには、事情を説明しておいた方が何かと都合がいいらしい。


 面倒だがこれまでの経緯を説明した。もうこれで、3度目だ。


「あはは……にわかには信じられんな……」


 苦笑いのミカ。安心しろ未だにオレも信じられない。


「でも、聖女のあなたが言うんだ。事実なんだろうな」


「はい」


 皆んな聖女の言うことだからと、オレの存在を受け入れる。聖女の影響力は下界では絶大なのかもしれない。


「そ、そうだ、早速本題なのだが……」


 ——ミカの話では、最近、水の神殿があるズミスの街に赤い雨が降ったそうだ。


 赤い雨自体は程なくして、普通の雨に戻ったそうなのだが……それから雨は止む事なく豪雨となり、ズミスの街に長雨による深刻な被害が出ているとのことだ。


 ズミス……赤い雨……嫌な予感しかしない。


「そこで、聖女ネイ様に、水の神殿の調査をお願いしたいのだ」


「はあ、それは構いませんが、水の神殿を調べても、何も分からないかも知れませんよ?」


「構わない。だからと言って、他に我らに打つ手があるわけではないしな」


かしこまりました、そう言う事ならお引き受けいたします」


 


 ——オレたちはこの後直ぐ、ギルドの用意してくれた馬車でズミスの街に向かった。


 ズミスの街はビギナの街から馬車で3日程の道のりだった。


 ズミスの街近郊はミカの言った通り豪雨で道がぬかるみ、外部からの侵入を許さないような状態だった。


 ここからは、馬車は無理だと御者に言われた。


 流石のオレも見れば分かる。おそらく腰のあたりまでは浸水しているだろう。


「ここからは、歩いて行くしかないですね」


 御者とはここで別れ、ネイの言う通りオレたちは歩いて街を目出した。


 しかし……。


「ネロス、遅いよ!」


 オレはぬかるみに足を取られて思うように進めなかったが、皆んなはぬかるみでも、サクサクと歩いていた。


 神力のないオレは人間にも劣る。エリスの言葉が胸に刺さる。


「ネロスはウチがおぶるよ」


 ラナがそんな、オレに追い討ちをかけた。


「大丈夫だ、自分で歩ける」


「強からないでネロス。ネロスが無理なのは誰の目にも明らかだよ」


「だが」


 パチィ——————ン


 ラナに頬を打たれた。


「早くして、ネロスも戦神ならウチの言いたいこと分かるよね?」


 く……屈辱だ。


 だが、オレにもラナの言い分が正しいと分かった。


 オレはラナにおぶさってズミスの街に入った。


 こんな、年端のいかない女の子と肩を並べても、足手まといだなんて……本当にざまぁない。


 唯一の救いはこの豪雨がオレの泣き声をかき消し、涙も流してくれた事だ。

 


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