第3話 信じてもらえなくてざまぁねえ

 神力を奪われ、神界を追放されたオレは、情けないことにオークに生き地獄をあじあわされてしまった。おそらく神々の中でオークにボコされたのはオレが初めてだろう。


 それはいい。


 ……いや、よくはないけど今はどうしようもない。


 そんなことよりも、オークから救出されたオレに回復術を施してくれた少女が、オレを追放した幼馴染の女神エリスと瓜二つだったのだ。


 ていうか……エリス本人じゃね?

 

 なんだかんだいって俺のことが心配になって……持つべきものは幼馴染だな。


「エリス、お前、やっぱオレのことが心配で迎えにきてくれたんだな」


「え、え、え、エリス? わたくしの事ですか?」


「しらばっくれなくてもいいって、オレを騙すつもりならもう少し凝った変装をしたほうがいいぞ? 髪の色変えたぐらいじゃオレの目はごまかせないからな」


「ち、違いますよ? わたくしはネイです」


 ネイ……エリスはたまに下界に出かけることがあった。もしかして下界で活動する時の偽名か?


「いやいや、もういいって、神界を追放したものの、心配になって迎えに来てくれたんだろ?」


「神界? 追放? 何の事でしょうか?」


「いや、オレも反省したよ……みんなにも協力するからさ」


「と、申されましても……」


 ん……エリスのやつ……まだ信じてくれないのか?


 それとも、一連の事は、あいつの得意なブラックジョークなのか?


 神界追放といい、オークの事といい、ジョークにしては度が過ぎる。


 俺はエリス(仮)の肩を掴み、少し強く詰め寄った。


「おい、エリス! もういいって、早く戻せ、冗談にも程がある……からかうのも加減にしろよ!」


「い……痛いです、やめてください」


 その様子を見ていたエリス(仮)の連れの女剣士が、俺の首根っこを掴み持ち上げた。


「いい加減にしないか!」


 こ……この女、オレを片手で……なんつーパワーだ。


「な……なんだよ」


「いくらネイが君のガールフレンドにそっくりでも、まず最初に言うべきことがあるんじゃないのか?」


 最初に言うべきこと……なんだろう?


 俺が、小首を傾げていると、連れの女剣士は俺のことを豪快に放り投げた。


「痛っ!……テメー何すんだよ!」


 受け身を取ろうと思ってもうまく取れなかった。神力の影響……やばいな。


「命が助かっただけでも有難いと思え!」


 くっ……言われるがままか。


「行こう、ネイ」


「は、はい」


 オレは立ち去りうとするエリス(仮)を呼び止めた。


「ちょ、待てよエリス!」


「君もしつこいな、彼女はエリスではない。ネイだと言っているだろ」


 凄い形相で睨まれた。


 え……まじでエリスじゃないの?


 うそだろ?


 目の下のほくろの位置まで同じだよ?


「そもそもエリスは女神様の名前だろ、オークに殴られ過ぎて頭でもおかしくなったか?」


 こ……この女……言うに事欠いて頭がおかしいとか。


「ち……ちげーよ! 俺が言っているのはその……女神エリスのことだ」


「女神エリス? ネイが?」


「あ……ああ、そっくりなんだ……つかエリスだろ」


「いえ、本当に違います」


「そっくりって……まるであったことでもあるような口ぶりだな」


「あったことも何も、エリスは俺の幼馴染だ、何とか言ってやれよエリス」


「はぁ————————っ?」

「えぇ————————っ?」


「オレはネロス、戦神ネロスだ」





「ね、ね、ね、ね、ね、ネロス様だと!」


 女剣士はオレの胸ぐらを掴み吊り上げた。


「あの崇高なネロス様をかたるとは! 貴様ありえんぞ!」


 女剣士の態度が豹変した。こいつ……目がマジだ。


「い……いや、かたるとかじゃなくてオレはネロスなんだって」


「まだ言うか貴様! ネロス様が貴様のような軟弱者であるわけないだろう!」


 激しく体を揺さぶられらた。怪力ゴリラ女め……いてーよ、普通に。


 つか……もしかしてコイツ、オレの信者か?


 だからオークごときにやられていたオレが、ネロスをかたるのが気に入らないのか?


「じ、事情があんだよ」


「事情だ? じゃあ言ってみろ」


 女剣士はまたオレを豪快に放り投げた。


「痛っ!」


 神力が戻ったら絶対に泣かしてやる!



 ——オレは2人に事情を説明した。


 話を聞くネイの様子を見てオレは自分の間違いに気付いた。






 ネイはエリスじゃない。







 痛恨のミスだ。






 何故なら。






 ……エリスは。


 




 エリスはもっとボインボインだからだ。








 決してネイが小さいわけではないが。







 エリスとは格がちがう。







「そんな話、信じられるわけないだろう!」


「まあ、そうだろうな」


「あのネロス様がお前のような軟弱者であってたまるか!」


 やっぱりオレの信者か。


「テスさん、でも……ネロス様は嘘を仰っていないようです」


「え……」


「ネロス様から微かに神格を感じます」


「えぇ————————っ!」


 神格を感じるだと?


 普通の人間が神格を感じるなんて有り得ない。もしかしてこの女は聖女か?


 神界の神々が神託を与えるために、特別な能力を授けた聖女。


 そうか……だから『神の癒し』が使えたのか……オレは色々納得した。



「おい貴様!」


「なんだ人間!」


「自分たちについてこい」


「はあ?」


「き……貴様が本当にネロス様かどうか見極めてやる」


「なんだよそれ、さっき話した通り今のオレには神力がない、見極めるって言っても何もできないぞ? それともオレを養ってくれるのか?」


「ああ、養ってやる。たが使いっパシリぐらいはやってもらうからな」


 釈然としない。


 釈然としないが、オーク1匹倒す事が出来ないんだ……助かったと考えるべきだな。



「自分はテスだ、テスと呼ぶがいい」


「ふん、じゃあ特別にネロスと呼ぶ事を許してやる」


「わたくしはネイです。ネロス様、よろしくお願いいたします」


 とりあえず、下界での身の振り方が決まった。

 

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