第2話 オークにボコされてざまぁねえ

 下界に転移させられたオレの視界に飛び込んで来たのは、醜い豚野郎の姿だった。


 オークだ。


 もちろん創造したのはオレたちだが、実際にこの目で見るのは初めてだ。


 ドラゴンクラスなら、このむしゃくしゃした気分の憂さ晴らしぐらいにはなったのだろうが、相手がオークではいかにも力不足だ。もちろん瞬殺してしまうからだ。


「グルルルルゥ……」


 この豚野郎、一丁前にオレのことを威嚇してやがる。そして息が臭い!


 まあ、オレほどの高次元の存在。


 下界でお目にかかる事は滅多に無いだろうからビビるのも分かる。



 ……軽くあしらってやるか。



 たまたま遭遇しただけのコイツには何の恨みもない。だからせめてもの情けだ。全力のワンパンで跡形もなく消し去ってやろう。



 オレはオークに全力のワンパンを見舞ってやった。






「ぽむっ」






 情けない打撃音だけが響いた。





「……」






「ガウ?」


 オークに小首を傾げられた。





 え—————————っ!



 マジか————っ……!


 神力が下がるだけで、これ程にまで、弱くなるとは想定していなかった。


 流石のオレも少し……狼狽うろたえてしまった。




 本来、全力のオレのワンパンはオークどころか、ドラゴンクラスですら消し去る威力がある。





 ど……どうしよう。


 冷や汗が止まらない。





 とりあえずオレはバックステップで距離を取ろうとした。


 だが、体が重い……オレはバックステップで距離を取るどころか、そのまま後転するように、すっ転んでしまった。



「ちょ、待て、来るな、今のやり直しだから」


 豚野郎に言葉が通じるはずもなく、オークはその手に持つ、オレの身の丈を超える棍棒を大きく振りかぶり、コンパクトに振り抜いた。



「ぐほっ!」



 ホ——————ムランっ!




 全力の打撃がオレを襲った。


 痛い……めちゃくちゃ痛い。


 オレは野球のボールのように「びゅーん」と飛んでいきそのまま岩壁に打ち付けられた。


 全身が焼けるように痛い。


 口の中は血と砂の味で、わけがわからない状態だ。

 

 それでも、意識はハッキリしていた。絶対に大怪我を負っているはずだが、死の気配は1ミリも感じられなかった。


 神力は失われても、神だから死なない?


 恐らくそういう事だろう。


 だがこれは……このオークをどうにかしないと、いつまでもなぶり殺しにされると言う事だ。





 かなりの距離を飛ばされたはずだ。


 


 ……このまま死んだフリをしてやり過ごそう。




 そう思っていたオレの眼前に豚野郎の顔が。


「グルルルルゥ……」


 大丈夫だ、じっとしていれば気付かれない。



「ガルルルルルルゥ……」


「臭ぁぁぁぁぁぁぁ!」


 あまりの息の臭さにじっとしていられなかった。


 オレが生きていると分かりオークは棍棒で容赦なくオレを打ち付けた。



 滅多打ちだった。



 腕をクロスにしてガードしたが、一瞬にしてガードも崩された。


 傷口から溢れる血が目に入り視界もぼやけてきた。


 痛い……痛い。


 鈍い打撃音が鳴り響くたびに血しぶきがまう。



 意識を失う事も、死ぬ事もない、だが痛みだけは鮮明だ。


 


 これは生き地獄だ。




 まさか万物の頂点に立つオレが、豚野郎に生き地獄を味合わされるとは思ってもみなかった。




 オークにボコされながらオレは考えた。



 俺はコイツが殴り疲れるまで、待つしかないのか?


 仮にコイツが殴り疲れたとして、満身創痍のこの状態で、逃げ切ることが出来るのか?


 もしかしてコイツが寝るまで、ずっとこの痛みが続くのか?


 オレの脳裏に『絶望』という言葉がぎった。




 だが、その絶望は長くは続かなかった。




「グルォォォォォォォォォッ!」


 断末魔と共にオークの打撃が止み、次にオレが見たものは、真っ二つになって横たわるオークの無残な姿と、ふたりの人間のだった。



 オレは助かったのか?



 血で目がかすみ、シルエットぐらいしか分からないが、声的に大剣を携えた女剣士だ。


「大丈夫か!」


 その女剣士がオレ元へ駆け寄り声を掛ける。大丈夫ではないが大丈夫だ。


 しかし、殴られすぎた影響で、うまく声を発することが出来ず、軽く手を上げるのが精一杯だった。



「うん? ネイ! 来てくれ! 早く! まだ息がある!」 


「はい!」


 女剣士に呼ばれた少女が、オレの元に駆けつけた。


 そしてこれは……?



 ……神の癒し。



 少女は神界で『神の癒し』と呼ばれている回復術をオレに施した。


 オレの傷はみるみる回復していった。


 そして血で霞んでいた視界もはっきりした。



「気付かれましたか? 大丈夫ですか?」



 え……エリス?



 オレに回復術を施した少女はエリスと瓜二つだった。





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