幼馴染の女神に神界を追放・ざまぁされた俺は聖女パーティーで養われています

逢坂こひる

第1話 追放くらってざまぁねえ

 神界の朝はいつも、神々のクソみたいな話し合いから始まる。


 下界の問題から魔界の問題まで……。


 下界の事は下界の奴らに、魔界の事は魔界の奴らに任せればいいのに、コイツらときたら、ちんたらちんたら回りくどい話ばかり……無駄にイライラさせやがる。


 神界、下界、魔界、3つの世界を統べる神はビシっとしてりゃいいんだ。ビシッと。


「ネロス様、聞いておられますか!」


「ん、ああ」


「なんですかその態度は……偉そうに踏ん反り返って……テーブルは足を乗せるところじゃありませんよ!」


 オレの悪態にイラつくこいつは水の神ズミス。いつも口やかましく説教をたれるこいつを、オレはじいと呼んでいる。


「爺、悪い、聞いてない、興味もない」


「ネロス様!」


「んだよ、爺!」


「頼みますからもう少し、真面目にやっていただけませんか?」


「えーボク至って真面目ですよ」


 そうやって頼まれると余計にふざけたくなる。


「ふ……ふざけないでいただきたい!」


 年甲斐もなく地団駄を踏む爺。血管が切れないか心配だ。


「いやーもう下界とか魔界の事なんてどうでもいいじゃん。ぶっ壊ちまった方が早くね?」


「な、な、な、何を仰ってるんですかあなたは!」


「面倒くさいし」


「ネロス様!」


「「あ」」

 爺の血管が切れて『ぴゅーっと』血が吹き出した。言わんこっちゃない。


「今日と言う今日は、許しませんぞ!」


 血が吹き出したことなどお構いないしに話を続ける爺。白髪がみるみる赤い色に染まっていく。ちょっとキモいんだけど。


「ちなみに、許さなかったらどうするんだ?」


「少し、痛い目にあっていただきます!」

 

 痛い目……ねえ。


「できるのか? 爺に?」


「ふっ……見くびってもらっては困りますぞ、皆のもの出会え! 出会え!」


 さらに爺の頭から激しく血が吹き出した。すでに痛い目にあってるのはお前だ。


 爺の号令でゾロゾロと神々が集まってきた。


 今日はいつもより多く集まっております。ってなんの時代劇だよ。


「皆のもの、ネロス様を懲らしめてやりなさい!」


『『ハハーッ!』』


 勇ましくオレに向かってくる神々。


 だが、俺は原初神であり戦神。


 圧倒的な強さと神力をほこる。


 神々が何人集まって来ようが、オレに勝てるはずがない。


「うわぁ!」「がはっ!」「ぐほっ!」「うぴゅ!」


 そんなわけで、戦闘描写が必要ないぐらい簡単に勝利した。


「オレは帰るぞ爺、またな!」


「ネロス様!」


 暇つぶしにもならなかった。







「また派手に暴れたのね、ネロス」

「よう、エリス。暴れたって程のことじゃないって」


 この、ゆるふわロリ顔の巨乳美少女はオレの幼馴染みの、女神エリス。彼女も原初神だ。


「飲む?」

 愛と豊穣の女神である彼女が今差し入れてくれた神水しんすいは、最高に神力しんりょくが回復する。


「ありがとう」

 うん? いつもとちょと味が違う……でも美味い! 新作かな。



 ——エリスはオレと違い、神々からの人望も厚く、神界の主として君臨している。


「ねえネロス、もうちょっと皆んなと仲良く出来ないの?」


「うーん、あいつら、まどろっこしいんだよ。わけ分かんなねえ話しばっかするしさ」


「皆んなそれぞれ役割があるんだから仕方ないよ」


「役割ねえ……オレ1人いたら大丈夫じゃね?」

 

「それ、本気で言ってる?」


「本気も本気、なんなら試してみるか?」


 ここまでがいつものテンプレ会話だ。


 いつもならエリスが『馬鹿ネロス』とか言いながらオレの頬をつねってくるのだが……。


「そう……仕方ないね」


 今日はエリスの様子がいつもと違った。


 テンプレにない反応だ。


「……@&#☆」


 エリスが小声で何か呟くと、身体中の神力が抜けはじめた。


「な……エリス、お前何を?」


「ごめんね、ネロス。一服盛らせてもらったよ」


 一服……一服って……まさか!


「さっきの神水か!」


「そう、その神水の効果で、よこしまな考えを持っていると、本来の力を行使できなくしたから」


「な……」


 だから味が違ったのか。


「もし今、ネロスの神力が抜けているなら、ネロスが邪な考えをもっているからだよ」


 ……邪な考えって何だよ、オレは神だぞ。


「エリス、今すぐ戻せ、今なら冗談で済ませてやるから」


 さらに神力が抜けていった。


「冗談じゃないよ。ボクの目からみてもネロスの言動は目に余るよ」


 なんだ……どう言うことだ?


 エリスは何がしたいんだ?


 つか、これは色々やばいんじゃないか?


 オレは焦った。


「いくらお前でも、これ以上は容赦しない」


 オレはエリスに何てことを言ってるんだ?


「どう容赦しないんだい?」


「なめやがって!」


 オレは頭に血が上り、ついエリスに殴り掛かってしまった。


「無駄だよ」


 でも、オレの拳はエリスにあっさりかわされてしまった。


「女に手を上げるなんて最低だね」


 本当に最低だ、そしてさらに神力が抜けていった。


「ネロス、君の強さの源は、その圧倒的な神力だよ。神力のない君なんて、人間にも劣るんだからね」


「くっ!」


 何度やっても、結果は同じだった。


 殴り掛かろうとすればするほど、神力が下がり、オレの拳は虚しく空を斬るのみだった。


 意味がわからなかった……なぜエリスがこんなことをするのかも。


「ネロス、ボクは神界から君を追放するよ」


 ま……マジか。


「ま、でも君とボクの仲だ。君が心を入れ替えて皆んなに協力的になるなら、追放だけは勘弁してあげるよ?」


 あ……あんな、連中に協力しろだと。あんな喋ってばかりの連中に。


「ふ……ふざけるな! さっさと追放でも何でもすればいいだろ!」


 エリスはとても悲しそうな顔をしていた。



 ……そしてその瞳には涙が。



 でも、この時のオレは、エリスの涙の理由を知ろうとは思わなかった。



「そう……仕方ないね、下界で心を入れ替えてくるといいよ」





 そしてオレは神界を追放された。


 

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