まさかの過保護?
止め時がわからなかった頭なでなで行為をタイミングを見計らって強引に辞めた後、俺たちの間には何とも言えぬ沈黙が漂っていた。
理由はただ一つ。冷静になったから。
さっきまでの俺達はどこか興奮していたのか、冷静になって考えれば結構恥ずかしいことを何気なくやっていたのだ。んで、今はお互い少し前のことを恥ずかしがっている。そんな感じだ。
……さて、この後どうしよう。
俺ももう少し先程の行為の恥ずかしさを紛らわしていたいのだが、そればっかりじゃやっていけん。もっと先を見据えた行動が大事なんだよな、何においても。
取り敢えず全体を俯瞰してやるべきことを――って、あ……。
今更ながら、エルがまだ何も身にまとっていないことを思い出した。いや布団は纏ってるが。いやいやそういうことじゃなくて、服着なきゃ不味いだろ状況的に。今の状態が誰かに見られようものなら、俺は社会的に死ぬし。
当然ながら、俺は女性用の服装を持っているわけがない。つか、男の一人暮らしでそんなん持ってるやつはガチもんの変態だろ。
でも、今回は変態じゃないことが裏目に出たようだ。いや、変態であることがいいことな訳じゃないけど。
というか……もしかしてだけど、俺、変態になるしかないのでは?
ちょっと考えてみよう。
服が無いならば、買うか貰うかしないといけない。
一応俺の服を貸すことも出来るが、サイズがおそらく合わないだろうし、一時的な手段にしかならないと思う。
となると先程挙げた二択なわけで…………これは社会的な死を覚悟した方がいいのかもしれん。
貰うとしても両親は俺の一人暮らし先から遠いし、付近に一人暮らしの姉や妹が居る訳でもない。
仲のいい女友達がいるどころか俺には仲のいい男友達すらいないし……改めて、俺ってぼっちなんだなぁ……(しみじみ泣)。
……んで、消去法で買いに行くってことになるけど、エルは服が無い……というか、エルが着る服を買いに行くわけだから着いて来れない訳で、となると一緒に来てくれるような女友達の居ない俺は一人で女性の服を買いに行くことに…………
「うがああぁぁぁっ!!」
「きゃっ……きゅ、急にどうしたんですか?」
俺がこのどうしようもない状況を嘆き、咆哮すると、ビクッとエルは肩を震わせて驚いた。
「あ……すまん、驚かせた。今のは……まあ気にしないでくれ」
「そう……ですか……」
流石にこれから俺が行うことになってしまう行為を説明するのは気が引ける。説明なんてしたら、軽蔑されてしまうかもしれないし……こういうことは裏で全部済ませた方が圧倒的に良いよな、うん。
つか、取り敢えずエルになんか着せた方がいいよな。一時的な打開策として俺の服を着せるしかないけど。
エルに「ちょっとここで待ってて」と言って、俺は自分の衣服が入っているタンスに向かった……が。
――丁度そのタイミングで、俺のもとに一枚の紙が浮遊してきた。いや、どういうこっちゃ。
浮くのはまだわかる。いや、わからんけども。でも風で飛んだりするからまだいいとしよう。
だとしても……異常だ。俺の真ん前にビタッと静止している。考えてみれば風なんて吹いてねぇし……まさかまた神様とか言うクズの仕業か?
そんな俺の予想は見事的中。
先程と同じように白紙だった紙にどんどんと文字が現れてくる。
正直なところ今すぐにでもこの紙を破り捨てたいが、破られてもわざわざ送って来たんだ。何か重要なこととか書いてあるかもしれないし、一応目だけは通すか。
『伝えたいことを言い終える前に破り捨てるのは止めて欲しい。まあ、破り捨てた理由は察しがついているが……そんなことより、本題に入らせてもらう。
先程可愛がってくれ、と言ったが、急に言われても困るだろう。そこで、こちらからもかかる迷惑を最低限にしようと思う。
まず、金銭的な問題についてだが、彼女を養うにあたって一千万円を君のもとに後程届けさせてもらう。銀行の口座に入金する予定だが……現金がいいということなら現金で届けることも可能だ。
次に、君は恐らく今彼女の衣服について悩んでいることだろう。こちらとしても失敗してしまったなと反省しているので、彼女の着る服はこちら側で用意することにした。下着等も含めて、だ。もちろん、用意した服以外でもいいが……有効利用してくれると有り難い。
加えて、彼女の戸籍もこちら側で用意させてもらった。戸籍上の名前は美濃部エル。君と同い年だ。年齢も君と同じにしておいた。設定上、君とは遠い親戚ということにしている。……くれぐれも、彼女が天使であることを口外しないように。
それと、彼女は君の高校に通う手はずになっている。君が高校に行っている間に放置させるのは良くないと判断したからだ。入学手続き等も神の力で全部やっておいたから君は特にやることが無いのだが、一応報告だ。制服の方も後程衣服と一緒に届くだろう。ちなみに、彼女にこのことは伝えていないので、君の方から説明をお願いしたい。もっとも、あと少ししたら君の学校は夏休みに入るだろうが。
最後に、一つだけ。
彼女を悲しませるようなことはしないでくれ。それは神への冒涜と判断し、出来る全ての力を使って君を不幸へと誘おう。
では、よろしく頼んだ
追伸 エルという名前、いいと思うぞ』
……………………長い。めっちゃ長い。
全てを読み終えた俺は、ふっと息を吐く。
……取り敢えず初めにひとつ言わせてもらおうか。
――いや、過保護かよ。
☆あとがき
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