私、捨てられたんです

「―――私は天使……いや、天使です……捨てられましたけど」


「……あ~天使ね~……天使、うん、よくいるよね~……」


 偶に空とか飛んでるよね……見たことないですけど。


 というか、捨てられたって言った?

 え、何この子ゴミだったの? こんな可愛い子が? ゴミなら俺が回収したるぜ!


 ……とまあ既に俺の頭は混乱中。

 自分が何を言っているのかさえ分からない。……おい誰だ、そんなのいつものことだって言ったやつ。出てこいやオラ。言ってくれる友達がいないんでしたっけ俺には(泣)。


「……なるほど。これがいわゆる現実逃避ですか……」

「俺を参考にすな。いや実際にそうだから何とも言えんが」


 どこかへ飛んで行った俺の思考回路を無理やり連れ戻し、改めて理解しようと試みる。


 彼女は自分のことを天使……じゃなくて元天使と名乗った。

 果たして、本当なのか……?

 確かにいきなり現れたりしたけど、天使なんているはずがないだろ。


 しかも捨てられたって言ったよな……?


いろんな疑問のせいで頭がごっちゃしてるが、取り敢えず聞いていこう。


「まず質問。君は本当に天使?」

「元、ですけどね……」

「それを証明できるものは?」

「……ありません。でも、それは貴方に『貴方が人間であることを示せ』と言ってるのと同じだと思いますよ」

「む。確かに」


 あくまで、自称でしかないというわけか。証拠も何もなければ信じにくいが、取り敢えず彼女を本物の天使と仮定しよう。


「……あ、ってか手紙みたいなのあったな」

「手紙……ですか?」

「ああ」


 段ボールに入っていた小さな手紙、無関係というわけではなさそうだ。


 中の紙が破れない程度で強引に便せんを破り、紙を取り出して読もうとするが……白紙。


「ナメとんのかゴルアァァッ!」

「ちょっ、待ってください!」


 あまりの怒りに思わず破ろうとしたが、そんな俺の腕を掴んで止めてくる全裸の天使様。

 そして、密着する肌。おっふ…………


 ……冷静。冷静にだ、俺。こんなことで動揺してはいけないっ! 俺はクールな男…………よし。


「とととととと取り敢えず体隠しといてくれ!」

「え、あ、はい……」


 こちらがものすごく動揺しているというのに、向こうはどこか他人事のような反応。もう僕わかんないです! 何? 天使様ってそういうの気にしないの? だから天使なの? ぼくよくわかんないっ!


 頬を思いっきり叩いて正気に戻ると、再び体を隠した天使様に尋ねる。


「……あーその、なんだ。さっきはなんで止めたんだ?」


 恥ずかしながら完全に正気に戻れていない俺。

 どうしても先程のことを思い出してしまう……うん、もうそれについては考えないようにしよう。じゃなきゃ忘れられない。正直に言えば忘れたくないけどさ。紳士たるものあの記憶は抹消すべきだろう。


「もうちょっと待ってください……ほら」

「ん? ……うわっ」


 白紙の紙に、どんどんと文字が書かれていく。なにこれ凄い。


「これは……?」

「多分ですけど……神様たちが実際に私が天使だと証明するために、普通の人とは違う存在だと表現したかったんだと思います」

「……なるほど?」


 ってことは、この天使様が本物ってことを神様が何かしらの力を使って証明したかったってことか。よくわかんないけど、この演出が彼女が天使であるということの証明なんだな。証明と明と言っていいかまだわかんねぇが。


「んで、肝心の文章はというと……」


『君のもとに、少女が届いただろう。その子は天使だ。彼女のことが不要だと思ったがために、人間として君のもとに送らせてもらった。君のもとに届いたのは偶然。ランダムに選ばれたのだ。可愛がってあげてくれ』


 ……破っていいかな?


「不要って、どういうことだ……?」

「そのままです。私は神様に捨てられたんです」


 だからさっき捨てられたって言ってたのか。納得できないけど納得した。


「なんで?」

「理由は……わかりません。私自身も、気付けばここに居ました」


 それを聞いて、俺は自分の中で怒りが湧き上がってくるのを感じた。


 不要だから捨てるって?

 無責任だ。

 それもこんなに可愛い子を……許せん。


 ビリッ


「あ」

「こんなもん捨ててやる」


 神様からの手紙らしきものを怒りに任せて散り散りにして、ゴミ箱に捨てる。


 何が可愛がってあげてくれ、だ。

 本来ならお前ら神様がやることだろうが。いや、知らんけどさ。

 それでも、責任くらい持てよ。


「ちょっと、何やっちゃってるんですか!」

「知るか」


 俺は動揺している天使様の言葉を受け流し、ビシッと彼女に向けて指を差した。


 決めた。

 これはもはや、使命なんじゃないかと思う。

 それほどまでに、俺は心に深く決意した。


「いいか、よく聞けよ」









「―――俺は、君を全力で可愛がる。それこそ、俺のもとに来れて幸せだと思わせるくらいにな」






☆あとがき

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