お届け物でーす!

 とある休日。


 休日とは言えど時間を無駄にするのは勿体ないと考える俺、美濃部拓は、いつも通り八時には目を覚ました。


 親に「人生経験だ」と言われて、まだ高校生なのに一人暮らしを強制させられたのだが、最近はもう慣れて、今までの暮らしよりも楽しんでいる。

 家事など、自己管理すべきことがたくさんあるのだが、それを考慮しても「一人暮らしの方がいい!」と主張したいほど自由で、かつ楽しい。是非とも皆さんにお勧めしたい。


 とはいえそれは家事が出来るからであって、出来ないのなら大変だ。

 最近はコンビニ弁当も冷凍食品も進化してるって聞くけど、健康面で考えれば手作りには負けるだろ。楽さで言ったら負けるかもだけど。というか圧倒的に負けるけど。コンビニ弁当なら作る時間も、片付ける時間も省略できるし。


 あと掃除。これも大事だな。

 部屋が汚いと、女子を招いた時に幻滅されてしまう……ん? そんなことはどうでもいいって? だから君は童〇なんだよ。……とか言う俺も経験無いけどね。こんなに部屋綺麗なのになぁ。あ、そもそも家に招くほど仲いい女子がいませんね。家以前の問題。やっぱこの世はコミュ力よコミュ力。こみゅちから。


 俺はベッドから起き上がって、大きく伸びをする。凄いバキバキ言ってる気がするのは気のせいな。断じて昨日夜遅くまでパソコンに向かってゲームをやりまくっていたせいで体が痛いとか、そういうわけじゃない。俺は健康人間だからな。料理自分でしてるし、うん。


 あらゆる節々が痛む体を動かして、カーテンを開ける。

 窓の向こうには、澄み切った青空。今日はいい日になりそうだ、うん。

 梅雨がついこの前開け、本格的に夏が始まっているために今日の気温は結構高い。30℃越えだとか。地球温暖化ですなぁ……。


 早速クーラーを起動させて、部屋の温度を低くする。

 ……暑い。早く冷めろ。

 冷房の設定温度を20℃にまで下げて、冷えるのを待つ間に、俺は立ち上がって朝食を作るためにキッチンへと向かった。


 歩くたびにガンガンと頭が痛むが、これは断じて昨日四時過ぎまでゲームをしていたからではない。単純に寝不足なだけだ。俺は健康人間だからな。カロリー〇イト栄養だってちゃんと取ってるし。

 フラフラとした足取りで冷蔵庫まで無事たどり着き、昨日の夜の残りの肉炒め(野菜比率は低め)を取り出す。やっぱ肉って美味しいよな。肉しか勝たん。肉最高。


 電子レンジで加熱し、冷凍庫からも冷凍したご飯を取り出す。

 肉炒めの加熱後にご飯も加熱し、お茶碗に移せば今日の朝食の出来上がり!

 さてと、食べるか――



 ピンポーン



 うおっと、宅急便か?

 うちに来るような友達はいないし、親だって来るときは連絡が来る。消去法で宅急便だな。友達欲しい(定期)。できれば彼女も。……ちょ、「お前には無理だ」って言ったの誰だよぶちのめしたるから名乗り出ろや。


 インターホンのモニターを除けば、少々大きめな段ボールを持ったお兄さんが。


「はーい」

『お届け物でーす!』

「今行きまーす」

 

 どうやら朝ご飯は少しお預けのようだな。

 ……にしても、なんか俺頼んだっけ? 記憶ないぞ。

 親からの仕送りなんて来たことないし、来るならネットで注文したものくらいだ。でもここ最近ネットショッピング使った覚えないぞ?


 取り敢えず玄関に置いてある判子を持って、ドアを開ける。


「お疲れさまでーす」

「ここに判子お願いします」


 グッと判子を押して、段ボールを受け取る……って、見かけによらずかなり軽いぞ。空なんじゃないかってレベル。


 荷物を受け取り終わってドアを閉め、早速開封。

 宛名とかも見るべきなのだろうが、生憎俺は一人暮らしだし、配達員さんに何も聞かれなかったから宛名は間違えていないはず。そんなことより俺は中身が気になるぞ。なんでこんなに軽いんじゃい。


 ハサミでガムテープ部分を切り裂いて、豪快に開ける……が、


「……手紙一つ?」


 中には手紙らしきものが入っていただけ。いや、なんでや。

 こんな大きな段ボールを届けておいて、中身が手紙一つだけとか……迷惑だ。それなら封筒でいいじゃん! 大きな段ボールだったからなに入っているのか期待してたのによぉ。俺の期待を返せ!


 送り主に文句を言ってやろうと、今更ながら箱の表面にあるであろう伝票を見ようとしたその時。


「うわっっ!」


 いきなり視界が真っ白になった。

 白と言っても眩しさによる白で、視界が奪われる。というかこの光量、目が失明しそうだ。失明したら慰謝料も払ってもらお、送り主に。


 遅いとはわかっていながらも目を閉じ、瞼越しでもわかる明るさが収まるのを確認してから再び目を開く。


「……あれ、普通に見える」


 失明とまではいかなくても、あれくらいの光なら瞼を開けた後もしばらくぼんやりとはするだろうに、光る前と視界が何ら変わりもない。あら不思議。

 唯一変わったことといえば、目の前に一糸まとわぬ金髪美少女が現れたことくらいだ。うん、それだけ――


「って、ええええええええええ!!!」

「きゃぁぁっっ!」


 俺の叫び声によって少女は目を覚ましたのか、小さく声を上げた。


 いったん落ち着け、俺。

 クールに、冷静にこの場を認識しよう。クールな俺はカッコいいはずだ。くーるいずべすと。やっぱ時代はクールビズだよな、うん。……いや、自分で言っといて、全く意味わからんて。取り敢えずあの子可愛かったな。(←ここ重要)


 んなこと考えている場合じゃなくて!

 とにかく服! 布! なんか無いか!


 俺は即座に周りを見渡し、目に入った布を少女に投げた。

 

 なんでこんなところに居るのかなんて今は良い。

 それよりまずはこの目に毒なものを隠さなければ。……知ってるか? どんなにいい薬も飲みすぎちゃ毒になるかもしれないんだぞ。良薬口に苦し……じゃなくて。えっと……これじゃあ俺がバカなのがバレちまう。元々知ってたとか言うなし。


 そんな風に頭の中が大混乱に陥っていると、不意に目の前の少女が声を発した。


「……これ、何ですか?」


 声可愛いなチクショウッッ!!!


 俺はなるべく彼女の方に視界を向けないようにしながら、「なんでもいいからそれで体を隠せ!」と悲鳴に近い叫び声をあげた。最早絶叫だった気もする。

 見たくないわけじゃないし、どっちかって言うと襲いたい……あ、何でもないです、今の聞かなかったことに。オフレコでおなしゃす。


「……これでいいですか?」

「……っっ! ……ま、まあいいだろう」


 彼女に投げたのはどうやら俺が先程まで使っていた掛け布団。

 一応体の大体は隠されているのだが、それでも布団からはみ出して見える生足などによって、非常に興奮させられてしまう。彼女の纏っている布団が先程まで俺が暑いながらもかけていた布団と考えると、余計に。煩悩がヒートアップしてくぜ☆


 俺は自らの欲望を抑えながら、頑張って彼女に問う。


「君は……誰なんだ……?」

「私ですか。そうですね……」






「―――私は天使……いや、天使です。……捨てられましたけど」





☆あとがき

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