無題

誰かに会いたいと思うなんて何時ぶりだろうか。

高校生……いや、学生だと名乗れた頃は暇があれば友人たちと遊びまわっていた気がする。

じゃあ、必要以上に人と会わなくなったのは何時からだろう。

答えは簡単。この仕事を始めてから。

殆どのことがパソコン一つあれば済んでしまうこの仕事を始めてから、そこそこ整っていた生活リズムは狂いまくってるし、仕事が忙しい、とそれっぽい言い訳をしながら外に出る機会がぐんと減った。

おかげで学生時代はめったなことで体調を崩すことなんてなかったのに、今では季節の変わり目には熱を出して数日間寝込む、なんてことも少なくはない。

気をつけなきゃな、なんて思いながらも、自分のことは後回しにしていたら、すっかりこれが普通になってきてしまっている。

――そんな矢先に、メッセージアプリの通知に表示された懐かしい名前。

ここの日かこの日、暇なら遊びに行かないか、なんて律義に日付まで指定されたお誘いの文言を目で追い、思わず頬が緩んでしまった。

きっと、日付まで指定しないとこの誘いが流れるだろうと読んでのことなのだろうが、わざわざ選択肢を作って選ばせてくるあたり、逃げ場をなくすのが相変わらず上手い。

予定としてはどちらも空いてはいるが、どうしようか。

今は仕事も落ち着いている時期だし、急な予定変更がなければ大丈夫だと思うけど、でも生活リズムをある程度直さなくては、昼夜逆転のままじゃいけないしな。

……そんなことを考えていたら、いつの間にか結構な時間が経っていたらしい。

キッチンから漂ってきた焦げ臭いにおいが鼻について急いでにおいの元に向かうと、トースターに突っ込んでおいたパンがすっかり焦げ付いてしまっていた。

あーあ、なんて独り言ちながらもトースターからパンを救い出し、苦笑いをする。

返事は、これを食べてからゆっくり考えればいいか。

多分、メッセージの送り主は、俺からの返事はゆっくりになるということはわかっているはずだから。


焦げたトーストは、苦いのにやたら美味しかった。

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