秘密の
「ねえ、これは秘密の話なんだけどさ」
ああ、またか。
こいつからこの切り出しをされたとき、半ば反射のようにそう思ってしまった。
こいつは、たまにこう言いながら空想上の話を投げかけてくる。
過去には実は魔法が使えるんだ、という一発で嘘だとわかるものから、ペットを飼い始めたんだ、なんていう嘘か本当かすぐにわかりにくいものまで様々だった。
今度は何を言い出すんだ、と溜息を吐き出し、目の前の人物の話の続きをおとなしく待つ。
またくだらないことなんだろう。そう、根拠のない確信がこの時まではあった。
「僕さ、あと一年生きられないかもしれないんだって」
そう言うと、すっといつも浮かべている薄気味悪い笑みが溶け、変わりに、悲しそうに、悔しそうに顔を歪めた。
「……は?」
流石に、いつものようにはいはい、じゃ済ませられなかった。嘘としても趣味が悪すぎるだろう。
だけど、こいつはいつも、こうやって“秘密の話”を持ち掛けてくるとき、人を困らせる嘘は吐いてこなかった。
じゃあ、この話は本当なのか?
でも、目の前のこいつは、いつも通り変わりなく俺の前にいる。そんな前兆は、何もなかったはずだ。いや、もしかしたら俺が気付かなかっただけで……。
……駄目だ。嘘じゃないと信じたいのか、こいつ自信を信じたいのか、わからなくなってくる。
ぐるぐると思考が空回りして、頭が痛くなってくる。
こめかみにぐっと指を当て頭痛を鎮めると、その動作を見ていた奴が、からからと俺の苦悩を払いのけるように笑い出す。
「そんなに思い詰めることないのに。僕のことでしょ?」
どうせ、今回も嘘だよ、とでも言いたげにそう言うこいつは、さっきの複雑な表情の面影は一切なく、またいつもの笑顔が張り付いていた。
ああ、なんだ、嘘なのか。
趣味が悪いぞ、と注意するよりも前に、よかった、と安堵の溜息を吐いてしまう。
嘘だったならよかった。嘘なら、この後いつものように、何言ってんだよお前は、と一蹴することができる。
「でも、信じてくれたんだ。優しいなあ」
――俺に聞こえないように、と小声で呟いたであろうその言葉が、偶然耳に届いてきてしまい、持っていた煙草を静かに灰皿に押し付けた。
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