第55話ー⑧ 暴発


 一九時五二分

 首相官邸

 シェルター内危機管理センター


「軌道上の艦隊は何をしていた!」

「首都上空に侵入を許すなんて……!」


 閣議室から慌てて地下のシェルター内に設けられた危機管理センターに退避した閣僚達は、口々に防衛軍に対する悪態を吐いていた。


「すでに合同庁舎も攻撃を受けています。また、戦艦級を中核とした部隊が、議事堂方面に向かっているとのこと。それに、これをご覧ください」


 首相官邸守備隊の士官は、壁のスクリーンに動画を表示させた。


『私は帝国宰相、柳井義久だ。これより帝国は叛乱を画策した内務大臣、国防大臣以下、バーウィッチ自治共和国現政権と高級幹部を拘束するため、軍事行動に入る。自治政府職員、下士官兵卒、そのほか多くの者について、命までは取りたくない。投降せよ。武装解除し、我が軍の指示に従い命令を待て。帝国宰相の名にかけて、罪なき者まで処罰するようなことはせず、身柄の安全を保証する』


 帝国側はバーウィッチ防衛軍の各部隊間通信を遮断すると共に、柳井のメッセージを動画、文書の形で送っていた。自由連盟支持者の中にもこの性急な動きについていけないものも多く、防衛軍内部も一枚岩ではない。柳井の予想は的中していた。


「このようなメッセージが軍用回線を通じて流れております。兵達にも動揺が広がっており、すでに大隊ごと持ち場を放棄した事例も……」

「――っ」


 金沢内務大臣は呻き声のような、溜め息のような声を僅かに発するだけだった。


「金沢! あなたどうするつもり!?」

「なに……?」

「あなたが後先考えずに独立宣言などするから!」


 ブレンダ・ヒルトン産業大臣が内務大臣に詰め寄ろうとしたとき、シェルター内に乾いた破裂音が響いた。


「座っていろ! 我々はもう後には引けないのだ!」


 天井のコンクリートがパラパラと剥がれて落ちる。さすがに同僚を射殺するほど愚かではなかった内務大臣だが、詰め寄ろうとしていた産業大臣の蔑むような目に、内務大臣は目をそらした。



 同時刻

 インペラトール・メリディアンⅡ

 艦橋


「閣下、では事前の打ち合わせ通りに」

「ああ、やってくれ」

「対地誘導弾、一番から六番まで装填。目標、バーネット橋、アイヒラー橋、ポチョムキン橋。撃て!」


 短時間での作戦遂行のため、市街地や宇宙港に展開している警察機動隊や防衛軍陸戦部隊、市民連合が動員しているデモ隊などの官庁街侵入を防ぐためにも、叛乱首謀者達の逃亡ルートを潰すためにも、柳井は官庁街に通じる橋を落とすように命じていた。


 ブロックマイヤー大佐の指示で放たれた誘導弾は、あやまたず三本の橋の橋脚を打ち砕いて崩落させた。


「目標の破壊を確認」


 対地攻撃の観測を行った副長の報告に、ブロックマイヤー大佐は満足げに頷いた。


「よろしい……対空監視を厳に。交通艇などで逃げられる可能性もある。もっとも、逃げたところでどこにいくのやら……」


 バーウィッチ自治共和国首都星チェルーズの地表面の九割以上は未だ手付かずの荒野である。地球のように大量の人口を抱えるわけでもないのなら、センターポリス周囲しか開発が進まないのは道理だった。無秩序な初期開拓時代のツケだな……と柳井は煌々と輝くセンターポリスの夜景と、それ以外の漆黒の闇を見て思った。


 柳井が物思いにふけっている間にも作戦は進み、インペラトール・メリディアンⅡも高度をいよいよ下げて、市街地のビルをかすめるような低空で官庁街に近づいていた。


「まもなく議事堂上空」

「機関微速、高度一〇〇まで下げ! 対空レーザー、地上掃射開始! 副砲は榴散弾装填のまま待機! 陸戦隊出撃!」

『了解! 降下! 降下! 降下!』


 第三格納庫に待機していた陸戦隊が、交通艇と内火艇を使って議事堂へ突入を開始する。さすがに携行火器の類いは電子戦でも掌握できないため、対空ミサイルや機関砲などの迎撃はあるが、それも近衛艦隊各艦の対空レーザーや電磁砲による地上掃射により叩き潰される。


 帝国軍が細かい手順を省いた、ともすれば乱暴な鎮圧を行うのは、強襲揚陸艦をはじめとする艦艇で直接目標地点に陸戦部隊を送り込めるからでもある。戦闘艦艇さえ排除してしまえば、地上の防空師団や陸戦部隊の持つ兵器だけで艦艇を撃破するのは難しいのが現実だった。


「地上の指揮は大尉に一任する。艦長、地上支援は適宜頼む」

「はっ!」


 柳井が指示を出し終えたタイミングで、通信士官が振り向いた。


「閣下、第七四電子戦隊より通信です」

「松本大佐、ご苦労。おかげで楽に降りられたよ」


 電子戦下とはいえ、通信が出来ないのはバーウィッチ自治共和国側だけで、インペラトール・メリディアンⅡ他帝国側部隊は問題なく通信出来た。


 メインスクリーンに映された松本大佐の顔は、自信に満ちあふれていた。


『お褒めにあずかり光栄です』

「第七四電子戦隊は引き続き、敵軍無力化を続けてくれ。それと、兵士、政府職員、市民向けのメッセージも引き続き流してくれ」

『はっ!』



 二〇時三〇分

 東部軍管区

 首都星ロージントン

 ロージントン鎮守府

 東部軍管区司令部

 司令室


「バーウィッチの鎮圧が開始されました」

「さすがに武力行使無しではどうにもならなかったようだな」


 粕川参謀長の報告に対し、グライフ元帥は溜め息交じりに返した。


「しかし宰相閣下は官庁街のみを集中的に攻略している模様です」

「攻勢電子戦とはまた凝ったことを……しかし電子戦隊をこうやって使うとはな」

「東部軍参謀本部でも、電子戦の研究は進めていますが」

「我々は賊徒との戦闘と、大兵力での制圧作戦に慣れすぎた。賊徒相手には使えない手口とはいえ、電子戦の重要さはブルッフハーフェン事件で証明済みだ」


 柳井の立てた作戦は、自分たちと同じ帝国軍規格のシステムを使っているからこそ出来たことだと参謀本部は理解していた。


「しかし、流血が少ないならそれに越したことは無いんだ。ここは宰相閣下の手腕を拝見するとしよう」


 グライフ元帥にしては冗談めかした調子だったが、参謀長達に向けた目線は、真剣そのものだった。



 二一時〇九分

 迎賓館

 臨時司令部 


 柳井は第一〇二四降下揚陸師団第四連隊が制圧した迎賓館を臨時の司令部に定め、鎮圧作戦の現地指揮を行っていた。インペラトール・メリディアンⅡ他、近衛艦は上空待機して散発的に対地攻撃を行っている。


「敵守備隊の官邸内への後退を確認。いくつかの部隊が投降している模様」


 各所の状況を整理しているハーゼンバインの報告に、柳井は安堵しつつ官庁街の地図を見つめていた。


「これなら明け方には片がつくかな……」


 官庁街制圧を開始して二時間ほどが経っていた。すでにあちこちの防衛線が崩壊した防衛軍の動きは、通信妨害や柳井の降伏勧告により統制を欠いていた。


「すでに官庁街の六割を制圧。こうも脆いと些か拍子抜けですな」


 第一〇二四降下揚陸師団参謀長の石原中佐は、師団参謀達と共に官庁街制圧作戦の事実上の統率を行っていた。本来この役目は陸戦指揮官で最上位階級の張師団長の役目だったが、最前線での陣頭指揮を好む師団長の趣味を優先し、後方からの統率は参謀長が行っていた。


「残る重要施設としては首相官邸、議事堂ですね。合同庁舎ビルが短時間で攻め落とせたので、そちらから増援を回すことも出来ますが」

「細かなことは石原中佐に一任する。私は艦隊戦以上に陸戦は素人だから」


 ラングレー治安維持軍中佐らが制圧を担当した政府合同庁舎ビルについては、さしたる抵抗もなく明け渡されたという報告が入っており、柳井はホッと胸を撫で下ろしていた。事前の情報収集の段階では、業務中だった官僚や一般職員も庁舎を出ることを許可されないままだったという。


「閣下、警察庁警備部長が命令確認のため出頭しました」

「通してくれ」


 柳井の仕事と言えば、投降してきた部隊の部隊長の謁見に対応することだった。


「アマドル・セラ警備部長です」

「警視総監はどうした」

「叛乱に加担しようとしたため検挙、拘束しております」


 治安警察は元々内務省の所管とは言え、そもそもが治安維持が担当であり、叛乱がどう進行しようが仕事としては大差が無い。


「なるほど。ニューミドルトンの警備は一任する。ところで、市民の様子はどうだ?」

「市民連合のデモ隊、野党支持者のデモ隊が入り乱れておりますので、警察はこれらの引き離しと誘導に当たっております」


 上空からある程度市街地の状況も見ていた柳井としては、妙に統制が取れたデモ隊の動きを不思議に思っていたが、セラ警備部長の手配した機動隊によるものだった。これにより帝国軍が市街地制圧を行う手間は大幅に削減されたことになる。


「わかった。一つ聞いておきたいのだが、警備部長の意向は全警察の統一見解か?」


 これは重要な点だった。警察が大きく二つに分裂していては、官庁街を制圧した後に、市街地の警察部隊の対処も必要だったからだ。


「残念ながらそうではありません。一部の機動隊と公安部は私の指揮下になく、現在説得を続けております。大半は帝国と自治共和国の法と秩序を守るべく、私の指揮下にございます」

「わかった。当面は警備部長に任せる。官庁街が片付いたら、叛乱を続ける機動隊の鎮圧に我々が赴くことになるが」

「はっ! その前に何とか収拾を付けたく思います。それでは」


 これで惑星上の治安維持について一定のメドがついたわけで、柳井としては肩の荷が一つ下りた思いだった。


「閣下。議事堂制圧部隊の近衛陸戦隊より、最後の抵抗部隊の排除を完了したと報告がありました。議事堂内の職員、議員は無事、とのこと」

「わかった。中佐、しばらくここは頼む。ハーゼンバイン、バヤールもこちらに待機。トビーは私と来てくれ」

「閣下? どこへ?」

「議員の先生方に、お詫びを申し上げねばな」


 呆気にとられたハーゼンバイン、バヤール、石原中佐を置き去りに、柳井は近所のコンビニにでも行くような気楽さで議事堂へと向かった。



 二二時一〇分

 首相官邸


「敵守備隊沈黙!」

「よし! 第一連隊の第一大隊は俺に続け。第二大隊は警戒配置。それ以外の部隊は周辺施設の制圧に回れ」


 張大佐率いる第一〇二四降下揚陸師団は、首相官邸とその周辺施設の攻略を進めていた。殆どの官公庁が合同庁舎ビルに入っているとはいえ、自治共和国の発展に伴い分室や部署ごと別のビルに入っていることは珍しくなく、それらに軟禁状態になっている者の保護も、今回の作戦内容の一つだった。


「連中本当に準備不足だったんだな。張り合いがない」

「楽な仕事でいいではないですか。民間人もろとも無差別なんて言われないのだから、結構なことです」

「それもそうだな」


 副官のヴァシーリエヴァ大尉の言葉に頷きながら、張大佐は首相官邸の玄関へと向かった。


「トラップの確認は」

「完了しております。異常ありません」

「では突入! 首相閣下の保護と閣僚を確保し、戦闘中止命令を出させるんだ」


 いの一番に飛び込んだ張大佐に続いて、降下揚陸師団の兵達が続いた。


「留守か? 呼び鈴を鳴らしてから入るべきだったか……?」

「バカなこと言わないでください。地下のシェルターを守備しているものと」

「わかっているさ」


 肩をすくめた張大佐は、そのまま地下へと向かった。



 二二時一五分

 自治議会議事堂前


「すでにメリディアンⅡ陸戦隊とザンクト・ベルテン陸戦隊が議事堂内を占拠したようです……しかし閣下自らお出でになるとは」


 議事堂の外を警備していたザルツブルク陸戦隊隊長の大尉が、驚きを隠せない顔のまま柳井に報告していた。帝国宰相ともあろう者が、僅かな供回りと共に、ヘルメットや防弾チョッキを着けているとは言え生身を晒しているのだ。


 官庁街全体で見ればまだ戦闘が終わったわけではないので、銃撃音も続いている。


「まあ、それが仕事で存在意義だからな。外周警備は頼むよ、大尉」

「はっ!」


 柳井が議事堂に入ると、玄関ホールには投降した防衛軍陸戦兵が整列させられていた。


「私が来ても顔色一つ変えないとはな。いっそシュプレヒコールでも上げてくれるかと思ったが」

「大半の兵士は思想を持って従軍しませんから。おそらくなんでこんなことになっているかも理解出来ていないんでしょう」


 柳井は妙にガッカリしたような反応だったが、ビーコンズフィールド准尉は冷静に指摘した。

 


 同時刻

 首相官邸

 シェルター内危機管理センター


「正面玄関が突破されました。地上部は完全に制圧されたものと」


 首相官邸守備隊の士官の報告に、シェルター内危機管理センターの一同は凍り付いた。


「すでに兵達の間ではサボタージュや集団脱走が相次いでいます。中級指揮官もこれ以上の抵抗には消極的です」

「金沢! ともかく帝国と話をつけるのだ! それしかあるまい!」


 ナンシー・ユン防衛大臣の声に、金沢は首を巡らせた。


「……そうだ、我々には人質がいる。官僚、議員、そして――」


 なお、この時点でまだ首相官邸には議事堂陥落の報告は入っていない。


 内務大臣は、部屋の隅の椅子に腰掛けている男に目を向けた。


「首相閣下、あなたもだ」

「私に人質の価値など無いぞ」


 趙梓宸ちょう ししん自治政府首相はあっさりと言い放った。


「柳井宰相によれば、自治政府首相の身柄の安全を保証する責任は我々にあるそうだが、同時に帝国もあなたの身柄の安全を法的に守る必要があるのだ。あなたは我々の首相であると同時に、星系自治省の官僚なのだからな」


 内務大臣が顔を引きつらせて笑みを浮かべたように見せたが、首相は嘲るような笑みを浮かべた。


「帝国に唾を吐きかけた同じ口で、その帝国の法によって自らの身を守ろうなんて都合が良すぎるんじゃないか?」

「何だと!?」


 首相の言葉に、内務大臣は声を荒げた。しかし首相は毅然と内務大臣の憎しみのこもった目線を受け止め、立ち上がり、危機管理センター内の閣僚達を見渡した。


「お前達の蜂起は何の成算もなく、ただ一時の熱狂を受けて突然思いついただけのことではないか。初等学校の子供が立てた将来の夢と何ら変わりないだろう!」


 もはや星系自治省内における出世レースの心配などしても仕方ない身として、やや自治政府首相の発言は投げやりで、自棄になっているようだったが、同時に今の自治政府首脳達に対しては痛烈な批判だった。


 首相自身も自覚していたが、これをあと一日早く言えていれば、まだ状況は変わったかもしれないのだが、それはもはや意味の無い後悔だとも、同時に思い知っていた。


 これに対して、何の批判も出来ず、ただ立ち尽くした内務大臣を見ていた閣僚達も、何も言葉を発せないままうつむいていた。


「兵を無駄に殺すことはない。今すぐ降伏すべきだ!」


 首相はそう主張したが、閣僚達の誰もそれに頷かない。


「……そうか、今更善人ぶってもしかたないと言うのか……だが私の意志は変わらない。柳井宰相に連絡を取れ」

「何を今更!」

「戦闘中止命令を出すのだ! これ以上の人死にを出すことは無いだろう!」


 防衛大臣と首相が取っ組み合いになっても、閣僚達はそれを眺めるだけだった。


『こちら第一〇二四降下揚陸師団。金沢ジョージ内務大臣以下、叛乱軍の首脳に告げる。直ちに武装を解除し、投降せよ』


 シェルターの外からの降伏勧告が流れ、首相も内務大臣も動きを止めた。


「もはや、これまでか……」


 内務大臣は、近くにあった椅子に腰掛け、力なく呟いた。


「……金沢、一緒に責任を取ろう。もう終わったのだ」

「……責任を取る? バカなことを……そんなことをするくらいなら――」


 首相に言われた金沢は顔を上げ、ジャケットのポケットに手を突っ込んだ。

 


 同時刻

 議事堂


「閣下、何も議会内まで入られずとも……」

「宣伝だよ。議員を救い出したのが帝国宰相。出来すぎたシナリオだが、そのくらいやらないと市民感情を帝国側に引き戻せない」

「それは、そうかもしれませんが……」


 苦言を呈しようとしたビーコンズフィールド准尉が言葉を継ごうとした瞬間。議事堂に激震が走り、廊下の壁が吹き飛び、柳井達も枯れ葉のように吹き飛ばされた。


「閣下! お怪我は!?」


 ビーコンズフィールド准尉が、柳井を抱きかかえる。柳井は右腕を押さえながら立ち上がった。


「大丈夫だ、折れてはいない……」


 柳井の周囲には、握りこぶしほどもある壁の破片が散らばっていた。頭部を直撃していれば死んでいたかもしれないなどと考えていた柳井だが、実際に寸でのところで命を長らえたのだ。あと数歩前に出ていたら、柳井の首はおそらく身体と永遠の別れを告げることとなっていた。掠めた破片で額を切っていた柳井は、血が流れ落ちるのを感じた。


「これは……!」


 柳井が目にしたのは、先ほどまでは重厚なレリーフが填め込まれていた扉とその周辺の壁が吹き飛んでいる異様な光景だった。


 扉があった場所から見えたのは、煙の立ちこめる下院会議場の惨状だった。吹き飛んだ天井、崩れ落ちたシャンデリアの破片が散乱し、バラバラになった議席の合間には議員と思われるものが蠢いている。


「これは……」

「閣下!」


 メルケション大尉が煤まみれの顔をそのままに、柳井に駆け寄った。


「大尉、何が起きた!?」

「上院議場、下院議場にいた兵士を排除後、議員達を外に誘導しようとした際に何者かが爆薬を起爆させた模様! 死傷者多数! すでに救護班を要請しておりますが……!」


 その報告を受けていた柳井は、ふと、割れ砕けた窓から見える黒煙に気付いた。


「閣下! 首相官邸でも爆発! 突入部隊を率いていた張大佐が負傷したとのことです!」


 近衛陸戦隊の士官の報告に、柳井は体温が一気に下がるような錯覚を覚えた。


「ともかく生存者の救出! 交通艇を出して医者と看護師、ありったけの資材を官庁街へ運ばせろ! 各艦医療班もだ! 爆発物がまだあるかもしれん! 第一〇二四師団と警察の爆発物処理班もこちらに寄越すように!」

「閣下、ともかく応急処置だけでも」


 護衛隊の兵士が怪我の応急処置をする間、柳井はほぞをかむ思いだった。官庁街の橋を落としたのは戦術としては正解だったが、今となっては市街地の病院へのアクセスを断ち切ったことになる。


「閣下、幸い打撲で済んでいます。少し不自由ですがしばらくこれで」


 柳井は頭に包帯、腕は三角巾で覆われた状態だった。


「閣下、まだ爆発物が残っている可能性があります。ここは我々に任せて、迎賓館へ」

「しかし……」

「閣下をこれ以上危険に晒せません。それに、閣下には閣下にしかできないことがございます」

「……ともかく制圧は完了した。一度迎賓館へ戻る。大尉、頼む」

「はっ!」


 柳井は護衛隊に伴われ、一時迎賓館へと戻っていく。柳井は煙を上げる議事堂を一度振り返ってから、陸戦隊の装甲車に乗り込んだ。


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