第49話-② 宰相兼臨時総司令官


 一月一五日一七時一五分

 ホテル・トライスター・ブルッフハーフェン

 二一階


 政府閣僚との会談を終えて、柳井は一旦宿泊先のホテルへと入っていた。


「こんなところにまでトライスターグループはホテルを進出させていたのか」


 柳井は部屋の中に置かれたアメニティの袋を取り上げて、驚いたようにつぶやいた。柳井達宰相府の面々はセンターポリス唯一のアッパーミドルホテル――居住惑星ならどこにでも進出するというトライスター・インターステラ・ホテルズ・アンド・リゾーツ系列――に宿泊していた。


 当初柳井は余分な経費だと、空き家になっている総督公邸にでも泊まればいいと言ったが、せっかくなら現地の観光産業に金を落としたほうが良いという宇佐美事務局長の一言でひっくり返った形になる。


 キングサイズのベッドが置かれたスイートルームに一人、柳井は所在なさげだった。ジェラフスカヤら侍従達は下の階のエコノミークラスの部屋だというのに、自分だけこのように豪華な部屋で落ち着かないのが柳井の性分だった。


 ルブルトン子爵がバヤール達を連れて夕食に出かけたため、柳井には雑談相手も居ない。柳井の夕食はこの後、政府閣僚達との懇親会で済ませることになる。


 柳井にとって寝室とは両手を伸ばせば壁に届くような軍艦の個室が日常であって、ホテルの部屋にしても五歩歩けばドアから部屋の端につくようなものが好みだった。寝室の他にリビング、ウォークインワードローブにバスルームと広い部屋はとにかく落ち着かないと、うろうろと歩き回っている。ようやく海棠の間の広さに慣れた柳井だったが、部屋が変わればそれも一からやり直しのような状態だ。


 ようやく腰を落ち着けたリビングのソファで、柳井は翌日の式典で読み上げる原稿の最終確認をしていた。原稿自体はバヤールの手によるもので、柳井が書いても同じようなものが出来上がるだろうという内容だった。


「……」


 窓の外に見える市街地の風景は、イステール自治共和国の首都星ガーディナのセンターポリスと大差ない。こちらのほうが些か緑地や農地が多く見えるのは、開拓惑星の地表面開拓の方針が開拓領主により違ったことと、惑星上の地質状態によるのだろう。


 などと夕暮れの市街地を眺めていた柳井が再び椅子に腰掛けようとした瞬間だった。


 足下の床が突如波打つように揺れ、柳井はもんどり打って床に倒れ込んだ。


「閣下! お怪我は!?」


 近衛軍第一近衛師団第一連隊所属のビーコンズフィールド兵曹長は、柳井の護衛として部屋の前で待機していた。彼に抱き起こされるようにして立ち上がった柳井は、すぐに状況を理解しようと努め、窓の外を見る。黒々とした煙が、階下から立ち上っていた。


「トビー、すまない、大丈夫だ!」

「爆発物と思われます! 危険ですからホテルよりご退去を!」

「爆発!? ではこれはテロか!?」


 叫ぶように言ったビーコンズフィールド兵曹長の言葉に、柳井は思わず叫び返していた。二人とも爆発の大音量で耳が遠くなっている。


「何者かわかりませんが攻撃です! 閣下、お早く!」


 他の近衛兵も部屋に入ってきて、柳井の回りを取り囲む。たいした荷物もない柳井は、愛用のワークステーションだけ折りたたんで背広の内ポケットに入れて部屋を後にした。なお、残りの荷物は片手で持てるようなスーツケースだけで、これは近衛兵により運び出された。


「センターポリス各所で同時多発的に爆発が発生。現在消防、警察、治安維持軍が事態対処を――」


 通路はすでに黒煙が立ちこめていた。柳井は近衛兵に囲まれたまま通路を移動する。口に当てていたハンカチは瞬く間に真っ黒になる。


「自治共和国政府との連絡が取れません。これは――」

「すでにインペラトール・メリディアンⅡ搭載艇がこちらに向かっています。三分後には到着とのことで――」


 移動中も各種の報告が耳に届くが、耳鳴りがひどくて全てを聞き取れない。ようやく屋上への非常階段が見えてきた時、柳井は周囲を見渡して叫んだ。


「バヤール、ハーゼンバイン、ジェラフスカヤ、それにロベール主任とルブルトン子爵は?」

「現在所在不明。ホテル内にはいらっしゃらないようです。通信障害で状況不明です」

「待て、彼らも探してから」

「いけません閣下! 閣下は畏れ多くも帝国を統べる皇帝陛下の重臣であります! これ以上お命を危険にさらすわけには参りません!」

「……わかった、言うとおりにする」


 柳井としては部下を見捨てて自分だけ先に逃げるなど言語道断だったが、ビーコンズフィールド兵曹長の言うことも尤もだった。今の自分の地位ではおいそれと死ぬことは許されない。


「搭載艇到着次第、インペラトール・メリディアンⅡと合流してくれ」

「はっ。搭載艇発進後、メリディアンⅡ以下各艦艇もセンターポリス上空へ移動するとのことでしたから、合流はすぐでしょう」


 柳井達が屋上へ上がるタイミングで、インペラトール・メリディアンⅡの搭載艇が到着。柳井は一時インペラトール・メリディアンⅡでの現状確認を行うことにした。



 一八時二八分

 近衛重戦艦インペラトール・メリディアンⅡ


 すでにインペラトール・メリディアンⅡをはじめとする近衛戦隊はセンターポリス宇宙港を離陸してセンターポリス上空に待機。状況把握と対空監視を続けながら、柳井を待っていた。



 艦橋


「参謀長閣下、柳井宰相をお連れいたしました」


 ビーコンズフィールド兵曹長の報告に艦橋にいたベイカーが、柳井に軍人らしく敬礼をした。


「ご苦労だった、ビーコンズフィールド兵曹長、よく宰相閣下をご無事につれてきてくれた。宰相閣下も、ご無事でなによりでした」

「ベイカー中将。状況はどうなっている?」


 侍従武官長付の従兵から濡れタオルを渡された柳井は自分の顔を拭いながらベイカーに問うた。柳井が使い終えたタオルは煤で真っ黒になっていた。


「センターポリス各所で同時に爆発が発生。テロと見るべきでしょう。被害を受けたのはホテル・トライスター・ブルッフハーフェン、郊外のET&T恒星間通信交換所、センターポリス宇宙港ターミナルビルおよび隣接する防衛軍および星系自治省治安維持軍、治安警察等施設、それに、政府合同庁舎ビル。市内各所多数でも爆発を確認していますが、細かいところまでは不明。通信障害の状況を見るに、近距離通信の中継基地やデータセンターを狙ったものかと」


 侍従武官長として、ベイカーは極めて事務的に柳井に説明した。事態が事態なので、いつものように昔なじみとしてジョークを差し挟むようなことはしなかった。


 ホテルでもトライスター・ブルッフハーフェンを狙ったのは自分が滞在していたからに他ならないだろう、とやはり総督公邸に泊まっておけばよかったと歯噛みする柳井だった。


「……明らかにこちらの頭を潰しに来たか。政府閣僚とは連絡がつくのか?」

「残念ながら、政府閣僚の生存は絶望的かと」


 ベイカーが指示して、メインスクリーンにインペラトール・メリディアンⅡからの望遠映像が映し出される。政府合同庁舎ビルの中程、ちょうど昨日柳井達が会談していたあたりから炎が吹き上がっている。合同庁舎ビルへの消火活動も行われているが、長期にわたり機能を喪失することは疑いなかった。


「ちょうど明日の建国式典に向けた最終調整の閣議が行われていたようです」

「救援体制はどうなっている?」

「消防、防衛軍、警察、治安維持軍はそれぞれ独自に事態収拾を行っているようですが、統括指揮を行う緊急事態庁も機能停止している模様。ちょうどあの爆発があった下のフロアにオフィスが入っていたはずですが」


 上空からの映像でも、すでに爆発による炎上現場の消火活動が始まっているし、救急車とおぼしき赤い光がセンターポリス各所を走り回っている。警察も交通誘導やら現場の封鎖を開始しているように柳井には見えていた。


「本国およびロージントンへの報告は?」

「全回線不通。恒星系外まで出ればなんとかなるかもしれませんが、今は動くべきではないかと」

「……この後、敵の侵攻がありうる、と?」

「可能性は高いと戦隊参謀は申しております、宰相閣下」

「……ともかく情報が欲しい。それにセンターポリス一帯の混乱も鎮めなければ。遺憾ながら一連の事態収拾が完了するか、首相以下政府首脳の生存もしくは臨時政権ができるまで、ブルッフハーフェン自治共和国を中心とした当宙域を皇帝直轄とし、帝国宰相が総督代理として現地の管理に当たる」


 これは星系自治法にある緊急事態に際した措置であり、本来ならば隣接宙域の総督もしくは東部軍管区司令長官がこれを行うことと定められていたが、いずれも指揮の不能な場合もしくは皇帝が必要と判断した場合は皇帝直轄領に編入することも記されている。


 柳井は本来帝国議会の承認が必要な措置を事後承認の形を取り、また責任は自分で負うことにしてブルッフハーフェンを含む第五八三宙域総督代理に自らを据えて、事態収拾に乗り出すことにしたのだった。

 

「まずは現地の救援体制の統合指揮を行えるように、緊急事態庁の残存職員に緊急連絡。臨時の指揮所選定は内務省に行わせてくれ。各所に私が臨時に指揮を執ることを通達」


 近衛士官達は慌てず騒がず冷静に指示に従っていた。近衛軍は皇帝を最後まで守るのが使命であり、最悪の場合は自分以外の帝国軍、帝国臣民が全て敵になる可能性すら考慮している。この程度で動じるようでは近衛は勤まらない。


「それと、全周波通信で構わないから放送の用意。投影機は使えるな?」


 投影機は立体映像を空中や宇宙空間に投影するためのもので、観艦式や閲兵式の際に用いられることが多い。


「使えます。すぐに用意いたしますが、なにをなさるので?」


 艦長のブロックマイヤー近衛大佐が柳井に振り向いた。


「私が直接市民にメッセージを出す。本来は首相や官房長官の役目だが、生死不明では私がやるしかあるまい」


 通信封鎖、爆破テロに続くのは辺境惑星連合軍の本隊の侵攻だとすれば、その前に自治共和国市民に対する降伏勧告や自治共和国政府に対する攻撃を呼びかけるようなメッセージの海賊放送が考えられた。


 これに対して先んじてメッセージを出すことで少しでも状況の沈静化につなげようというのが柳井の考えだった。


「宰相閣下。準備整いました」

「わかった」


 艦橋天井のカメラが柳井を捉えると、インペラトール・メリディアンⅡの下方に全高二〇〇mはあろうかという柳井の立体映像が投影された。


『私は帝国宰相、柳井義久です。明日の建国記念式典に出席するため、この惑星に訪れていました。現在市内各所で爆発を確認。政府閣僚も安否不明の状態です。辺境惑星連合もしくはそれらが支援する反帝国武装勢力によるテロと推測もありますが、詳細は不明です……しかし、市民の皆様の安全はこの宰相柳井が保証いたしましょう」


 柳井にしては珍しい大言壮語だが、人心を落ち着かせるにはこのくらいのはったりは必要だった。


『この後、おそらく辺境惑星連合軍による不安を煽るようなメッセージの発信、武装勢力の侵攻などが考えられますが、市民の皆様は、どうか落ち着いて、警察、消防など非常事態に関する当局の指示をよく聞いて、迅速かつ冷静な行動をお願いいたします。防衛軍はすでに敵勢力への対処を進めるべく動いています。偽情報の流布なども考えられます。通信状態が不安定な中、情報が得られず不安に思う方々も多いでしょうが、当局からの発表、また報道各局からの放送についても順次復旧、発信を急がせます』


『取り急ぎ、まずは火災現場、爆発現場からは離れ、救助活動の支障にならないようにお願いいたします。不要不急の外出を避けてください。自治共和国政府の復旧が完了するまで、私がこの惑星を含む自治共和国の行政責任者となります。重ねてお願いしますが、冷静な行動をお願いいたします』


 柳井のメッセージが終わると、ベイカーが感心したようにうなずいていた。


「さすが宰相閣下、というところね」

「ありがとう。今のメッセージは録画していたな?」

「ええ。定期的に再送するようにしておく」

「よろしく頼む……合同庁舎ビルも考え物だな」


 燃え盛る松明のような合同庁舎ビルを見て、柳井は司令官席に腰を落とした。


「まあ、まさか一度に全員吹き飛ぶとは考えないでしょう、さすがに」


 ようやく調子が戻った柳井とベイカーだったが、近衛士官の一人が歩み寄ってくると宰相と侍従武官の顔に戻る。


「宰相閣下。地上に居たルブルトン皇統子爵より通信が入りました」

「よかった、無事だったか」

「現在、センターポリス沖合の大気改造プラントにいるとのことです。子爵より宰相付侍従三名とロベール開拓主任の無事も報告されております」


 柳井は安堵して頬を緩ませそうになったが、顔を今一度引き締めた。


「わかった。プラントの方が今は安全だろう。必要になったら呼ぶので、それまでは現状で待機と伝えてくれ」

「はっ」

「宰相閣下。防衛軍陸戦総監のコールドマン准将に連絡が付きました」

『コールドマン准将であります。宰相閣下がご無事でなによりです』


 アーノルド・コールドマン准将は四五歳。黒々とした肌に制服を押し上げる筋肉の塊というべき容姿で、いかにも陸戦指揮官というステレオタイプの条件を満たす男だった。熊のうなり声のような声も特徴的だった。


「准将、現在の状況は?」

『現在第一五駐屯地ほか、被害がない基地の駐留部隊をセンターポリスに移送中。救助と避難民誘導に当たらせます。司令部壊滅に伴い、防衛軍の指揮は本官が引き継いでおります』

「司令部が壊滅しているのか」

『センターポリスの司令部に爆発物によるものと思われる爆発を検知。防衛軍司令長官以下、連絡が取れません。生存を確認出来た将官のなかで、私が最上位です』

「現在までの判断は適切だ。よくやってくれた、准将」


 准将の報告に、柳井は頭を抱えたくなったがそれは堪え、准将の判断に礼を述べるにとどめた。


「首相以下政府閣僚が安否不明につき、臨時に私が指揮を執っているが確認しているか?」

『通達は確認しております。閣下、ご命令を』

「よろしい。君を防衛軍司令長官代理に任命する。救助、避難誘導についてはそのまま進めてくれ。この機に乗じて工作員による破壊工作なども考えられるので、重要施設の防護も頼む。防衛軍艦隊はすでに動いているようだが、確認出来ているか?」

『先ほど指揮システムの再構築を完了』

「わかった。責任は私が執るので、准将の最善と思う手段を取ってもらってかまわない。街頭の警備については警察の機動隊などが動き出せば、順次そちらに任せること」

『了解いたしました』


 通信が切られると、続いて柳井は内務省に連絡しようとしたのだが、それを近衛の通信士官が遮る。


「閣下、発信源不明の通信を検知しました。全周波です」

「……モニターに出せるか?」

「出します」


 メインスクリーンに投影された映像は、宇宙空間に真っ赤な辺境惑星連合旗がはためき、勇壮なオーケストラの演奏によるヴァリス・マリネリス解放歌――辺境惑星連合の国歌――が流れていた。


「全周波通信の妨害は?」


 柳井は放送を妨害させようと考えたのだが、通信参謀に確認をとったベイカーが首を振った。


「今それを行うと緊急連絡の無線も封鎖することになる。救助作業に支障が出るわ」

「……仕方がない。彼らのご高説を聞かせて貰おう」


 解放歌が二ループほどしたところで画面が切り替わる。いつものパターンなら、ここで辺境惑星連合軍の政治将校が降伏勧告などを行う。


『ブルッフハーフェンの同志の皆さん。我々は辺境惑星連合、汎人類共和国です』


 柳井の予想に反して、画面に現れたのは普段着に近いラフな格好をした女性だった。背景の映像も、まるで住宅のリビングのようなものだ。映像につけられたBGMもどこかファミリードラマを思わせるリラックスしたもので、先ほどまで流れていた解放歌との落差に、柳井は目眩を感じた。


『帝国皇帝を僭称する独裁者の圧政から、我々の同志たる皆さんを解放する。それが私たち辺境惑星連合の使命。すでに、私たちの同志による鉄槌が、皇帝の手先である星系首相などを叩きのめしたところでしょう』

「よかったわね義久。あなたは標的に入っていないようだけれど」

「仕留め損ねただけで、殺すつもりだったのだろうな……」


 ベイカーが小声で柳井に言うが、彼女なりに柳井を気遣ってのものだった。


『現在帝国は、この事態に気づかず、のうのうと日常生活を謳歌しているようです』


 帝国内のテレビ放送の映像が画面の一角に映し出される。どれもブルッフハーフェンのことなど素知らぬ様子で、バラエティ番組やドラマなどを放映している。資料映像か何かから引用したのか、帝都のパブで飲んでいる若者達の映像なども流れた。


『帝国中央政府は、皆さん辺境の民のことなど気にしていません。帝国と呼ばれる不当な集団が領有権を主張する太陽系を中心とした一万光年にもわたる領土内において、あなた方は辺境に追いやられ、人類生存圏拡大のお題目のもとに過酷な生活を強いられているのです』


 ルサンチマンに火をつけようという策だろうが、これはいつもの辺境惑星連合軍の放送戦術だ。しかし発言しているのが口角泡を飛ばし、帝国の政体へ非を鳴らして熱弁を振るう政治将校ではなく、おそらく連合内のプロパガンダ映画などのアクターを使っているのは大きな変化だった。こちらに笑みを向ける女性の背景では、子供達が犬と戯れている。辺境惑星連合の一般市民の生活を見せつけているのだろう。


 しかし、その程度は帝国では当然のこと。一般の連合市民の生活ぶりはかなり困窮していると聞いている柳井にとっては、上辺だけ取り繕ったものにしか見えなかった。


『ブルッフハーフェンの皆さん、私たちと共に、新たな未来、本来歩むべきだった道へと進みましょう。諸惑星の民が平等に、平和に暮らせる政体、それが汎人類共和国、辺境惑星連合なのです』


『二四時間後、私たちの同志が皆さんをお迎えにいきます。皆さん、私たちと共に立ち、皇帝の手先である自治政府を倒し、私たちと共に生きる道を勝ち取りましょう』


『辺境惑星連合は皆さんの合流を心待ちにしています』


 にこやかに手を振る女性の映像がフェードアウトすると、再び解放歌が流れ、放送が終了した。


「……辺境惑星連合にもなかなかの女優がいたものだ。今年のアカデミー賞は彼女かな」


 ポツリとつぶやいたつもりの冗談は、思いのほか大きく艦橋に響いたようで、ギョッとした様子の近衛士官達の目線が柳井に集まった。


「閣下」


 ベイカーが他人からは見えないように肘で柳井を小突いた。咳払いをして柳井は立ち上がる。


「また放送の必要がありそうだな。通信の復旧状況は?」


 辺境惑星連合のプロパガンダを放置することは、混乱に拍車を掛けることになる。先手を打って先ほど放送を行った柳井だが、カウンタープロパガンダの必要性は理解していた。


「センターポリス周囲の通信網被害状況の確認が終わったところで、有線および近距離通信は可能とET&Tから報告が来ております」

「わかった。地上の臨時司令部の構築は?」

「内務省事務次官より報告が来ています」

『宰相閣下。ご無事の姿を拝見できて嬉しく思います』


 自治共和国内務省事務次官の潘国勇ばんこくゆうが、頭に包帯を巻いた姿で現れた。


「……怪我をしているのでは? 大丈夫か?」

『ご心配なく。少しガラスで切りまして……現在危機管理センターの設置場所の選定を進めておりますが、開拓初期に使われていたセンターポリス近郊の鉱山に設けられた開拓事務所の復旧を進めており、あと一時間ほどで使えるようになるかと』

「わかった。当面私はインペラトール・メリディアンⅡにいるから、司令部が構築でき次第連絡を」

『かしこまりました』


 各種の指示を出し終えた柳井は、溜め息交じりに立ち上がり、舷窓から見えるセンターポリスを見つめていた。

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