第41話-④ 帝国宰相・柳井義久

 一八時四九分

 海棠かいどうの間


「こちらが宰相閣下の居室となります」

「ありがとうございます……これ、本当に私が使っていいんですか?」

「はい。お困りのことがございましたらいつでもご連絡ください」


 柳井が通されたのは海棠の間と呼ばれる区画だった。間とは言うが実際にはホテルで言うスイートルームのようなもので、リビングに加え、寝室が二つ、衣装室が二つ、書斎、トイレ、キッチン、バスルームと一通りの設備が整えられた独立した住居となっている。つまり彼が一人で住むにはあまりに広すぎた。


 掃除は基本的に宮殿スタッフが行なうし、料理も何もなければここまで侍従が運んでくれる。本来なら皇帝とその家族のために働くのが侍従職だが、宰相が宮殿に住み込むという異例の事態に、侍従長が纏めて柳井の身の回りの世話まで侍従で行なうことに決定した形だ。


「……いっそ楡の間に住み込む方がまだマシだったか?」


 柳井はいっそにれの間にパーティションを立てて居住スペースを作ろうかなどと考えたが、格式的にもそれは許されないだろうと結論づけた。


「……」


 卑しいかなどと思いつつ、柳井はキッチンの冷蔵庫を覗き込む。


 生鮮食品の類いはないが、ミネラルウォーターや缶飲料などが一通り揃えられ、少し良いホテルの部屋のようでもある。ワインセラーにもそれなりの銘柄が並んでいる。しかしながら冷凍庫には冷凍食品の一つも入っていない。必要ならば買い揃えて貰うことになるのだろうが、それも申し訳がない。


 果たしてこのワインセラーのボトルを開けたら俸給から差し引かれるのだろうかなどと思いつつ、今度は食器棚に目を移す。


 食器棚の中にはティーセットなどが一通り揃えられており、どれもこれも一級品なのは柳井でも分かるものだった。とてもではないが日常使いするのは気が引ける。柳井はこのあと、こっそりと購買部で販売されている宮殿来訪記念品のセラミック製マグカップを購入することになる。


「……確か宮殿には宮廷スタッフ用の購買部があったはずだが」


 別に職務の後に宮殿内を歩き回ってはいけないと定められているわけでもない。柳井は自分の携帯端末に宮殿の見取図を入れて、購買部へと歩き出した。



 一九時一〇分

 購買部


 ライヒェンバッハ宮殿は、基本的に二四時間誰かが職務に就いている。宮殿の警備を行なう近衛兵も巡回しているし、帝国中から皇帝へ上がる報告は各省庁から宮内省を通じて宮殿に集積され、常に分析や評価などが侍従職により行なわれており、仮に帝国存亡に直結するなら寝付いた皇帝を叩き起こしてでも報告が上がる。さらに、これらのスタッフのための食事や休息のための食堂の運営も行なわれる。


 眠らない宮殿、不夜城とライヒェンバッハ宮殿が呼ばれる所以だが、この購買部はその宮殿で働く者を支える部署の一つだ。


「いらっしゃいませー」


 マニュアル通りの店員の挨拶は、柳井をほっとさせていた。


 帝国で最多の店舗数を誇るコンビニエンスストア、U&V――ユニエール&バリエテに運営を委託しているため、宮殿の一角に柳井にも見慣れた店舗が埋め込まれていた。その様は中々シュールだったが、儀礼的な部分を除けば、地球帝国宮中はかなりの合理主義で運営されている。


「ふむ、品揃えは一般的か……」


 陳列されている商品もごく一般的。雑誌や新聞、雑貨の品揃えも市中のコンビニと同様。これなら自分のチープな味覚や嗜好も満たせそうだと、柳井はホッと胸をなでおろしていた。時刻は一九時。夜勤スタッフ達が夜食を買ったり、昼勤終わりの侍従などが買い物をしているのを見ながら、柳井はとりあえず発泡酒でも買おうと陳列棚を眺めていた。なお、職務中の飲酒は当然ながら禁じられており、


 しばらくして自分に向けられる視線に気付いて、柳井は振り返る。


「な、なんでしょうか?」


 不審者と思われたか、柳井の周囲には侍従や宮内省スタッフが取り囲んでいた。柳井はやや狼狽えた。


「あ、あのぉ……もしかして、宰相閣下でいらっしゃいますか?」


 詰襟制服の侍従の一人が、控えめな声で柳井に声を掛けた。


「え、ええ、宰相の柳井と申します」


 その瞬間、購買部内の空気が張り詰め、次に驚愕し、どよめきが渦巻いた。


「宰相閣下、そんな、購買部なんかに来られては!」

「侍従にお申し付けいただければお部屋までお持ちしますゆえ!」


 侍従長からは帝国宰相は宮中において皇帝に次ぐ席次であり、皇帝陛下同様に宰相の身辺の世話もせよ、と通達が出ていたことは宮殿に仕官するスタッフは把握していたが、まさかその対象者が一般職員用の購買に出入りすることなど考えもしなかったようだった。


 良きにしろ悪しきにしろ、皇統貴族、特に宮殿の主になるような領邦領主やそその家族は幼少期から人を使うことに慣されているし、そうすべきと教えられている。でなければ仕官する者達への示しが付かないし、仕事を奪うことになるからだ。高位の官僚や政治家も傾向は同じで、侍従職のスタッフ達もそれを当然と捉え、これまで先帝バルタザールⅢ世とその家族の生活を支えていた。


 しかしながら、そのような貴族の所作というものとは無縁の一般人だった柳井に、そんな貴族の所作まで身についているはずもなく、今に至る。


「何? どうしたのこの人混みは」


 少し低めのよく通る、そして間近でよく聞いている声が耳に入った柳井は、購買部の入口に目を向けた。柳井の目線に気付いて、購買部内の一同もそちらへ目を向ける。


「あら皆、遅くまでご苦労様。いつもこんなに混雑してるの? 購買部も拡張工事が必要なんじゃないかしら」


 軍服のマントと上着を脱いで、近衛軍のパイロットジャンパーを羽織った皇帝としてはすさまじくラフな格好の皇帝メアリーⅠ世がその場にいた。


「へ、陛下!!!!!!!!!!!!!」


 誰が叫んだか、侍従達は一斉にその場に跪いた。柳井もそれに倣おうとしたが、皇帝は手で制した。


「不躾な宰相と皇帝ですまないわね。許してちょうだい。何せ宰相も私も軍人生活が長いのよ。コンビニのお菓子が食べたいときもあるし、安酒かっ喰らいたいときもあるし、缶コーヒーが飲みいときもある。というわけで、まあ気にしないでちょうだい」

「それは無理というものでしょう、陛下。もう少し御身の位の高さをお考えください」


 柳井も普段通りの調子で突っ込むが、そもそも自らも帝国宰相は宮中席次では帝国皇帝に次ぐのだから、全くもって説得力が無かった。一般人同士なら控えめな笑いも漏れるだろうが、何せ皇帝と帝国宰相が行うロイヤル・マンザイでは笑みも引きつるというものだった。


 なお、この日皇帝の購入したものはチョコレートなどスナック菓子だったと、品名も併せて宮廷史に書き残されている。



 一九時四〇分

 海棠かいどうの間


「広すぎる」


 購買部での一騒動の後、柳井は自室――それだけで一般的な戸建住宅ほどはある――に戻って、余暇時間を過ごしていた。侍従長の計らいで、軌道エレベーターの低軌道ステーションにあった柳井の居宅から回収された私物の類いが届くのが明日の昼となれば、柳井はリビングに備えられたテレビを見たり、購買部で購入した新聞などに目を通すしかない。


「宮殿暮らしというのも、存外不自由なものだな」


 柳井は自分の持ってきたスーツケースを開いた。圧縮梱包された替えのスーツが三着、普段から持ち歩くわずかばかりの暇つぶしの書籍、一般的な洗顔用具やシェーバー。ホルバインらからもらった退職祝いのウイスキーの瓶。柳井の民間人時代の私物は今のところこれだけだった。


 夕食についてはルームサービス形式であり、恐る恐る侍従の詰め所に連絡をしたところ、一〇分ほどで部屋に届けられた。食器などはキッチンに置いておけば、翌日の清掃時にすべて回収されるとのことで、これもコンビニ弁当やファーストフードなどで済ませがちだった一般人時代を思えば、なんとも慣れないものだった。


 その後、しばらくはなんとも落ち着かない時間を過ごした柳井は、さすがに翌日に備えてさっさと寝ることにした。


 あまりに広い柳井の住居のうち、彼が寝室に選んだのは宮殿の中庭を見渡せる南側の主寝室だった。キングサイズのベッドは柳井一人には広すぎたが、まあ住むならば少し位贅沢をしてもバチは当たらないだろうという気持ちもあった。



 五月六日

 〇七時三〇分


 朝日を浴びて輝く噴水、青々とした芝、整えられた花壇も見え、まるで自分が貴族にでもなったような気分だった柳井は、自分が既に皇統伯爵の位にあることを失念していた。


 目覚めてから手早く洗顔を済ませて用意されていたナイトウェアから普段のスーツに着替えた段階で――これも柳井は会社員時代は下着だけで寝ていたので慣れなかった――リビングの通信端末がコール音を鳴らす。


『宰相閣下、おはようございます。朝食の準備が整っておりますが、お持ちしてよろしいでしょうか?』

「あ、ああ、頼みます」


 皇帝陛下は既に起きているのだろうか、などと考えながらリビングでテレビを眺めていた柳井の元に、朝食が届けられた。少し上等なブレックファーストプレート。トーストにポタージュスープ、スクランブルエッグにサラダにヨーグルト。味は中の上、なるほど過度に贅沢な暮らしが出来るわけではない、というメアリーⅠ世の言葉通りだと柳井は安堵して手早く食事を終えた。


 数年前、ピヴォワーヌ伯と朝食を共にしたときも同じようなメニューを口にしていたので、これが帝国皇統の一般的な食卓なのかも知れない、と柳井は納得しておいた。


「そういえば、私の出仕は何時からなんだ?」


 そう、帝国宰相という役職には基準となるべき就業規則などがない。ほぼ全てを自分で考えなければならないのはアスファレス・セキュリティ時代も同じ事だったが、就業時間は社内規則で大まかには定まっていた。それすらないのだからサラリーマン柳井義久の気分が抜けていない彼にとっては宙に放り出された気分だった。


「九時から一八時とでもしておくか……」


 奇しくもコレはメアリーⅠ世が政務を始める時間の一時間前となっており、柳井の勤勉さを示すものとなっていたが、当人はサラリーマン時代とほぼ同じ動きをしていただけである。



 〇九時〇一分

 楡の間


「おはようございます、宰相閣下。昨晩はよく眠られましたか?」


 宰相執務室である楡の間に入ると、その直後に侍従長が部屋を訪ねてきた。


「広すぎて落ち着きませんが、軍艦に比べれば天国のようなもので」

「それはようございました。不自由があればなんなりとお申し付けください」


 そういった侍従長の後ろには、濃紺詰襟の制服姿の男女が控えていた。


「ご紹介いたします。宰相閣下が政務を執り行う間、閣下の身辺のお世話と政務の補佐をいたします侍従職の者です」


 侍従長が脇に退くと、三人は一歩歩み出て頭を下げた。


「エリヴィラ・ジュラフスカヤでございます」

「ビアンカ・ヘルガ・フォン・ハーゼンバインでございます」

「ユベール・バヤールでございます」


 柳井にとって喫緊の課題は、宮中でホルバインやニスカネンといったアスファレス・セキュリティ時代の部下のような存在を見つけ出すことだった。もし柳井が近衛軍司令長官や参謀長に就任したのであれば、彼らをそのまま採用することもできただろう。しかし今後柳井の仕事は帝国官公庁を相手にした政策論になることが確実であり、かつての部下達のみならず、彼自身にとっても専門外のことだった。そこでこの三人が部下というのは柳井にとっての頭痛の種を減らすことになる。


「宮内省侍従局の若きエリート、とでも言いましょうか。宰相府が出来たあとは中核スタッフになるような人材を、と陛下の思し召しがございまして」


 なお、侍従長へのメアリーⅠ世の勅はさらに簡素かつ大雑把で、宰相に若くてイキがいいヤツをあてがえ、というものだった。聞いた瞬間の侍従長は、事務能力のことなのか異性、もしくは同性としての性的魅力のことなのか一瞬迷ったという。前者であれば問題は無いが、後者だとしたらそれは旧市街の風俗街を紹介すべき事案だった。当然、メアリーⅠ世は前者のつもりで発言しているが、万が一、あり得ないことだが後者として解釈されて柳井が困惑したとしたら、それはそれで爆笑して本来の意味を丁寧に伝えるだけだっただろう。


「ありがとうございます。後ほど陛下には私からもお礼申し上げねばなりませんね」

「彼女らは隣のえのきの間に控えております。常に二人はおりますので、お声がけください」


 侍従長が下がると、部屋には柳井と侍従三人が残された。


「ふむ。まあそうだな……とりあえず、今後の仕事について話そう。コーヒーをもらえるか」

「では、私が」


 コーヒーを淹れたのはユベール・バヤールだった。帝大法学部行政学科卒の二四歳である。彼は元々は宮内省中央情報分析室の所属だが、今回の人事で侍従局へ異動している。三人の宰相付侍従の中で唯一の男性だ。柳井より小柄だがガッシリとした体躯で、レスリングの経験があるという。


「お待たせしました」

「ありがとう……私としては、身辺の世話よりも仕事の補佐役がほしいところだったから、渡りに船だな。内務省からシェルメルホルン皇統伯爵を引き込んで、宰相府を設立する。君達にもその立ち上げに協力してもらう」

「宰相府ですか。帝国史上初のものになりますね。しかし、なぜ? 既存官公庁を使えばよろしいのでは?」


 コーヒーを一口飲んでから質問したのは、エリヴィラ・ジェラフスカヤだ。彼女はヴィオーラ伯国のウィットロキア中央大学を主席で卒業し、星系自治省から省庁間人事交流の一環で宮内省に異動してきた珍しい人材だった。三二歳で、三人の宰相専属侍従の中では最年長となる。長身で柳井とほぼ同じ身長、鋭利な目に赤毛のロングヘアー、スタイルは柳井の目から見てもかなり良い。


「ジェラフスカヤ君、いい質問だ。君達も知っての通り、当代皇帝メアリー陛下は直情径行、迅速果断、即断即決が服を着て歩いているようなお方だ。あれに常時ついて行くにはそれ相応の組織がないと、宰相である私、そして私が今後居なくなった後にお仕えする次の宰相の身が持たない」

「なるほど……」

「恐ろしいのは、あの方が自分の領地であるヴィオーラ公国の統治も同時に行なっていることだ。それだけの能力を持つ皇帝に対して、宰相が一人だけでは陛下の意図する諸政策が進まない」

「通常の官僚では足りませんね。特異人材とでも言いましょうか」


 ビアンカ・ヘルガ・フォン・ハーゼンバインは二七歳。シュンボルム中央大学卒業、国防省から出向し、その後正式に宮内省兵部局皇宮武官として着任した後、柳井の元に配属されるのに合わせて侍従職になっている。彼女は宰相付武官としての役割も持つ。なお、若くしてハーゼンバイン家当主でもあり、皇統子爵の位を持つ。ブラウンのウェーブの掛かったセミロング、バヤールよりさらに小柄でまだ中等学校の生徒のような幼ささえ感じさせた。


 この三人を見ても分かるように、宮内省侍従局というのは単なる皇帝の世話役ではなく、皇帝が政務を行なう際の輔弼ほひつを行なうためのスタッフでもあり、能力は折り紙付きだった。


「その通りだ。その辺りは伯爵の着任後かな。いきなり一〇〇人規模で省庁から引き抜くのも大変だし、まあその辺りは都度考えることになるだろう。君達にも心当たりが入れば、声を掛けてくれると助かる。私は官公庁には知り合いが少ないのでね」



 一一時一〇分

 星系自治省本庁舎

 大臣官房室


三人の侍従にスタッフ集めを依頼する一方で、柳井自身も各省庁へ宰相としての挨拶周りを始めていた。首相府に始まり柳井が最後に回ったのは、星系自治省だった。


「お久しぶりですカーター政務官、いや、官房長に昇進されたんですね。おめでとうございます」

「いや、はは、柳井閣下も帝国宰相に就任されたよし、おめでとうございます」


 カーターは柳井の人生の転機、アルバータ自治共和国の叛乱――帝国の正史には残っていないが――の際、アルバータ自治共和国に赴任していた星系自治省統括官で、本省政務官を経て官房長に昇進していた。


 柳井は度々星系自治省のもつ辺境監視網のデータや、治安維持艦隊の輸送艦などを自らの仕事のために借り出しているが、カーター、それに星系自治省からすると自分達の首が柳井のおかげで繋がっているわけで、無碍むげに出来ない存在だった。


「実は、宰相になるにあたって皇帝陛下直属の宰相府を設置しようと考えておりまして」

「お話は伺っております。活きの良い若手を寄越せ、との陛下の勅も頂いております」

「どうですか? 曲者くせものでも構わないと考えています。星系自治省だけでなく、他の省庁とも横断的に渡り合えるタフな者を探しているのですが」

「その点、人材の宝庫ですよ、我が星系自治省は」

「それはよかった。官房長には度々私も助けられておりますし、今度もまたご面倒を」

「何を仰る。今私がここに居られるのは宰相閣下のおかげです」


 カーターも出世して自分の地位が安泰となった今、柳井に必要以上にへりくだることもないので以前ほど怯える様子はない。宰相として帝国の統治機構に組み込まれた柳井は、アルバータの叛乱の真実を暴露することはない、と考えたからだ。


 その後、少々の世間話をしてから柳井が退室すると、カーターは以前ほど脂汗をかかない自分に気付いた。ようやく、アルバータの呪いは解けたのだろうか、と彼は安堵していた。


「すまない。待たせたようだ」


 星系自治省本省ビルのロビーで、柳井はジェラフスカヤと合流していた。


「いえ、私も今終わりました」


 柳井がジェラフスカヤを連れてきたのは当然で、彼女に星系自治省の中から適当な人材を引き抜かせるためだった。


「宰相閣下のお眼鏡に適う者がいればいいのですが」


 運転手付きの宮内省公用車の後部座席で資料を渡された柳井は、その資料の整い方に思わず唸った。


「なるほど、掘れば掘るだけ人材はいそうだな。他の官庁も芋づるでいけるかもしれん」

「はい。既に数人に他省庁の人間にも連絡が付けられるようにと伝えてあります」

「ありがとう。思ったよりも早く集められそうだ」

「まずは星系自治省からダイエットさせるおつもりで?」

「そうだ。大体一国家内に軍事力を持つ組織がいくつも並立するのは非効率的だ」


 柳井は帝国軍時代、会社員時代を通じて軍事に携わり、星系自治省との軋轢や対抗意識、縦割り行政の弊害を受け続けてきた。その問題点を解決するのも柳井の仕事になる。


「今後、帝国の国防は現在の水際防御から縦深防御と機動防御に切り替わる。その際に指揮系統が分裂する武装艦隊があるのは問題だ。治安維持艦隊は段階的に自治共和国防衛軍に移管したり、帝国艦隊に編入していくことになるだろう」


 そう言いながら、柳井は叛乱軍として戦ったときに加勢してくれた特別徴税局徴税艦隊のことを思い出していた。アレが国家に忠実な猟犬である内はいいが、と。

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