第41話-① 帝国宰相・柳井義久


 五月五日〇九時三一分

 帝都ウィーン

 ライヒェンバッハ宮殿

 ブライトナー門


 ライヒェンバッハ宮殿には南、東、西に一カ所ずつ門があり、それぞれに宮殿の設計や建造に携わった建築士、技術者の名前が付けられている。南門、そして正門であるブライトナー門は、宮殿躯体設計者、そして帝都宮殿建造計画の総責任者でもあったウィーン出身の建築士、アントン・ブライトナー帝国伯爵、のちに皇統子爵に由来する。


「柳井皇統男爵閣下ですね。本日の参内の目的は」

「陛下より直接のお呼び出しです」


 柳井が警備室で生体認証とボディチェックを終わらせている間に、出迎えの車が用意されていた。宮殿は広大で、徒歩で移動するのは時間の無駄だった。


「ご案内いたします。こちらへ」


 広大な帝都宮殿はドナウシュタット北東に広がっていた田園地帯を開発して作られていて、宮殿そのものは延べ床面積一万六千平米であり、帝都ウィーン旧市街にある旧世紀の遺構と比べても倍とまでは行かない程度で抑えられている。


 しかしその周囲の庭園は主力戦艦が三隻ほど並んで停泊できるほど広大だった。緊急時には宮殿に直接艦艇を乗り入れて皇帝を脱出させることを考慮して、三段階に分けて宮殿庭園は拡張工事が行われていた。


 警備室から宮殿内を車で移動しながら、三月末の戦闘においてボロボロになったはずの庭園が綺麗に修復されていることに、柳井は気がついた。


「いつのまにこんなに復旧していたのか」

「皇帝陛下の居城を、いつまでもボロボロにはしておけませんので」


 運転手を務める近衛士官の言葉に、そのような事態を生じさせた一人として、柳井は少し申し訳なく思った。



 〇九時四九分

 かしの間


 樫の間は歴代皇帝の執務室として用いられ、宮殿の前庭が見渡せる広いバルコニーを持つ部屋だ。当代皇帝は、些か風変わりで、この部屋歴代の主達の御真影が見守る中、優雅にコーヒーを飲んでいた。


「柳井義久皇統男爵、御前に」


 柳井としては、初めてライヒェンバッハ宮殿の樫の間に足を踏み入れた瞬間だった。


「はいはい。いつも通りで良いわよ誰も見てないんだから」


 答えた皇帝は、近衛軍司令長官時代と全く変らない対応だったので、柳井は安心するよりも先に、気を引き締めた。相手は皇帝、自分は皇統男爵に過ぎないのだ。


「陛下はご寛容であらせられる」

「殴るわよ」


 柳井の言葉遣いに不満だったのか、皇帝は立ち上がって拳を握った。


「まあ冗談はさておき……私のような皇統男爵に、どのようなご用でしょう? ヴィオーラ公国軍の平兵站参謀でも斡旋していただけると期待してきたのですが」

「はぁ? そんな楽な仕事させるわけないでしょう。あなたには帝国宰相になってもらう」

「……宰相? 私が、帝国宰相ですか?」

「ええ。はい、これ勅令」


 その皇帝から手渡された羊皮紙の筒を受け取ると、確かにそう記されていた。


 柳井義久、卿に帝国宰相を命ず、と。いくつかの噂では聞いていた人事ではあるが、他ならぬ皇帝から言い渡されると、柳井としても動揺を禁じ得ない。


 柳井自身は、せいぜい近衛軍、もしくはヴィオーラ公国領邦軍の兵站参謀でも斡旋してもらえれば幸運と思っていたのだが、彼の予想、いや願望はとんでもない方向に裏切られた。


「いや、ああ……殿下、いえ陛下。お待ちください。その、私は今や無位無官無職のただの中年男性です。それが宰相とは、てっきりご冗談かと。適任者をお捜しなら私が全身全霊を掛けて銀河中、草の根分けてでも探し出しますが」

「皇統男爵、総督職に叛乱軍参謀総長も任せたでしょ。なに? 不満なの?」


 皇帝はかなり不満げに柳井を睨み付けた。


「なんのためにあなたに参謀総長とか総督とか皇統男爵の位をつけたと思ってるの? あなたの名前を売るためでしょ? 今までだってその場の必要性だけであなたを使ってた訳じゃないわ。第一、私がそんな大事なこと冗談で言うと思う?」


 それもそうだ、と柳井は内心で納得していた。公爵になって柳井を見いだしたときから、皇帝はこの時のために柳井を使い倒してきたのだ、と。


「勅命を拒むというのなら、それなりの理由があるのよね?」

「畏れ多いことながら、陛下は首相のお立場をどうなさるのか、お聞かせ願えれば」

「首相は首相よ。宰相は宰相」


 地球帝国本国は、皇帝を頂点とする専制君主制と立憲君主制の中間の政治体制をとっている。行政の長は首相、立法の長は上下院議長、司法の長は最高裁判所長官で、その上位に地球帝国皇帝が君臨する。基本的に国政は三権の長に委ねられているが、皇帝の勅命により議会の決定を飛ばして国政を動かすことも法的には可能だった。この場合柳井の立場は首相に並ぶものになる、と彼自身は危惧していた。


「陛下にはすでに首相閣下以下、忠良なる臣下たる政府がついているではありませんか」

「細々とした行政のことまで口を突っ込ませるつもりはないし、あなたにそんな暇はないわよ。あなたが座るのは皇統会議の席なのだから」

「な……っ」


 柳井は二の句が継げなかった。柳井は皇統男爵として、一応皇統の資格を持つが、財産も父の死去により相続した古びた実家の一戸建てと、低軌道リングにあるレンタル倉庫に預けられた僅かな家財、それも合成紙の書籍やスーツの類いだ。恐らく男爵位をもつ皇統の中では、柳井はかなり貧しい部類に入る。


「何を仰るのです。こんな皇統男爵の爵位税すら殿下……陛下に肩代わりしてもらっていたものを」


 皇統男爵のみならず、皇統貴族、帝国貴族には爵位に応じた爵位税が課せられている。皇統男爵の場合年間一五〇万帝国クレジットで、柳井の年収八六〇万帝国クレジットからすれば過大の負担ではあったが、これは極秘裏にギムレット公爵が負担をし続けていた。


「宰相になれば宰相の報酬で払えるでしょ? もちろん、所領でも持てばそこからの収入もあるだろうし」

「……所領をお与えになるつもりですか?」


 帝国における領主は二種類ある。一つはマルティフローラ大公国などの領邦国家の領主。これは皇統会議の席を占め、皇帝候補とされる。


 もう一つは開拓領主と呼ばれ、まだ人類生存圏として確立していない惑星において鉱山開発や都市開発を行なう領主で、実態としては惑星開拓庁の業務を監督する立場にある。総督と似ているが、総督は現地行政などの監督が主な業務だが、開拓領主は開発そのものを主体的に実行する点で、総督より上位の存在となる。


 現在の領邦や自治共和国も、元々開拓領主が任じられ開発が進められた惑星を基礎として発展してきた歴史がある。


「あなたとあなたの部下、ロベール主任の報告書は読んだわ。いいレポートを書くじゃない。イステール自治共和国を中心に、あの辺りは磨けば光る宝石ね。いずれ私は領邦国家の数を増やすつもりよ。その際、あなたの所領となる第二三九宙域はモデルケースになる。覚悟しておきなさい」


 帝国本国、領邦国家、自治共和国は様々な面で差があるし、投資家の注目も本国、領邦、自治共和国の順で低くなる。これを改善し、辺境部にも資金を回すには領邦国家化するのが手っ取り早いとメアリーⅠ世は考えていた。


 とんでもない人事、とんでもない構想を聞かされた柳井は、そこで白旗を揚げた。恐らくここまでの流れを、皇帝は想定していたのだろう。


「……私に陛下へ物申すようなことはございません」

「あなたには私の名代として動いて貰うことも増えるでしょう。そうね、爵位も男爵じゃ寂しいから、今日付で皇統伯爵に格上げよ。委細は追って典礼長官から申し渡す」


 ここに来て爵位も格上げ。もはや柳井には、いまここで皇帝の座を禅譲されるくらいでなければ驚きは無かった。


「私の右腕の参謀総長として、帝国の脅威を未然に排除したのよ。功績は多大、伯爵でなくて侯爵にでもできるわ」

「畏れ多いことです」

「ともかく、帝国宰相としてあなたが私に忠節を尽くしてくれることを期待しているわ」

「不肖柳井、身命を賭して務めさせていただきます」


 ここに、地球帝国史上もっとも貧しい皇統伯爵にして帝国宰相が誕生した。柳井義久四五歳、春のことである。


 

 一〇時一〇分

 にれの間


 帝国には、宰相と表現できる役職は二つあった。一つは帝国議会から任命される内閣の首班であり行政府の長、首相としての宰相。もう一つは皇帝直属の臣下としての明文化されていない象徴的な役職で、正式には首相と区別するために帝国宰相と記される。職掌は任命された者により様々だったし、任命されない場合も多い特命担当大臣とでも言うべき役割を担っていた。皇帝自身が注力する諸政策のための実行役とも言える。


 初代皇帝、国父メリディアンⅠ世の治世においては、アドルフ・ライヒェンバッハがその任に当たったが、これが初代宰相である。彼は皇帝の専門外だった軍務を中心とした、帝国軍の体制を固める役割を担っていた。


 第三代皇帝のジョージⅠ世の治世においては、後にパイ=スリーヴァ=バムブーク公国の領主となるギムレット家からハイドリッヒが若干三一歳の若さで就任。彼は帝国大学の理学部天文科惑星環境学科で学び国土省に入省していた。急速に拡大しつつあった帝国領土内の惑星開拓を効率的に行なうべく奔走した。


 その後長らく宰相は置かれなかったが、これは帝国官公庁の規模拡大と治世の安定に伴うものだった。


 帝国史に宰相の文字が載るのはジブリールⅠ世の治世になってからのこと。在位六八年という帝国史上最長記録を保持しており、その治世中に宰相は三名任命された。


 初代の宰相はエリザベス・アンナマリー・マウントバッテン帝国子爵で、彼女は帝国官公庁の機能を見直し、再編する役割が期待されていた。特に帝国内乱の原因ともなった財務省の巨大な権力を漸減させ、収税権を独立させて国税庁、さらには国税省に改組させたのは彼女の功績でもある。宰相としては二年の在任期間だが、退任後も内閣府が主導する官庁再編計画の舵取りを行ない、巨大官庁となっていた内務省から星系自治省を分離させるなどの活躍を見せた。


 二代目の宰相はグエン・シー・タモン。帝国内乱により生じた混乱の後処理を行なうために任命されたが、実のところは叛乱終結直後から叛乱に参加した皇統貴族への処分や開拓領地の処分を担当した後、マウントバッテンの退任後に正式に宰相に就任。巨大になりすぎたマルティフローラ大公国、フリザンテーマ公国、コノフェール候国の領土を整理し、パイ・スリーヴァ・バムブーク候国、ヴィオーラ伯国の二つの領邦の新設、ヴィシーニャ侯国への編入を行い、帝国領邦のパワーバランスの調整も担当した。


 さらに、各軍管区の自治共和国の設立や分離合併なども管轄し、星系自治省が機能を発揮できるようになってからも数々の調整をこなし続け、三〇年に渡って皇帝と帝国を支え続けた後、退任。ジブリールⅠ世から皇統伯爵の位と年金として毎年一〇〇〇万帝国クレジットが送られている。


 そしてジブリールⅠ世の晩年の治世を手助けしたのが三代目宰相のヨアンナ・キム。晩年とはいえ些かも政治的な活力を失わないジブリールⅠ世の補佐を行ない、ジブリールⅠ世曰く「帝国を一〇〇〇年稼動するシステムに仕上げる」為に奔走し、ジブリールⅠ世退位と共に職を辞した。その言葉は誇張であっても虚構では無く、以来二〇〇年以上にわたって帝国の統治システムは辺境において僅かな綻びを見せつつも、概ね安定している。


 再び帝国宰相が置かれない時代が長く続き、第一三代皇帝バルタザールⅢ世の治世においては特に二人の摂政が置かれたが、これはバルタザールⅢ世の政策のためと言うよりも、一人目は彼が病床に伏せった為の措置、二人目は前任者の不祥事とその後始末に起因するものだった。


 最初に帝国宰相となったのはフレデリク・フォン・マルティフローラ・ノルトハウゼン、当代マルティフローラ大公だった。当初病気療養のために帝都を離れ、領地のリンデンバウム伯国に帰郷していたバルタザールⅢ世に変わり、帝国本国における皇帝の代理としてマルティフローラ大公は宰相に就任。後により権限が大きな摂政に就任。


 しかしバルタザールⅢ世崩御に伴い、皇帝選挙を行なうところで宰相としての権限でこれを無期延期、本国に無期限の戒厳令を敷いた。これは事実上帝位を強制的に手中に収めたものであり、皇帝選挙で当選確実と思われていた政敵の近衛軍司令長官ギムレット公爵の反発を招いた。


 これらマルティフローラ大公の強権発動に対し、ギムレット公爵は自らを叛乱軍と称し、ヴィオーラ伯国防衛軍、パイ・スリーヴァ・バムブーク候国防衛軍、ピヴォワーヌ伯国防衛軍、そして近衛軍と民間軍事企業一社、特別徴税局徴税艦隊を動員して帝都解放に向け戦闘を行なう。


 結論から言えばこのギムレット公爵の叛乱は成功し、マルティフローラ大公は種々の脱税や強権発動により治安を乱したとして国家叛逆罪の容疑で拘束。爵位を剥奪された。


 そして制度上バルタザールⅢ世治世中、二人目の摂政はマルティフローラ大公を拘束したギムレット公爵である。彼女は叛乱に関わる各種の事後処理と皇帝選挙を執り行った。なお、ライヒェンバッハ宮殿は一部損壊しており、離宮のラゲストロミア宮殿が選挙の会場として用いられた異例の形で執り行われた。


 皇帝選挙の結果選ばれた第一四代皇帝、メアリーⅠ世の置いた帝国宰相は柳井義久という。彼は元々民間軍事企業の役員であり、近衛軍司令長官時代のメアリーⅠ世も支えていたと言われている。


 帝国宰相の執務室として用いられる楡の間に入った柳井は、やや呆然としていた。


「……何から手を付けるべきか」


 わずか三〇分前、投げて寄越された羊皮紙の勅令を見て、柳井は途方に暮れている。メアリーから呼び出されたのは四日前の晩のことで、何が告げられるかは分からないが二泊三日程度の準備はしておけばいいとスーツケースに着替えと愛用のワークステーションを放り込み宮殿に来てみれば、突如帝国宰相である。重厚な宮殿の一室に似合わない吊しのスーツ姿の男は、とりあえずスーツケースを部屋の隅に置いて、部屋を見渡した。


「……」


 楡の間は五〇平米ほどの広さの部屋で、隣には黄檗おうばくの間と白樺しらかばの間と呼ばれる二つの空部屋が隣接している。執務室の丁度も重工なインテリアで揃えられているのだが、柳井にとっては広いというその一点が落ち着かない。


 さらに言えば、成り行き上敵対することになったマルティフローラ大公が使っていた部屋と言うこともあって、柳井はどことなく肩にずんと重みを感じていた。無論、まだマルティフローラ大公は存命なのでこれは柳井の勘違いだったが。


「……」


 とりあえず執務机の椅子に腰を下ろしては見たものの、座り心地のいい椅子が彼にとっては針のむしろのようにも感じられた。


「宰相閣下、お邪魔するわよ」


 帝国宰相の返答も聞かずに入ってくる人間は皇帝以外にはほぼ居ないはずだが、堂々と入ってきた者がいた。


「アリー、お前、どうしてここに?」

「今日付で侍従武官長を命じられたわ」


 アレクサンドラ・ベイカー近衛軍中将は、柳井と共に東部方面軍管区兵站本部で働いていたこともある。メアリーⅠ世が近衛軍司令長官だった頃、近衛参謀長を務めていた。しかし柳井は、飾緒で肩から胸に下げられた石筆ペンシルが参謀を示す金色から、侍従武官長用の銀白色のプラチナ製に変わっていることに気付いた。先端には野茨の意匠が施されている。


「近衛軍はどうするんだ」

「当分は皇帝直卒なんでしょう。私が近衛参謀長も兼任してるし、殿下……いや陛下のコトだから、しばらく戦力は手放したくないんじゃない?」


 元来帝国における近衛軍は皇帝直轄の部隊だったのだが、エドワードⅠ世が三二一年の叛乱鎮圧で戦死したことを受けて、その後を引き継いだジブリールⅠ世が近衛軍司令官を別途指名して指揮を執らせることになっていた。


「……変なことを考えなければ良いのだが」

「直卒ならいざというときに自分が最前線に出られるくらいは考えてるでしょうね」

「まったく……で、侍従武官長殿が何の御用かな」

「とりあえず就任のご挨拶に」

「そうか……またもや分不相応な役目を押しつけられた。しかも今度は終わりが見えん」

「大出世じゃない」


 溜息交じりに言った柳井を、ベイカーは面白そうに笑みを浮かべて見つめていた。


「他人事だと思って……」

「というか、あなたスタッフも連れずに来たの? 会社時代の人でもいいんじゃない?」

「彼らは彼らの仕事がある。元々現場の人間だし、皇宮で政策議論をするような仕事は身体に合うまい。魑魅魍魎が跳梁跋扈する官庁街に放り込むほど、俺は冷酷ではないよ」


 柳井の官公庁へ対する恐怖心にも似た偏見は全てが偏見というわけでもなく、汚職が少ない分、僅かなミスや不手際を追求してライバルを蹴落とすことが多いようで、戦場とは別種の緊張とストレスを感じることになるだろうと予測していた。


「あらそう。じゃあ適当な人間を見繕うしか無さそうね。総督時代の部下は?」

「まずは陛下が何をお考えか、だな。俺にしてからしがない民間軍事企業のサラリーマンでしかなかったのに、国家の中枢部でこんなことを……」


 柳井を悩ませたのは、帝国宰相というものの職掌が明文化されておらず、その下部組織の形態もまったく統一性がないということにあった。アドルフ・ライヒェンバッハの時代は旧地球連邦軍を帝国軍という組織に再構築する作業だったから、国防省と軍を押さえればよかった。近年の例だとマルティフローラ大公は皇帝の留守を預かる名代であり、これもそこまで多数のスタッフを必要としない。


 自然と参考になりそうなのはジブリールⅠ世の御世の三人の帝国宰相になるが、これも時代により組織が画一化されているわけではない。三人とも異なる政策を推進したし、個々の能力閲歴も柳井とは全く異なる。


 ベイカーの退室後、現在の帝国の懸念事項をA4合成紙に書きだしていった柳井は、ふと気がついた。


「整理と修繕か」


 ジブリールⅠ世は帝国中興の祖と言われていて、帝国のシステムに手を入れ最適化を行なったが、そこから既にざっと二〇〇年が経過している。そろそろ手を入れるときだ、と考えても不思議ではない。


 官公庁もジブリールⅠ世の頃に新設と統合を行なってからは大きく変化はないが、星系自治省のように規模が拡大しすぎたものもある。内務省や財務省、国税省のようにマルティフローラ大公が政治工作を行ない、独立性が揺らいだり法に背く動きが見られる省庁もある。


「となると……」


 柳井はおっかなびっくり自分の端末を執務机に広げると、過去にメモしていたメアリーⅠ世の言動などを参考にしつつ、帝国宰相としての最初の仕事を開始した。

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