第35話-⑥ 総督代理・柳井義久


 イステール自治共和国

 首都星ガーディナ センターポリス 

 行政庁ビル

 総督代理 オフィス


 マルセールⅤはじめ開拓状況の視察から柳井が戻ると、行政長には彼の専用オフィスが設けられていた。最上階に近い見晴らしがいいオフィスで、柳井はルガツィン元皇統伯爵による叛乱事件の第一次報告書を読んでいた。


「やはり、辺境惑星連合からの支援は薄い……となると帝国領内。ムクティダータのようなテロ屋が煽ったにしても妙だな」


 柳井の疑問はそこにあった。帝国領内における叛乱、分離主義運動は辺境惑星連合、特にリハエ同盟が支援する特定テロ組織ムクティダータが先導したものが多い。しかし、今回のルガツィン元伯爵の叛乱はもっと別の力学が働いている様に柳井には思えた。


「柳井閣下、防衛軍司令長官フロレンシア・ペドロサ大将が、閣下にお目通り願いたいとのことです」

「分かった。通してくれ」


 数分して、防衛軍軍服姿の女性がオフィスに現れた。


「イステール自治共和国防衛軍司令長官、フロレンシア・ペドロサであります」


 比較的上背がある柳井より、頭一つ大きな軍服姿が生真面目に敬礼をした。


「総督代理の柳井です。まあ掛けてください」


 気安い様子の柳井に戸惑いつつ、司令長官は応接セットのソファに腰掛けた。


「まずは、総督代理の着任お喜び申し上げます。かような事態を生じせしめ、また叛乱部隊を止めることも出来ず、小官の不徳といたすところ……」

「まあ、その話はいいでしょう。拘束されていたとのことですし、お怪我など無くて何よりです」

「はっ、ありがとうございます……閣下には、小官の任免権もあるかと思いますが、そのことは……」


 実のところ、司令長官は柳井に解任を申し渡されることを覚悟して、オフィスを訪れていた。しかし柳井の応対がそういう類いの通達を行なうものではなかったので、端的に戸惑っていた。


「第一次報告書は読ませて貰いました。叛乱部隊の決起の前兆があまりに薄すぎて、事前に察知することが難しいとの結論が出ています。私も同じ見解です」


 ロベール主任の淹れたコーヒーを一口飲んでから、柳井は続けた。


「艦隊司令官のバーリー少将が叛乱に参加しただけでなく、陸戦部隊にも多数の叛乱部隊が出ています。人心の安定のためにも、長官には一層奮励努力していただきたく」


 実際、艦隊司令官と多くの陸戦指揮官が解任、拘束という状況で防衛軍将兵はかなり不安を感じていたようで、さらに司令長官が帰還するまでは各駐屯地からも外出できない、艦隊は残存艦がすべてドックで拘束中。つまり防衛軍そのものが叛乱に加担していた容疑も晴れていなかったので、これ自体がイステールにおける新たな火種になりかねなかった。


 柳井としては報告書にあるように、司令長官の責任について問わないという行政庁と東部軍管区の決定を伝えただけだった。


「喫緊の課題として、防衛軍各部隊の指揮官人事を急いでください。長官が戻っても、各部隊の統率を取れなければ、私が連れてきた会社艦隊に自治共和国政府が防衛費を払い続けることに……まあ、私としてはそれでも構いませんが」


 柳井のジョークに、ようやく司令長官は笑みを見せた。


「はっ! 人選を急ぎます」


 ブリスゴー市街地


「復旧率はどの程度だ?」

「インフラ関連は電力が八四パーセント、通信が九九パーセント、水道が七九パーセントとなっていますね」


 ロベール主任を連れて市街地視察に出た柳井は、その被害の大きさに唖然とした。これが三回目となる市街地視察だが、やはり建物被害が甚大だった。


 制圧のために降下してきた降下揚陸師団との戦いによるものだが、もし軌道上からの爆撃を受けていたらと思えば、まだしも被害が軽く思えるのは柳井をしてうんざりするという類いのものだった。


「生活の再建の目処が立っていますか?」

「おお! あんた、たしか……そうだ総督代理! もうこっちはエラい騒ぎですよ! ただでさえ支払い繰りに困ってるって言うのに――」

「おお閣下がお見えだぞ!」

「税金の支払期日を延ばしてください! こんな状況で固定資産税に住民税に――」

「叛乱は防衛軍が加担したんでしょ!? 被災補償は自治共和国政府がやってくれるんですよね!?」


 イステール自治共和国では帝国の国営放送である『帝都中央放送チャンネル8』の他、本国系放送局の放送社のほか、東部軍管区に展開する民間ネットワーク『RNNロージントンニュースネットワーク』など独立系メディアも多数視聴可能になっている。特にRNNイステール局では柳井の総督代理着任を大きく取り扱ったので、柳井の姿は誰もが知るところだった。


 そのせいか、市街地視察に出る度に柳井は群衆に取り囲まれる。ほとんどが悲鳴に近い。


「わかっています。私を陛下が派遣あそばされたのも、皆様イステール市民の方々の生活再建を手助けするためと考えております。行政局には市民生活再建を第一に考えよと申し伝えますので」


 取り囲まれた柳井を見つけた警察官が、増援を呼んで柳井を群衆から救出する。


「柳井総督代理、視察に出られる際は声を掛けてくれと……」


 警察官の一団を率いてきたのは行政庁警察局のモレノ警視正だった。柳井がイステールに着任して以来、身辺警護などの関係で顔を合わせている。彼も叛乱軍の襲撃に抵抗し、ブリスゴー市街地にある警察本部を守り抜いた猛者だ。


「いや、すみません。しかし市民の生の声を聞くことも私の務め。それに、市民へのガス抜きにもなりますよ」

「それはそうですが……御身のご安全にも配慮せねばなりません。どこに賊が潜んでいるか分かりません。検挙は続けていますし、閣下は辺境任務も多いとか。ご存じとは思いますが、辺境はムクティダータなどの巣です」

「ええ、分かっています。そういえば、丁度ブリスゴー税務署地下の視察に行こうと思っていたのですが」

「私もそう考えておりました。こちらへどうぞ。車を用意しています」



 ブリスゴー税務署

 叛乱軍地下司令室跡


「ここがルガツィン元伯爵が叛乱軍を指揮していた司令室ですか」

「帝国暦三四〇年に、防衛軍に星系防衛を移管するまではここが帝国駐留軍の司令部でした」

「元伯爵の遺体は、このダストシュートの奥で発見されました。報告書はお目通しいただけましたか?」

「ええ。後頭部をズドン、と」

「生き残った叛乱軍兵士からは、自殺と叛乱軍司令部から通達されたとのことですが、明らかに不自然です」


 司令室に残る血痕は、もしかしたら元伯爵のものなのか……と、柳井は足下の赤黒い染みを避けて歩いた。


「司令部員は拘束できたのですか?」

「残念ながら、この司令室に居た叛乱軍幹部は取り逃がしてしまいました。司令部に選ばれた時点で、税務署員も懐柔されていた模様ですが、署長も副署長も詳細は聞かされていないと証言しています」

「そうですか……この司令室については、どうするので?」

「それもお尋ねしたくて、本日視察を仰いだ次第でして。行政庁もまだ機能復旧の途上でして回答が来ないのですよ」


 行政庁ビルも襲撃を受け、特に下層階における被害は甚大。データベースは守られたとはいえ、叛乱軍と帝国軍などの戦闘における罹災に関する問い合わせ、叛乱加担者が拘束されたことによる業務の空白の埋め合わせなど、叛乱から一週間たった今もてんてこ舞いの様相だった。


「私が決定して良いのなら……埋めてしまいましょう。歴史的価値を見いださないわけでもないですが、ここの設備はあまりに反動勢力に都合が良い。悪用されるくらいなら、そのほうがいい」

「わかりました。土木局に御意を伝え、直ちに」

「よろしく頼みます」

「それと閣下に、もう一つ決めて頂くことがございます」



 ブリスゴー警察本部

 遺体保管室


「司法解剖を終えたあと、元伯爵の遺体はこちらで保管しております……ご覧になりますか?」

「一応……」


 冷凍保管されている遺体は、コンテナに格納されていた。顔の部分だけ特殊ガラスで覆われていて、元伯爵の表情は安らかに眠っているように見える。柳井は一応の礼節として、手を合わせ、目を伏せた。彼の出生地の土着宗教の礼法だった。


「遺体の引き取り手は?」

「それが……元伯爵のご息女は、遺体の引き取りを拒否されまして」


 柳井がモレノ警視正に問うと、警視正は些か気まずそうに、遺体コンテナから目を逸らして答えた。


「まあ、その気持ちも分かります」


 父親が帝国に反旗を翻した国賊となっては、その遺体を引き取ることに抵抗があるのは当然のことだった。


「でも、なんだか可哀想ですね……」


 ロベールの言葉に、柳井とモレノ警視正がジッと彼の顔を見つめた。


「あっ、いえ! 国事犯ともなれば当然かもしれませんが……」

「いや、哀れなものだ。ロベール主任の感じ方は真っ当だと思うよ」


 柳井も、冷凍された遺体を見てなんとも言えない感覚を覚えていたが、ストレートに表現することはできなかった。ロベールの若さ故の率直さを羨ましく思う柳井であった。


「すでに遺産放棄の手続きも完了されたとのことで……申し訳ありませんが、遺体の処遇も閣下のご判断に」

「……荼毘に付して、どこかの共同墓地に埋葬しましょう。皆様忙しいでしょうし、私が葬儀に付き添います」

「よろしいので?」

「犯した罪の大きさは大なれど、陰謀の道具にされた可能性が高く、その最後が他殺というのはなんとも虚しいものです。せめて人の手で弔うのが、死者への慰めとなるでしょうし」

「閣下は案外センチメンタリストですな……では、閣下にお任せします。ブリスゴー行政墓地に連絡を入れておきます。警察局員が車を出します」



 ブリスゴー行政墓地

 火葬場


「――ミハイル・ラヴィノヴィチ・ルガツィンの御霊は天に昇り罪を償う、偉大なる国父メリディアンの名の下に、いずれ星となりて宇宙に還らん……では、火葬を開始します。故人に対して言い残すことはございますか?」


 帝国国教会イステール教区の松永神父が柳井に問う。柳井とロベール主任は首を振った。


「では、火葬を行ないます」


 遺体が火葬されるまでの間、柳井とロベール主任は行政墓地の礼拝堂で松永神父と話していた。


「行政墓地での葬儀は松永神父が担当されているのですか?」

「ええ。もう二〇年になります」


 松永神父はこの辺りの名産らしい緑茶をティーカップに入れて差し出した。


浮浪者ふろうしゃ、身寄りのない方、行旅死亡人こうりょしぼうにん、あるいは密入国して潜伏中に死亡した人……そう言う方々の葬儀というのは、簡素なものです。柳井総督代理のように、こうして火葬後の埋葬まで付き添いいただけることはほとんどありません。行政が遺体を搬入し、あとは我々のみで行ないますから」

「まあ、私は時間もあるもので……しかし、事情はあれど、死んだあと、誰に見送られるでも無く、火葬に直行されているのではないかと思いましたが」


 柳井は珍しく不安げな口調だった。柳井は殊更に敬虔な国教会信徒ではないが、誰かの葬儀という時だからこそ、漠然と不安だった。ロベール主任は黙って話を聞いていた。


 無論、彼は自分で思っているほど孤立しているわけでもない。しかし、そもそも民間軍事企業などという俗な仕事に明け暮れる身が、遺体が残る形で死を迎えるとは限らなかった。


「帝国国教会では、あらゆる臣民の方の最期を見送るのも使命の一つです。旧宗教の権威を失わせ、帝国という新たな権力に人心を集めるために作られた帝国国教会は、せめて万人の生を尊び、死を弔わなければならないと教えられます」

「そうですか……巷では帝国の冠婚葬祭事業部、などと言う人も居ますが」

「構わないと思っています」


 柳井は長年の疑問を、松永神父にぶつけてみた。事業部などとは酷い言いようだが、そう見ている帝国臣民は多いのも事実だった。極めて直截的ちょくさいてき不躾ぶしつけな質問だったが、松永神父は気を悪くするでも無く、微笑を浮かべて答える。


「冠婚葬祭、いずれも人間の人生の節目の出来事。まあ葬儀は悲しいものです。どんな人の葬儀であっても……しかし、冠婚と祭なら、いくらでも。私とて、葬儀だけを取り仕切るわけではありませんから」

「そうですか」

「柳井総督代理は、民間軍事企業の重役とか。人の生と死に近い場所にいる方にこそ、忘れて欲しくないのです。ごく、当たり前のことです。喩え、叛乱軍の兵士だろうが、賊徒であろうが、人はやはり人なのだ、と」


 人の生と死というものをグロスで扱うような仕事だからこそ、当然の事を忘れるな、という松永神父の説教に、柳井は柄にも無く感じ入っていた。


「そろそろ火葬が終わる頃でしょう。どうか最期のお見送りを」


 ルガツィン伯爵の遺灰は、自動火葬炉から出てきた時点で遺骨入れに収められていた。柳井が見守る中、行政墓地の職員により共同墓地の供養塔に収められた。


「本日は、故ルガツィン氏の葬儀に立ち会って頂き、感謝に堪えません。故人の御霊が、安らかに眠ることを祈ります」


 松永神父が国教会の祈りの印を切ると、柳井とロベール主任もそれに倣った。



 ルガツィン元伯爵邸


「宮内省からの命令では仕方ないが……」


 葬儀の後、柳井はブリスゴー郊外にあるルガツィン元伯爵の自宅を訪れていた。宮内省からルガツィン元伯爵の遺産管理を宮内省に移管する前に、総督代理で確認して欲しいということだったが、柳井としては気の重い仕事だった。


 邸宅と言って差し支えない規模ではあるが、柳井がこれまで訪問したどの皇統の家よりも質素だった。


「柳井閣下、こちらです。家宅捜査は終わっております」


 玄関前で待機していたモレノ警視正――柳井からの連絡に先回りしていた――が、玄関を解錠する。


「私はここまでです。建物が既に宮内省の管轄になってますので、自治共和国の警察局では中に入れんのです。鍵はこちらです。明日にでも返却して頂ければ」

「わかりました」


 モレノ警視正と別れ、柳井とロベールは屋敷を見聞する。


「ご息女が独立されてからは、お一人で住まわれていたとか。使用人も置いていなかったとのことです」


 広い玄関ホールは、皇統貴族としての格式を感じさせたが、やはり外から見ていた印象通り、調度品の数や、内装のデザインは質素だった。


「これだけの屋敷に一人で……」

「行政庁の官僚や地元の開拓業者の人間を呼んでパーティなどをしておられました。私も幾度か出席しましたが」


 ロベール主任の言葉通り、バンケットホールには大きなテーブルが用意され、真っ白なテーブルクロスは昨日交換したかのようだった。


 さすがに掃除は限界があったのか、ロボットでは取り切れないホコリなどが溜まっていたものの、普段使いの部屋はいずれも片付いていた。家宅捜索は行なわれた後だろうが、過度に荒れた雰囲気も無い。


「いや、片付きすぎている……ルガツィン氏は、元々死ぬつもりだったのだろうか……」


 窓から見える中庭では、清掃ロボットが動き回って主がいなくなった屋敷を綺麗に整えていた。


「ここが書斎のようです……ここは私も初めて入ります」


 ロベール主任が扉を開けると、他の部屋と違い、雑然とした部屋が現れた。


「スゴいですね! 天然紙で発行された過去の開拓技術論とか、専門書の山です! あ、いえ失礼しました……つい」


 合成セルロースを着色しながら特殊樹脂で結着して成形・射出する合成紙プリンターの技術が確立されてからは、手間が掛かり、需要に対して希少な天然木から生成される天然紙はよほどの古書か、儀礼的な文書にしか用いられていない。


「いや、これは凄いな……ルガツィン氏は開拓に関する業務については、中央でも信頼を得ていたというが……」

「本当に、我々のような若手官僚の話も真剣に聞いてくださる方でした……それが、あんな死に方を……っ!」


 ロベール主任が声を殺して涙を流す。柳井にとってはわずか数回顔を合わせた程度の相手だが、彼にとっては事実上の上司、それも理想的な存在だったのだろう。


「ここは私でやるから、少し外の空気でも吸ってきたらどうだ」

「そうさせて頂きます……」


 ロベール主任が席を外してから、柳井は端末にルガツィン元伯爵の資産を登録する。不動産などは既に入力済みで、あとは概算でいいと宮内省からは指示されていたが、それでも一時間ほど掛けて柳井は登録を済ませた。


「……?」


 柳井は机の天板が不自然に浮いているのを見つけた。軽く押し込むと、ゆっくりと天板がせり上がった。手の込んだ絡繰りの小物入れだった。中には封筒が収められていた。


「遺書か……」


 丁寧な文字で自分の子供、知人友人、行政庁宛、本国宛、さらには柳井が来ることを予期していたように、中央からの後始末を行なうものに対して充てられたものまで用意されていた。


「――という次第なのですが」


 柳井が連絡したのは宮内省官房室だった。剥奪されたとはいえ元は皇統伯爵、一応の礼儀というものがあると柳井は考えており、その予想は当たっていた。


『では、ご息女へのものは処分いただけますか? 行政庁宛のものは行政長官に、本国宛などその他のものは、男爵閣下が本国に戻られる際にお持ち頂ければ』

「事態収拾に従事する方へ、というものは」

『男爵閣下に直接、と言うわけでも無いでしょうが、閣下の方で確認頂ければ。内容について報告頂く義務はございません』

「わかりました……」


 一応の確認を宮内省が得られた時点で、柳井は封筒をペーパーナイフで開いた。


『私は、この文書を遺書として遺す。


 私は辺境市民の窮状、無理な拡大政策による経済的な歪みを帝国本国に自覚して貰いたく、この叛乱を起こした。しかし、これは失敗することが分かっている。帝国軍は強大であり、星系市民もこれを望んではいまい。


 それでも、私は問題提起としての叛乱を起こす。度し難いと思われるかも知れないが、これは本心である。


 私は、自分の意思でクーデターの首謀者となり、帝国に反旗を翻したことを認める。おそらく、私の行為は失敗し、私が生きてこの屋敷に戻ることは無いだろう。しかし、私は自分の信念に従って行動した。


 その結果、多くの人々の命と財産を奪い、自治共和国に深刻な混乱と苦痛をもたらした。私は、この罪を生きて償うことを選ばない。自ら命を絶つことで、少しでもこの惨事に対する責任を取ろうと考える次第である。


 私の財産は、自治共和国政府によって私の無謀な行為に巻き込まれた市民への補償に充ててほしい。


 私の家族や親族は、私の行為に一切関与したことはないと断言する。彼らに対する報復や迫害が無きよう、取り計らって頂ければ幸いである。


 もし私の遺体が回収されることがあれば、焼き捨てて貰って構わない。ブリスゴーの郊外の山野に晒して、朽ちるに任せても何ら問題は無い。


 最後に、私は事態収拾に従事する者達に、心から謝罪を伝えたい。この遺書を読んでいる者は中央官庁の官僚かもしれないし、行政庁のスタッフかも知れない、皇統貴族かもしれない。私はあなた方に敬意を表す。どうかこの星系の平和と安定を取り戻すために尽力してもらいたい。


 イステールに栄光あれ。辺境に幸あれ。


 最期になったが、これを読んだ方に深い感謝を捧げるものである』


 柳井は一通り遺書を読み終えてから、言い表せない悲しみを覚えていた。ルガツィン元伯爵は、評判通り真面目な開拓領主だったのだろう。それが叛乱という形でしか、問題提起できなかったのか、こうなる前にもっと、なんとか出来たのではないかと、柳井はしばらく自問自答していた。

 


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