第25話 参謀総長・柳井義久〈4〉

 帝国暦五八五年 一〇月一九日 二〇時〇〇分

 レストラン ラ・グランメール


もろもろの厄介ごとに」


 こうしてベイカーと夕食を共にするようになって、すでに一ヶ月近くが経っていた。この間にも補給線への襲撃や敵艦隊への奇襲は行われているが、一度作戦が動き出せば、細かい修正は私やベイカーの手から離れている。


「……あなた、勝てるつもり?」


 翌日の仕事を考えれば深酒はできない。いつも通り、ビールの大瓶を二人で分け合う質素な酒宴が佳境に入ったころ、ベイカーが周囲がこちらに聞き耳を立てていないことを確かめてからつぶやいた。


「元よりそのつもりだ」

「……本気?」

「自分が信じてもないことを部下にさせるのは、私の主義に反する」

あきれた。自己暗示で戦争に勝てるなら、今頃地球はファラオかローマ皇帝が統治してるわよ」

「それは興味深いな。帝都にそびえるオベリスクというのも見てみたい」

「バカいうんじゃないの……あなたがそういうときは、大抵追い詰められてるでしょ。分かるんだから」


 図星を突かれた私は、とりあえず手元にあったグラスの中身を飲み干した。ホルバインも大概だが、彼女も付き合いが長いだけに、私の考えをよく見通している。


「アリーは俺のことをよく分かってる。君を嫁にしていたら、離婚などせずに済んだかもな」

「はい!? ……あなた、離婚してたの?」


 内容が内容だけに、さすがのベイカーも声を潜める。私としては今更隠すことでもないが、友人挨拶に出てくれた彼女には、知らせておくべきだったのではないかと思った。


「……軍を辞めたあとに、すぐな」


 非難されてしかるべき。ベイカーのビンタでも飛んでくるのではないかと覚悟していたが、私の予想に反し、彼女は冷静だった。


「友人代表でスピーチまでしたんだから、私にくらい知らせてくれれば……まあ、夫婦のことは私が口を出すことじゃないか」

「私は仕事しか能のない男だ。たまの休暇も家に帰らず、どこかしこの厄介ごとに首を突っ込みたがる。そういう気質が、家庭崩壊の元だった」


 妻を喜ばせる術を知らない男の末路だった。軍を辞めさせられて、落胆と言うよりは空っぽの頭と体でロージントンの自宅に帰り着き、子細を話さずクビになったことを告げた。妻にヒステリックな声で将来を約束された有望な若手士官だと聞いていたのにといわれたとき、私はまるで、補給物資の申請に来た将校を相手するかのように、事務的に離婚手続きの指示を出してしまった。三日と経たず妻の実家から離縁の知らせと手続きの完了、家の引き払いなどが、これまた事務的に書面で届いた。あれから一〇年、彼女はどうしているのだろう。まあ、夫であることを放り出した私が気にするような資格はないのだろう。


「まあ私は元々家庭人になるような器がなかった。それだけのことさ」


 たかだかビールを二杯飲んだくらいで舌の回りが良くなってきた。自分でもあまりに露悪的ではないかと思わないでもない。


「確か東部軍のお偉いさんの娘だったでしょ? 何事もなければ、あなたは東部方面軍参謀本部長、かたやその令夫人となっていた未来もあるか」


 そう、私の妻だった女性は帝国軍東部方面軍の高官の娘だった。そんないいとこのお嬢様を傷ものにしてしまったのだ。それだけでも軍に居られない理由になる。


「そうだな……ただ、私は帝国軍の方針を潔しとは思えなかった、あの当時はな」


 扇動家達がの臣民を巻き込んだ叛乱を起こすのには私も反対だ。しかし自らの意思で帝国を捨て、辺境惑星連合に亡命するというなら好きにさせれば良い。少なくとも今の帝国は普通に暮らすのに何の不自由もない。それでも向こうにいきたいというのだから、放っておけば良い。そんな連中のことまで軍を派兵し、取り締まる必要があるだろうか。いたずらに火の気を増やし、辺境の臣民に帝国が自分達を弾圧する恐怖の対象と思われるよりよほど良い。


「今は違うの?」

「帝国軍の不始末で飯を食ってるのが今の私だ。文句をいう立場にないよ」


 帝国軍事企業の存在意義は精々そんなもので、帝国軍事企業規定にあるような、帝国臣民の盾とか帝国の剣とかいう高尚な意義など存在しない。あるのは資本主義に則った利益至上主義と、競争精神の塊だけだ。帝国軍の不始末を拭うちり紙のようなものであり、営利団体として活動する。それが帝国民間軍事会社の正体であり、私はそこに連なる者として、それらを否定する気は一切ない。


「卑屈ねぇ……」


 我ながらそう思う。結局残ったビールを全て自分で飲み干してしまい、ベイカーが苦笑しながら追加の酒をオーダーしていた。



 二三時〇九分

 官舎


 その日の夜、寝る前に次の日の閣議に提出する資料を確認していたときだった。酒の酔いも覚めるような絶望的な資料を読む私の元へ来客があった。


『参謀総長、お休みのところ失礼します。グリポーバルです』


 こんな夜分遅くに訪ねてきて、ホルバインでもあるまいしウイスキーでも分けてもらいに来たようには思えない。ビールの大瓶程度で酔うほど酒に弱いつもりはないが、一応酔っぱらいの顔ではないかを確認してからドアを開ける。


「何かあったのか?」


 宿舎の夜間照明でも、それと分かるほど青ざめた顔をしたグリポーバル参謀の表情に、私は思わず全神経を戦闘態勢に切り替えた。


「司令長官閣下が、先ほど軍病院へ収容されました。心臓発作で倒れたとのことですが、詳細はまだ不明です」

「詳しく容態を確認しておきたい。病院へいこう」



 二三時二九分

 軍病院 循環器科棟


「司令長官閣下は意識ははっきりしておりますが、長時間の軍務に耐えうるお体ではありません。極度の緊張、睡眠不足。食事もまともに取られていない様子でして」


 軍病院の医務中尉が病室へ私を案内しながら病状説明をしてくれる。


「症状は典型的な狭心症の発作です。病歴を調べましたが、司令長官就任以前は比較的ご健康でしたから、やはりここしばらくの過労やストレスが原因かと」


 医者の不養生などと笑っていられない。何せこちらも同様のストレスを受けることも考えられる。私などはともかく、ベイカーやグリポーバル参謀といった面々まで倒れては、防衛計画どころではなくなってしまう。


「いけません司令長官、まだ立ち上がられては!」


 病室に入るやいなや点滴のスタンドをつえ代わりにして、司令長官閣下が私の元へ歩いてくる。


「こんなところで寝ているわけには……! 柳井君……頼む、防衛作戦はなんとかして実現せねばならん。私は――」


 そこまでいい終えると、司令長官閣下は再び床に崩れ落ちた。軍人としての才覚はともかくとして、彼の責任感は尊敬に値するものだろう。


「緊急の閣議が必要な案件が生じた。グリポーバル参謀、各所に連絡を取ってくれ」

「はっ、直ちに」


 ふと、昼間の会議で司令長官閣下の具合が悪そうだったのは、私とベイカーの作戦案が彼の神経にトドメを刺したのではないかと、この事態に対する責任を感じていた。



 一〇月二〇日 

 〇〇時四三分

 政庁ビル 大会議室


「司令長官閣下が倒れられるとは。参謀総長、作戦計画に影響は出ないのか?」


 リリュー子爵の言葉に、深夜に召集された閣僚達はあんたんたる表情を隠さなかった。軍事の素人であるというのは皆共通の認識だろうが、それでも全軍の司令長官が倒れるというのは、心理的ダメージが大きい。


「はっきり申し上げれば、そこまで大きなものではありません」


 すでに作戦大綱は司令長官の裁可済み。自動的に実行されていく。司令長官の仕事の八割はこの時点で完了したといってもいいくらいだ。


「……部外者の分際で、よくもまあはっきりと」


 私に対しての意見が辛くなるのも無理はない。財政相のシモン男爵は私への警戒心をまだ解いてくれていないようだ。


「財政相、すでに彼は我が国家の存亡に関わっている。いつまでも部外者などと蔑むのは控えたまえ」

「しかしリリュー子爵。そこにいる近衛の参謀はともかく、彼は軍事企業の部長程度でしかない。コルベール国防大臣が代行するほうがふさわしい」

「いや、その、しかし……」


 コルベール国防相は、私とシモン男爵、リリュー子爵を交互に見ながら、しかし間に入って仲裁まではしてくれない。いや、むしろ間に入れば余計にことがこじれるかもしれないから、これでいいのかもしれないが。


「程度といわれれば、我々なんぞ国が興って半年。偉そうに爵位など頂いているが、所詮は国家統治の素人。政務の根幹をなすのは官僚達だ。その程度の人間が、部外者などと彼を笑っていられるかね?」


 リリュー子爵の自虐も含んだ痛烈な言いように、さすがの財政相も黙り込んでしまった。それに追い打ちをかけるように、アルトボイスがおおかぶさる。


「リリューのいうとおりだ。この期に及んでその言い草はなかろう、シモン」


 いつも通りのゆったりした所作で、慌てることもなく泰然とした一国の長たる者の模範ともいえる伯爵の登場で、この場はどうにか収まったようだ。


「軍最高司令官の不在は問題だ。しかしコルベールが国防相との兼務は難しかろう。この時期に軍政を司る者まで倒れられては困る」


 伯爵が席に着くと同時に、他の者も着席する。


「軍令の長は私が直轄指揮するものとして、実務面は参謀総長、君に委ねよう」


 これにはさすがに私が面食らった。伯国に来て一ヶ月足らず、まともに顔を合わせた将兵など両手足の指で収まる。そんな人間が軍司令部の中枢を統率できるのだろうか。


「なに、人間追い詰められればや面子だけで物事が運ばんということは理解するさ」


 伯爵の言いようは、なんとも末期的なものだとも取れるが、確かにそのとおりだ。結局、このあと私が司令部に赴いて伯爵の決定を伝えても、誰一人として反論する者はいなかった。



 一一月二〇日 

 一二時〇〇分

 防衛軍総司令部 大会議室


 私が参謀総長兼司令長官となって更に一ヶ月が過ぎた。部内の掌握は伯爵と防衛相、各スタッフの協力もあって上手くいき、防衛作戦も当初想定通りの流れで進んでいる。敵艦隊も未だピヴォワーヌ伯国の領宙圏には到達していない。


『部長、いや今は参謀総長閣下とお呼びすべきですかな?』


 画面に映る私の実の部下、アスファレス・セキュリティ巡洋艦エトロフⅡ艦長のエドガー・ホルバインは、やや無精ヒゲが目立つくらいで、大した疲れも見えない。これが若さかとも思った。


「まどろっこしい挨拶は抜きだ。首尾はどうだ」

『敵の補給船団の量もさることながら、こちらに侵攻艦隊の一部を振り向けたのでしょう。迎撃も激しくなってきて、ざっと見て一個艦隊くらいはつけてそうです』


 いつも通りの砕けた調子で報告を続けるホルバインを、会議に出席している防衛軍司令部の面々は奇妙なものを見るような目で見ている。仮とは言え自分達の上官、それも軍最高責任者に対しての態度に見えないせいだろう。そんなことを気にする私やホルバインではなく、そのまま五分程度会話を続けた。


「そろそろ敵の補給線への攻撃も限界かな?」


 私の問いかけに、ホルバインは妙に神妙な顔をして見せた。


『特攻覚悟なら、補給艦の二、三杯は沈めて見せますが』

「冗談をいうな」


 ホルバインにしても本気ではないだろうが、ことさらに私はホルバインをたしなめた。ただでさえ若手将校の間で、特攻覚悟の防衛作戦を実施すべきとの機運もある中で、ホルバインの発言はやや軽率だったからだ。


「現時刻をもつて敵補給艦隊への襲撃作戦は完了する。直ちにラ・ブルジェオンに帰還してくれ」

『はっ。ラ・ブルジェオン帰還は二日後の予定です、それでは』


 ホルバイン指揮するアスファレス・セキュリティ護衛艦隊は損害ゼロとはいえ、休息も必要だろう。彼らの戦力は、ピヴォワーヌ伯国防衛艦隊にとっては貴重すぎる。しかし頼みの綱の艦艇も、エトロフⅡとワリューネクルを除くと、対空火力一辺倒のタランタル級重コルベットなのが惜しい。私の認識の甘さが招いたこととはいえ、やはり資金力が厳しい会社艦隊というのは、難しいものだ。


「聞いてのとおり、敵補給線への攻撃により敵主力を足止めするのはもう無理だ。そろそろ敵もこちらの意図に気づいてくるはずだ……敵主力艦隊襲撃は?」

「ダメね。四時間前に実施した襲撃では、反撃にあって駆逐艦二大破により自沈。巡洋艦一中破、現在後送中。戦死者は幸いゼロ」


 こちらも参謀次長とは言え、やはりざっくばらんな口調のベイカーなものだから、他のスタッフはげんな顔をしている。せめて他の者の前だけでも、参謀総長への態度らしいものを取ってもらうようにしたほうが体面は整うだろうか。


「そちらも終了。待機中の艦艇も直ちに帰投させろ。 グリポーバル参謀。敵の到達予測は?」

「敵の現在位置から推測すると、最短であと一週間程度です」


 星系自治省経由で送られてくるデータには一切の狂いもなく、それだけに現実から目をはやらせすことも許されない。しかし、 本来であれば、今頃軌道上は辺境惑星連合の艦隊で埋め尽くされているころだ。十分とは言い切れないが、時間を稼ぐことはできた。


「一週間か……エマール提督、演習のほうはどうです」

「参謀総長が提案したパターンはおおむね完了しています。今は全艦整備と休養を取らせています」


 本来であれば、あらゆる戦術を駆使して敵に対抗したいところだが、いかんせん準備時間がなさ過ぎた。いや、たとえ今の倍あったとしても足りないくらいだ。私とベイカー、グリポーバル参謀とで考えたパターンの演習を行うだけで精一杯だった。しかし、将兵一丸となり、よくこれだけの短期間で終えられたものだ。


「では整備と休養が完了したら、休養を終えた分艦隊を動員して、防衛衛星と誘導機雷を追加敷設しましょう。在庫から見てそこまで重防御はできないでしょうが」


 超空間潜行は、万全を期すために二段階の対象天体への接近シークエンスが組まれる。第一段階は、星系外縁、大抵はその母恒星に属する最外縁の惑星軌道への浮上。ここで一旦軌道の最終確認を行う。続いて第二段階は対象天体の重力圏外縁。ここまで来れば、通常推進でも十分移動可能な距離になる。だから大抵、惑星を防衛する側は、第二段階の敵を攻撃するため、防衛策を講じる。

 しかしこれもまた、ピヴォワーヌ伯国防衛軍では十分な体制を整えられない。しかし、無い物ねだりをしたところでどうしようもない。軍人とは与えられた戦場と装備で最善を尽くすのが本分なのだから。



 一四時〇〇分

 参謀総長執務室


『第一二艦隊は何も分かっていない! 何故あんなにもノンビリしていられるのか、私には皆目見当がつきません!』


 開口一番、顔を真っ赤にして激高しているクリモフ指導将校。司令部会議でこれを見せるのは刺激が強いということで、作戦会議の席で報告させることはない。


「やはり第一二艦隊は動きませんか……」

『こちらでも司令部に強く働きかけていきますが……私の無力さを恥じるしかありません……!』

「指導将校殿のせいではありません。こちらはなんとかしますから、指導将校殿は引き続き、第一二艦隊司令部の説得をお願いします」


 そう、これは彼のせいではない。どこの指導将校が出向いたとしても、第一二艦隊は動かないだろう。


『了解しました……このクリモフ、なんとしてでも第一二艦隊を動かして見せましょう』


 通信が切れると、その場にいたグリポーバル参謀とベイカーは大きなため息をついた。


「彼大丈夫? この戦いが終わるころには心臓発作か何かで倒れるわよ」

「クリモフ指導将校の神経は、いわば湯沸かしポットみたいなものでね。あれが平常運転なんだ」

「しかし、第一二艦隊が動かないとなると、本格的にこちらだけで防戦せざるを得ません。どの程度持ちこたえられるか……」


 暗澹たる表情のグリポーバル参謀は、作戦指示書を見つめながら溜息をついた。


「当面はアスファレス・セキュリティの第一、第二艦隊を頼みの綱とするしかないだろうな」


 本来であればピヴォワーヌ星系第五惑星ティージュ辺りを決戦の場に選びたかった。平凡なガス惑星であり、巨大な衛星こそ持たないものの、美しいリングは艦隊を伏せておくのにちょうど良いし、敵の機動力を削げる。敵がこちらを無視すれば、惑星降下揚陸作戦中の敵の後背を突くこともできる。敵は第五惑星を無視できず、足止めをくらう……というのが、私の理想だった。


 しかし、敵との兵力差はそういった小細工を抜きにして、敵が艦隊を二分すれば済む話だった。片方が私達をけんせいし、片方は無防備な首都星を直撃する。これではあまりに間の抜けた話だ。だからこそ、私達は危険を冒してでも、首都星を背にして、防衛戦を展開しなければならない。


「軌道航空軍とか降下揚陸兵団にもツテがないわけじゃない。増援を依頼してみる?」


 ベイカーの助け船に、私は首を振った。帝国軍と大枠でくくっても、内部は帝国艦隊、いわゆるナンバーズフリート、各星系の防衛軍があるが、軌道航空軍と降下揚陸兵団は、かつて陸海空軍と軍隊が分かれていたころの名残のようなもので、独自の指揮系統を維持していた。


「軌道航空軍の装備は、あくまで対惑星地表用のものが主流だ。敵艦隊攻撃に参加できないでもないが、効果は薄いだろう」

「乱戦に持ち込めば、近接攻撃に持ち込めるんじゃない?」

「無理だな。今の艦隊戦力で乱戦なんて持ち込もうとしたら、その前に狙い撃ちにされる」


 現代宇宙戦闘において、強力な電磁防壁や高度な長距離射撃性能を持つ戦闘艦に対し、戦闘機サイズの兵器に積める火器では大した戦果を上げることができない。そもそも旧世紀の海上で戦艦が航空機に敗北したことを、宇宙空間における戦闘艦と航空機の関係に置き換えることはできない。何せ大気のじようらんがなければ、数十万キロ先からでも戦闘艦は砲撃を命中させられる。一方、戦闘機サイズの機動兵器では、サイズの制約で大火力、長射程の火砲は積めないし、防御力ははるかに劣る。自然、戦闘機などは惑星地表から大気圏外縁までの制空権確保、地表面への爆撃が主任務となる。降下揚陸兵団が艦隊戦でほぼ無力なのはいうまでもない。移乗攻撃など海賊のやることで、まともに艦隊戦が繰り広げられているところに飛び出しても、的になるだけだ。


「軌道航空軍も降下揚陸兵団も、実態としては国内向けの治安維持力だ。今回出番はない。近衛艦隊はどうなんだ?」


「まだ宮内省の許可が下りないみたいね。陛下が渋ってるのか、それとも宮内大臣辺りが妙に張り切ってるのか。今頃公爵殿下が荒れ狂ってるのが目に浮かぶわ」


 ナンバーズフリートは帝国各方面軍の指揮下にあるが、近衛艦隊は皇帝陛下直属の艦隊として、制度上は宮内省の指揮下に入っている。だからこそ、今回は宮内省が特例として出兵を認めれば、いち早くピヴォワーヌ伯国に駆けつけられるのだが。その辺りは私よりもベイカーのほうが詳しい。


「そもそも、東部方面軍管区の管轄内に近衛が入り込むなんて、叛乱でもない限り物騒でしょうし」

「ここで我々がため息をついても仕方ない。打てる手は全て打とう」

 そう、まだやることはある。我々はそれぞれの仕事に向かい合うことにした。



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