神宮寺家の双子たち⑤


 神宮寺 修は会社員である。母は祖父の会社を継ぎ、社長をやっているが、修も双子の妹の阿綺羅も母の会社には勤めていない。母の会社に入社しては甘えが出てしまうからという建前で他の会社に入社したが、二人の本音は母の小言を職場でも聞かされるのは勘弁して欲しいというのが的を射ているだろう。

 今、勤めている小さな会社では自分が他の会社の社長の息子だということは誰も知らない。色眼鏡で見られるのは嫌だなという気持ちと、わざわざ言うこともないだろうと思って黙っている。

 だから、この会社の人間には神宮寺 修という人間は身体の大きな太った人、さらにオタクな趣味を持っている人間だと認識されている。裏では何かこそこそ言われてるのかも知れないけど、オタクなのは本当のことだから仕方ないし、社員の皆は大人なので直接からかってくるようなこともないので問題ないのだ。

 母は社長だが、父もまた別の会社の社員だ、父はあまり出世には縁がなさそうな感じだが本人はあまり気にしてないようだ。やはり本人の意識としては会社員よりも武術家としての意識が強いのかもしれない。

 父は本当は僕か阿綺羅に武術を教えたかったようだが、僕も妹も興味を示さなかったので諦めたようだ。申し訳ない気持ちは多少はある、でも最近は父の友人の息子さんが教わりに来ているので父も少し楽しそうだ。


 そんな僕が会社にて午前中の仕事を終えて、昼休みになったときに外にご飯でも食べに行こうと仲間の男女数人と社外に出る、この中に同僚の浅見 瑠璃(るり)さんが珍しく参加していた。彼女は社内でも人気の女性社員だ、勿論、僕とは接点もないくらい高嶺の花である。仲間の誰かが彼女を狙っているのか、この昼食の集まりに誘ったようだ。


 広いテーブルの対角線の向こうに浅見さんは座っている、そんな彼女の対面にはやたらと張り切って話し掛ける男がいる、きっとこの男が彼女を狙っているのだろう。そんなことを気にせずに僕は好きなご飯に集中して食べていたら、浅見さんはこちらをちらりと見て目を細めて笑っていた。そんなに僕の食べる姿が面白かったのかな?


 そんな和やかなプチ昼食会を中断させるような闖入者は突然やって来た。


 「おう、瑠璃。こんな所にいたのか!」


 「……トシアキ。なんで貴方がここに!?」


 「ははは、そりゃ俺と瑠璃は運命の赤い糸で結ばれた二人だからじゃねぇかな?」


 「そんな訳ないでしょ、貴方とは別れたんだから……」


 ……どうやら浅見さんの元彼が現れたようだ、矢鱈と厳つい格好を身に纏い、服の隙間からはわざと彫り物を見せるようにしている男の出現にテーブルの同僚達は沈黙するしかできなかった。そんな僕達をちらりと見てニヤリと笑った男は


 「なぁ、そんな口を俺にきいてもよいと思ってるのか?」


 「……なによ、何が目的なの」


 「ははは、いや、さぁ、ちょっくらパチンコで負けちゃってさ。少し融通してくれや」


 「……なんで私が」


 「いいじゃねぇか、彼氏の頼みぐらい聞いてくれよ」


 「なんで私が、もう貴方とは別れたって言ってるじゃないの!」


 「ふーん、それじゃ……」


 そういってその男は浅見さんの耳元で何かを囁いたら、浅見さんは顔を真っ青にして俯きながら


 「……わかったから」


 そう言って、席を立ち、男を連れて僕達から見えないところに行って、しばらくしてから彼女は戻ってきた。


 同僚達の目の前でその男は浅見さんの肩に手を回し、嫌な笑みを浮かべ


 「それじゃ、またな」


 そう言って僕達を睨むように帰っていった、暗に「俺の女に手を出すなよ」と言っているようだった。


 席に戻ってきた浅見さんは突然やって来た元彼のせいで場の空気が悪くなったことを僕達に謝罪して、いたたまれなくなったのか「……先に戻りますね」と言って席を立って会社に戻ってしまった。残された僕以外の皆の話題は先程までの出来事が中心で、勿論、憶測も含まれたあまり面白くない内容で……僕は少し気分が悪くなった。


 

 

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