神宮寺家の双子たち⑥


 あの昼食会以来、浅見さんは社内で腫れ物のような扱いになってしまった。会社の男性達は危ない元彼がいたような女だという色眼鏡で見るようになったし、女性達は裏でこそこそ彼女の噂話をしているようだ。


 僕がたまには一人で昼食をとろうと外に出て、チェーン店のハンバーガー屋で済まそうかなと注文して、座る場所を探していたら……浅見さんがいた。

 社内の空気が辛いのか浅見さんは昼食を一人で寂しそうにとっていた。僕はそんな彼女を見て


 「浅見さん、前の席良いかな?座るところがないんだ」


 トレイを持ってお願いしたら、浅見さんは少し迷ってから


 「……どうぞ」


 そう答えてくれた。お礼を言って着席して、さぁ食べ始めようとしたら目の前の浅見さんはクスッと笑った。僕が浅見さんを見たら


 「ふふっ、ごめんなさい。本当にお食事が好きなんですね。この前の時も本当に美味しそうに食べていらっしゃって」


 そんな風に笑っていたので僕も「へへへ、見た目の通りご飯の時間が大好きなんだ」と自分のお腹を撫でた。そんな僕のことを馬鹿にするような感じではなく、ただ面白いと更に浅見さんは笑ってくれた。やっぱり彼女は笑っている方が可愛らしい。


 「……神宮寺さん、この前の食事会はすみませんでした。皆さんが楽しくお話しているときに……」


 浅見さんは部外者が邪魔してきたことをまだ気にしているようだ。


 「そんなこと気にしなくて大丈夫だよ……」


 「はい……ありがとうございます」


 彼女はそうお礼を言うが、やっぱり気にしているようで、うつむいて視線をこちらに合わせられないようだ。


 「……まだ、元カレは浅見さんにつきまとっているの?」


 そう浅見さんに尋ねたら、彼女は少し迷ってから


 「……はい」


 と答えてから涙を溢したので、僕は慌てて「話を聞くから場所を変えよう?」と彼女を連れて周りに誰もいない公園に移動した。


 「……すみません」


 「本当に大丈夫だから」


 彼女に詳しく話を聞いたら、その気はない彼女に元彼は強引に復縁を迫っているらしい。


 「……昔の私が馬鹿だったんです、あんな男が格好いいなんて勘違いして……そして……」


 彼女はいつも着ている長袖の服の左腕をギュッと握る。いつも隠している二の腕には……若気のいたりで元彼の名前を彫ってしまったらしい。


 「……お金を貯めてコレを消すのが私の目標なんです……」


 涙をこぼしながら教えてくれた浅見さんに「綺麗なやつだから使って」とハンカチを貸して


 「うん、頑張って過去も一緒に消そう。僕も応援するよ」


 そう伝えたのだが、彼女はやっぱり俯いたまま


 「……はい。ありがとうございます。でも、あいつは私のことを諦めないんです、あいつの周りにいるのもタチの悪い人間ばかりだから……」


 浅見さんは会社を辞めてまで元彼から逃げることも考えているようだ……


 「……きっと大丈夫だから……」


 そう彼女に答えながら僕に出来ることはないのだろうか……真剣に考えていた。

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