神宮寺家の双子たち④


 神宮寺 真一郎、俺の武術の師匠のお宅にお邪魔する、とても大きなお屋敷だ、広い庭もある。聞いた話では師匠の奥さんが会社の社長らしい。


 俺の学校の休みと師匠の仕事の休みが重なったときだけだが集中して稽古をつけてもらっている。今日もそういう訳でお邪魔しているのだが……


 「はじめくん、頑張ってー」


 いつもは俺と師匠だけの稽古なのに、今日は見学者がいる。この前、俺が家出していたときに助けてもらった神宮寺 阿綺羅さん、師匠のお嬢さんだ。何故か面白そうに俺の稽古を眺めている。


 「……何で阿綺羅がいるんだ?」


 師匠が彼女に尋ねると、阿綺羅さんは


 「偶々よ、偶々、実家に帰ってきたときに面白いことしてるから見学してるの」


 阿綺羅さんがそんなことを笑いながら師匠に言えば


 「……そうか、邪魔しないようにな?」


 「はーい。はじめくん、しっかり鍛えてる?」


 阿綺羅さんがにっこりと笑いながら聞いてくるので、俺は少し照れながら


 「……頑張ってます」


 そう目を合わせずに答えたら、阿綺羅さんはクスクスと笑って


 「ふふっ、頑張ってイイ男になってね。お姉さん、応援してるから」


 そう言って、阿綺羅さんは嬉しそうに俺の稽古を眺めている、そんな様子を見て師匠は俺に


 「……弟子の分際で俺の娘に手を出したら殺すからな?娘が欲しければ少なくとも俺より強くなってからだ」


 そんな恐ろしいことを言うので


 「ははは……そんな度胸、あるわけないじゃないですか……」


 と、俺はひきつった笑顔で師匠に答えることしかできなかった。


 師匠の奥さんはお出かけしていたようで、お昼は何か店屋物でも頼もうかと師匠は言っていたのだが、阿綺羅さんが


 「あら、それなら私が作るわよ」


 と言い出したのでお昼は阿綺羅さんの手料理になった、師匠は何か微妙そうな表情でその料理を食していた。俺もご相伴にあずかったがとても美味しかったので何で師匠がそんは表情をしていたのか不思議だった。


 「はじめくん、美味しい?」


 「はい、凄く美味しいです」


 「そう?それは良かった」


 終始ご機嫌な阿綺羅さんは午後は用事があるからと帰っていったが、師匠は最後まで微妙そうな表情をしていた。


 「……まぁ、良いか。それじゃ、休んだら午後も鍛練するからな」


 「はい」


 俺と師匠が食休みをしていたら、阿綺羅さんのお兄さんの神宮寺 修(しゅう)さんが部屋にやって来た。

 神宮寺 修さんと阿綺羅さんは兄妹と言っても、双子の兄妹なので年齢は同じなのだ。うちの父親は命名が終わった後にこの二人の名前を聞いて


 「……神宮寺の執念のような名付けだな……」


 と呆れていたと聞いたことがある。


 「創くん、いらっしゃい。あれ?父さん、今日は近くの蕎麦屋に注文したんじゃないの?この料理は誰が作ったの?」


 「……阿綺羅の奴がやって来て、ご機嫌に作っていったぞ?珍しいこともあるもんだ」


 「へぇー、珍しいこともあるもんだね。そういや、阿綺羅は彼氏と別れちゃったみたいだから暇なのかもね」


 「そうなのか?あの例の男と?」


 「そうそう、何処かの実業家だって言ってた……」


 そんか神宮寺親子の会話を口を挟まずにただ聞いていた。阿綺羅さんの元彼はいくつか年上の実業家だったらしい。その内容を聞いて、やっぱり阿綺羅さんは大人の女性なのだなと何故だか少なからず衝撃を受けていた。


 そんな話を終えた神宮寺 修さんは


 「それじゃ、創くん。ごゆっくり」


 そう挨拶をして修さんはのしのしと部屋を出ていった、修さんは巨漢なのだ。そんな息子さんを見て師匠は


 「……あれもなぁ、武術をやれば良いのになぁ」


 師匠は修さんを見ながらそんなことを言った、どうやら息子の修さんも、娘の阿綺羅さんも神宮寺師匠の武術に興味がないらしい。せっかくの武術を伝えなくて良いのですか?と聞いたこともあるが


 「……神宮寺の当主は妹の紅花が継いだ、そして、家の業は娘の月香に伝え残している。だから俺は良いのさ」


 そう笑っていた。少し寂しそうな気がしたのは俺の気のせいではなかったと思う。

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