神宮寺家の双子たち③


 阿綺羅さんが一人暮らししているマンションで服が乾くまで過ごさせてもらい、誰にも見られないように早朝に出ていくことにした。


 「もうちょっとゆっくりしていけば良いのに」


 阿綺羅さんはそう言ってくれるが、誰に見られるかわからないので俺はこの時間を選んで支度をした、阿綺羅さんのお陰で服も乾き準備万端だ。


 「本当にありがとうございました……」


 俺は阿綺羅さんに何てお礼を言えば良いのかわからなかったのでそんなありきたりの台詞しか言えずにいたら


 「ふふっ、はじめくんが昨日から私の家に居たことは二人だけの秘密ね?未成年の男の子を一晩泊めたなんてはじめくんのご両親も心配するし、うちの両親に知られたら私が怒られちゃうからね」


 阿綺羅さんは笑いながらそんな提案をしてきたので、俺は迷いながらも阿綺羅さんの話に頷いた。


 「それじゃ、またね。はじめくん」


 「はい、お世話になりました」


 俺は頭を下げて阿綺羅さんの家の玄関をこっそりと出た。


 ☆☆☆☆☆


 出ていく鳴海 創君を玄関で見送ってマンションの中に戻り、窓のそばに近づいたら、外を歩く創君の後ろ姿が見えたので、ベランダに出て「こっち見ないかな?」と思ったら、私の念が通じたのか、創君はこちらを振り向いたので手を振った。創君は少し恥ずかしそうに小さく手を振って、頭をペコリと下げて帰っていった。


 「あ、行っちゃった。ふふっ、それにしてもはじめくんは可愛かったな」


 両親の知り合いのお子さんとはいえ、未成年の男の子を泊めたなんてうちの両親が知ったらさぞや鬼のように怒るだろう、主に母の方が。だから今日のことは二人だけの秘密、誰にも内緒だ。


 「あぁー、でも本当にはじめくん、可愛いなぁ。お姉さん本気になっちゃおうかなぁ」


 ひょっとしたら年下好きなのかもしれない。それなら絶対にうちの母に似たんだなと苦笑いしながら、まだ朝早いので二度寝しようと私はベッドに寝転んだ。


 ☆☆☆☆☆


 俺は阿綺羅さんの家から辞去し、ゆっくりと歩いて歩道橋の下に着いたら体育座りをしてぼんやりと過ごした。お昼になって空腹を感じたけど俺は買い出しに行く気にもなれずそのまま座っていた。そうしていたら、日が暮れ始めて


 「……帰ろうかな」


 そう自然と口に出た。母さんは心配しているだろうし、姉さんは……怒っているかもしれないけど、今はその怒りを受け入れようかなという気持ちになっていた。


 俺は立ち上がり、のそのそと歩き、家の前に辿り着いた。少し躊躇いつつも玄関の扉を開けたら


 「は、創っ!帰ってきたのね!」


 待ち構えていたらしい燕姉さんが飛び掛かってきたので少し身構えたら


 「馬鹿っ!家出するなら何処に行って何時に帰るか言ってから行きなさい!お父さんもお父さんよ!創を見つけたなら引き摺ってでも連れて帰ってくれば良かったのに!もう!皆して馬鹿っ!」


 俺を胸に抱き締めて姉さんはわんわんと泣いていた、そんな姉の姿に


 「ごめんね、姉さん。心配かけてごめんなさい……」


 俺も泣けてきた。泣き叫んだ姉の声が聞こえたのか、父さんと母さんも玄関にやって来て


 「おかえり、創」


 「おかえりなさい、創ちゃん。お腹すいたでしょ?何か作るわね」


 両親も笑顔で迎えてくれた。その時の俺が思ったのは


 姉さんに貧乳なんて言ってごめんなさいと心の中で謝罪した。姉さんにもきちんと存在していた柔らかいものを感じながら「なんで女の人はこんなに柔らかいのだろう?」という疑問と、たった一日の家出でも寂しさや不安でこんなに心が揺れるのに、父さんは敵と戦いながら家に帰れなかった二週間を過ごし、すべて片付けて誰も待っていない家に帰ったときの気持ちを想像したら、父さんは精神的に化け物なのかもしれないと畏怖した。


 ☆☆☆☆☆


 後日、姉さんと改めてお互いにきちんと謝罪し合った。


 「……私も悪かったわ、今度からきちんとノックして返事が聞こえてから部屋に入るって約束する。でも、創。ああいう行為はみんなが寝静まってからして欲しい……」


 姉さんは顔を赤らめながらそんな話をする、どうやら姉さんも母さんや父さんから色々と今回のことを注意されたらしい。

 

 喧嘩の原因は姉さんがノックだけで、俺が返事をする前にいきなり俺の部屋に入ってきたのだ、俺がパソコンのモニターの前でパンツを下ろしてとある行為に励んでいた時に。それで姉さんに「へ、変態っ!!」と怒鳴られたので喧嘩になった。本当に情けない話だ、こんなこと誰にも言えない。


 「……うん、俺も悪かったです。それでその……」


 俺は姉さんに土下座して


 「今回、姉さんが見たことは玲楓や月香さん達には何卒、内密にお願いします!」


 頭を床に押し付けて、共通の女の子の知り合いには絶対に内緒にしてくれと懇願した、結局は俺の土下座で幕を閉じた。


 

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