神宮寺家の双子たち②
「……どうしてこうなったのだろう?」
いま現在、俺は初めて入った一人暮らしの女性の家でシャワーを浴びている。冷えた身体をシャワーから流れ出るお湯で温めていると
「……はじめくん、きちんと温まってる?」
そんな大人の女性の声が浴室の外から聞こえる
「は、はい。大丈夫です」
「そう?それじゃ濡れた服は洗って乾燥機にかけちゃうからね?」
そう言って、曇りガラスの向こうでゴソゴソする音が聞こえた。曇りガラスを一枚挟んだ向こうに女性がいるのに俺は素っ裸でシャワーを浴びている、凄く恥ずかしい状況に俺の身体の一部が反応しそうになってしまう。
「……落ち着け、俺」
深呼吸してどうしてこうなったかを思い返す。
☆☆☆☆☆
燕姉さんと喧嘩をして家を飛び出して、父さんから財布を受け取った俺は何か買い出しにいこうと歩道橋の下から出て街に向かったのが間違いだった。母さんの作ってくれたおにぎりを食べたんだからおとなしくしていれば良かったのに、まさか突然雨に降られるとは
「ヤバい、空腹よりこれはもっと不味い」
雨が降ったときが街中にいるときならいくらでも雨宿りできただろう、でも最悪なことに雨が強く降り始めたときにいたのは街から離れた開けた場所で雨宿りできる場所が無かったために雨に濡れてしまったのだ。
「下手したら風邪を引いてしまう……」
寒さに震えながら街に向かって歩いた、未成年だが上手くこの時間でもやっているスーパー銭湯やシャワーのある漫画喫茶にでも潜り込めないかと考えていたら
「あれ?もしかして……はじめくん?」
そう問いかける声の方を向いたら、どこかで見たことがある女性が……
「神宮寺師匠の娘さんですか?」
「ふふっ、そう神宮寺 阿綺羅(あきら)よ。覚えてたかしら?」
何度かお見かけして、挨拶程度はしたことのある神宮寺師匠のお嬢さんが傘をさしながら立っていた。お互いの両親が友人なので、俺が幼い頃には阿綺羅さんに遊んでもらったことがあるそうだ、俺は覚えていなかったが、向こうやうちの姉さんはちゃんと覚えてるらしい。その程度の顔見知りなのだが、阿綺羅さんは濡れ鼠になっている俺を見て
「……どうしてこんな時間に傘もささずに歩いているの?」
そう尋ねてきたので、喧嘩の原因は話さずに姉と喧嘩をして家に帰りたくないのだと伝えたら
「あらら、お姉さんと喧嘩したの?それにしてもそのまんまじゃどうしようもないじゃない。そうだ!うちに来なさい」
神宮寺師匠の家に?と思ったら「違う、違う。私の家に」と目の前の阿綺羅さんはにっこりと笑うのだった。
☆☆☆☆☆
そういう訳で、俺が武術を習っている師匠の娘さんのお宅でシャワーを浴びていたのだ、勿論、下心なんぞない。ここで変な気を起こしたら師匠に殺されるだろう。下心なんかないはずなのだが……
「はじめくん、寒くない?ごめんね、はじめくんが着れるような服がなかったのよ」
下着まで洗濯されてしまった俺は、風呂上がりで腰にバスタオルを巻いただけの極めて防御力の低い状態だ。それに対して阿綺羅さんは
「……阿綺羅さんは家では結構ラフな格好なんですね」
「それはそうよ、家のなかでスーツを着て生活はしないわよ」
「そうですよね……」
どこかの会社で秘書をしているらしい阿綺羅さんは先程まできちっとしたスーツ姿だったのだが、「ふふっ、覗いちゃ駄目よ?」と言って俺の後にシャワーを浴びて出てきた彼女の装いは自宅ではタンクトップにショートパンツという極めて攻撃力の高い格好だ。そんな装いのギャップはさらに阿綺羅さんの攻撃力にバフをかける。しかも年上好きという性癖で俺の防御力にデバフがかかり、お仕舞いに阿綺羅さんは眼鏡をかけている、なお良し。これはラスボスなのでは?俺は強敵を前にして聞かねばならぬことを尋ねる。返答次第では濡れた服を着てでも出ていかなくてはならない。
「でも、俺がお邪魔しては不味かったのでは?」
「どうして?」
「だって、阿綺羅さんの彼氏さんとかが訪ねてきたら」
「ふふっ、心配しなくても大丈夫。今は恋人とかいないから安心してね?」
……うん、安心できるのだろうか?更に窮地に陥ってしまった気もするぞ?考えすぎか?
「それにしても、はじめくん結構鍛えてるのね?胸板が厚いわ、着痩せするのね」
「阿綺羅さんのお父さんに鍛えられてますから……」
鬼の扱き、そう、あれは地獄の鬼の所業だ。あなたのお父様は鬼です、つまり目の前の女性も鬼なのだろうか?
「ふふっ、そうね。この前、たまたま自宅に帰ったら鍛練してるはじめくんを見たものね」
そんな風に阿綺羅さんが身を乗り出して楽しそうに話すと、タンクトップの開いた胸元から胸の谷間が見えてしまう、有難う御座います。そしてショートパンツから伸びる太ももはとても健康的で……
「なぁに?はじめくん、どこ見てるの?ふふっ、服が乾くまではまだたっぷり時間がかかるんだから、ゆっくりお話しましょうね?」
にやにやと笑う阿綺羅さんは年上の余裕も感じられ、俺は腰に巻いただけのタオルとその下にある俺の分身の危うさに由々しき事態になったと痛感した。
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