大学編 エピローグ 前編


 今日の私は大事な荷物を抱えて座席に座り、目的地まで電車に揺られながら移動している。

 電車の座席には私、鳴海 燕とまばらに数人しか座ってない。あまり人の利用しない路線なのだろう。

 私が何故に『割れ物』を抱き抱えながら移動しているかというと。

 

 ☆☆☆☆☆


 我が家には私や両親もお気に入りのお茶碗が三つある、昔、両親が友人に貰ったものらしい。各々、お父さんとお母さんと私が使用していた。四人家族なので弟の創の分も必要なのだが弟の分はどこかで適当に買ってきた安物だろうと思う。あいつはぼんやりしているので百円ショップのでも気にしてないだろう、何も問題はない。


 そんな私のお気に入りのお茶碗のひとつをあの創が不注意で口造りの部分を少しを欠いてしまった。母は一瞬だけ悲しそうな表情をしたが、創を責めるようなことはなく


 「創ちゃん、怪我はない?」


 そう尋ねた。私も少し怒りのような感情が湧いたが、心の中で誰かが


 『形あるものはいつか壊れるんだから仕方ないことなんだよ』


 そう話しかけてきた気がしたので私も創を責めることはしなかった。そんな私達を見て、創も凄く反省していた。

 そのお茶碗は縁の部分が欠けてしまったので危なくて使用できなくなってしまったが、上手く金継ぎすれば直せるのでは?という気持ちもあって大切に保管しておいた。


 そんなある時、家族でテレビを観ていたらとある番組で人間国宝の陶芸家の特集がされて、その人の作品も映された瞬間に私は


 「あっ、うちにあるお茶碗はこの人の作品だ!」


 と確信した。家族の皆にも「絶対にそうだよ!」ってその場で伝えたのだが、皆は見てもわからなかったようだ。


 「うーん、友人がどこで買ってきたものだかわからないからなぁ」


 「……お母さんにはわからないわ」


 「姉さん、気のせいじゃないの?だって人間国宝だよ?」


 皆、半信半疑だったので、私は人間国宝の方がいらっしゃる工房を調べて、うちの茶碗の写真を添付して駄目元でメールを送った。私はほぼ確信していたし、できれば金継ぎが上手い職人も紹介して欲しかった。そうしたら向こうのお弟子さんから連絡があった。


 『先生に心当たりがあるそうです、実物を確認したいとのことなので持って来ていただけないでしょうか?』


 と連絡があったので、私は大切な茶碗達とお出掛けしているのだ。


 電車に揺られながら思い出すのはこの前、お母さんから聞いた両親の大学時代の話だ。色々なことを話してくれたが、どこまでが本当なのかな?というのが私の疑問だ。

 お母さんは空想を形にすることがお仕事の人だ。私に語った話にお母さんの空想が影響されていないとは思えない、そして私には話せないこともあるだろう、だから、話が盛られていたり削られていたりするのは当然だ。例えば


 『お母さん、お父さんとはどうせ大学の頃からイチャイチャしてたんでしょ?』


 と尋ねたら


 『そんなことはないわ、私とお父さんはとても清いお付き合いだったわ』


 そんなことを言うので本当かなぁとジッと見つめたら、お母さんは眼をそらしながら


 『ホントウヨ?』


 そう言っていた。うん、多分嘘だな。


 お母さんが少しだけ思っているみたいだけど、私が親友の生まれ変わりではないかというのも空想だろう。私自身にそんな前世の記憶なんてないからなぁ。一度、親友と一緒に行ったという遊園地に子どもの頃に連れていってもらったことがあるけど、当然ながら私の記憶にない場所だったし。まして、入院中の親友の生き霊と遊園地に行ったとか?うーん、にわかに信じがたいな。

 そう考えると「水無瀬つばめ」さんって本当にいたのだろうか?とも考えられる。あのお母さんがお父さんに片思いしていた女性の名前を娘につけるものだろうか?友人のいなかったお母さんの空想の友人だったりして?うーん、考えすぎか。

 でも漫画や小説ではないのだから現実にはそんな「転生」や「死に戻り」や「生き霊」なんて無いよなぁ。


 そんなことを私が考えながらも電車は進む、色々な考え事をするときは電車が良いなと思っていたら、ようやく目的の駅に停車したので席を立った。


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