大学編 第25話
会社から学校に直行して、授業が始まるまでの空いている時間に学食に来てカレーを食べている、別段、美味いカレーではないが、カレーなら大ハズレということもまずないし、学食の食事は安くて量も多く、俺みたいな貧乏学生には有り難いのだ。
恋人の蛍は昼間の学生で、俺は夜間の学生なので一緒に過ごすことがまずないのが寂しいと言えば寂しいが仕方ない。
食事をしていたら目の前の席に座る人影が見えたのでチラリと見たら蛍の友人の水無瀬つばめさんだった。
「水無瀬さん?こんな所でこんな時間に会うなんて珍しいな」
「ふふっ、睦月君、こんばんはかな」
水無瀬さんは相変わらずお洒落で目立つ美人さんだ、こちらをチラチラ見る男の視線も感じる。
「……それにしても、やっぱり男の子は凄いね」
「何が?」
「いやー、そんな量のカレーは普通の女の子には食べられないよ」
「……そうかな?」
まぁ、蛍も少食だしな。水無瀬さんは食事をする俺を面白そうに眺めながら笑っている。面白いものなのかな?
「そういや、水無瀬さんはなんでこんな時間に?」
「いやー、用事はないんだけどね、暇だったから」
そういえば今日は蛍は講義が無かったかな?だから水無瀬さんは蛍と一緒に行動してないのか。ニコニコと笑う水無瀬さんを見て、つい尋ねてしまった。
「水無瀬さんはここの学生じゃないんだろ?」
「……睦月君、知ってたの?」
「なんとなく、そうかな?って思っただけだ」
本当は下宿先の先輩の情報だが、それは黙っておいた。
「……うん、本当はここの学生じゃないんだ。やっぱり駄目かな?」
「いや、良いんじゃないか?他の大学から潜り込んで授業受けてる奴なんて他にもいるだろ」
「……ふふっ、大丈夫かな?出席とるような小さな教室の授業は潜り込んでないから」
水無瀬さんはいたずらっ子みたいに笑ってそんなことを言う。
「……このことは蛍ちゃんも知ってるのかな?」
「いや、どうかな?蛍には言ってないけど」
「本当?それじゃ、蛍ちゃんには内緒にして、お願い」
可愛いらしく手を合わせる水無瀬さんに「わかった、言わないよ」と返事をした。たとえ水無瀬さんがここの学生じゃないとしても蛍の大切な友人にはかわりないからな。
「ふふっ、ありがとう」
「……それにしても水無瀬さんはモテるな」
「へっ!?急にどうしたの?」
「いや、水無瀬さんをチラチラ見てる男がいっぱいいるじゃないか」
俺がそう言ったら、水無瀬さんは
「睦月君だって女の子にモテるでしょう?睦月君をチラチラ見てる女の子もいるよ?」
「……そんなことはないぞ?一人でいても話し掛けられることなんてないしな」
そう言ったら、水無瀬さんはため息を吐いて
「それは、睦月君からどこか危なそうな雰囲気が醸し出されているからだよ!」
「……そんなものを醸し出した覚えはない」
死に戻る前のあの時代の俺なら危ない雰囲気とか言われても納得できるが、今の俺は一般的な堅気の男じゃないか。だからその様に否定したら、水無瀬さんは「自覚なしかぁ」と腕を組んで首を横に振っていた。
「まぁ、そんな危なそうな雰囲気が好きなのもいるから、近寄ってくる女の子もいると思うけど、浮気は駄目だからね?」
水無瀬さんにまで、まるで蛍みたいなことを言われてしまった。そんなに信用ないのかなぁ、俺。
「それはそうと、他の人から見たら今の私達って恋人同士に見えるのかなぁ?」
「……そんなことはないと思うが」
そう言われて周りを見渡した、知り合いに見られて蛍に告げ口されたら浮気者扱いされるのではないか?そんな心配をしたら
「ふふっ、蛍ちゃんには学食で睦月君に会ったって言っておくから、たとえ蛍ちゃんが変な噂を耳にしても心配しないで大丈夫だよ」
「ありがとう、蛍は水無瀬さんのことを信頼しているからなぁ」
「睦月君とは違うのだよ、睦月君とは」
……俺はそんなに信用ないのかなぁ、少し凹んだ。
「それじゃ帰ろうかなぁ、またね」
「あぁ、またな」
水無瀬さんは席を立ち、長い髪を靡かせ、すらりとしたモデルの様な美しい歩き方で去ってゆく。そんな後ろ姿を「華麗だな」と素直に感心して見送った。
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