大学編 第21話


 「おかーさん、ご飯まだー?おなかすいたよー」


 「もうすぐできますから。良い子にしてちょっと待っててね」


 今日もまた、蛍の下宿先からお届けする。この茶番の登場人物を紹介すると


 お父さん役=俺

 お母さん役=鳴海 蛍

 腹ペコ子ども役=水無瀬 つばめ


 そんな感じの団欒ごっこの会話をしている、要するに今日は暇なんだ。


 「おとーさん!遊園地に連れてってー!」


 「おお、いいぞ。仕事の休みの時にな?」


 「ほんとっ!?やったー!蛍ちゃん!睦月君が遊園地連れてってくれるってー!」


 「おいっ!なんでそこで素に戻るんだよ!?」


 「えぇーっ!?いいじゃん!皆で行こうよ!」


 「皆でって……普通は恋人同士の俺と蛍の二人で行くものじゃないのか?」


 「なんでさっ!私を仲間外れにするなんて酷いよ!おかーさん、睦月君が酷いんだよー!?」


 「もう、二人とも喧嘩しないでください」


 「ねぇー、皆で行こうよー、お城のある遊園地に!駅の裏に建ってる大人のお城には睦月君と蛍ちゃんの二人で行っていいからさー」


 「そ、そんな所には行かないぞ!」


 「えぇー、本当かなぁ?じゃ、そこも三人で行く?ふふっ、私は構わないよ?」


 「行かないぞ!ほら、蛍が睨んでるから!」


 蛍が料理を盛り付けたお皿を持ってこちらにやって来る。テーブルに置かれた料理を三人で囲み、食事をしながら話をする。


 「睦月君、蛍ちゃん、本当に遊園地行こうよ!」


 「うーん、構わないけど、俺と蛍がラブラブにデートしてる後ろを水無瀬さんがとぼとぼ寂しそうに歩く姿はどうなんだ?」


 「違うよっ!私と蛍ちゃんがイチャイチャとデートしてるのを物陰からハンカチを噛み締めて泣いてるのは睦月君の役だよ!」


 「ほう、そんなことを言うのか?」


 「何よっ!」


 「「それじゃ、どっちか決めてもらおう。どっちとデートする?」」


 「え、え?そんな……どっちとも仲良くおでかけじゃ駄目ですか?」


 蛍がそんな曖昧な答えを言うので俺と水無瀬さんは首を横に振る。


 「……蛍、まさか蛍に二股かけられるとは……」


 「……本当に、がっかりだよ蛍ちゃん!蛍ちゃんの浮気者!」


 「もう!先輩もつばめちゃんもそういう時だけ手を組むんだから!」


 そんな冗談を混ぜながら談笑する。


 「でも、本当に水無瀬さんならすぐに彼氏なんかできそうなものじゃないか?」


 「ふふっ、そう?睦月君も私の美貌にメロメロ?仕方ないなぁ、二号さんで我慢するよ!一週間の内の三日が私で、残り四日は蛍ちゃんね!睦月君の身体が持つかなぁー?」


 「何を言っているんだ!蛍、俺の腿をつねるな!違うから、水無瀬さんに彼氏ができたらダブルデートできるじゃないかって思っただけだって!」


 「うん、でも……私は彼氏とかいいかなぁ……」


 急に水無瀬さんは元気を失ったような声でそんなことを言った。水無瀬さんにも色々な都合があるんだろうし、彼氏が欲しいという理由で好きでもないのに付き合うのも違うと思う。俺も他人の恋の話に容易く触れたのは失敗だったかなと反省した。


 「あー、水無瀬さん悪かった。それじゃ、三人で遊園地に行くか?」


 「ふふっ、ありがとう。三人でデートしようよ。睦月君、両手に華だね」


 「いや、立ち位置的には蛍が真ん中だろう」


 「ふふっ、そうだねぇ、その時に私が男装してきたら蛍ちゃんは二人の男を連れた姫って感じになって面白いかも」


 「もう、つばめちゃん、普通でいいですよ」


 「ふふっ、それじゃ、約束。三人で遊園地デート決定ね!」


 その時は「三人で遊園地か、まぁ、この三人なら賑やかで楽しいだろうな」とだけ考えていたのだ。

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