大学編 第12話


 「ただいま」


 蛍の家に訪れると


 「「おかえりなさい」」


 と二人の女性が声を合わせて出迎えてくれる。恋人の鳴海 蛍と、その友人の水無瀬 つばめの二人だ。

 今日、俺が他の家にやって来たのは以前、「今度はゲームで一晩中遊ぼう」と約束したことを実行しにきたのだ。


 「蛍、ちょっと着替えてくるよ」


 今日も仕事から大学の講義の流れだった為にスーツ姿のままやって来たので、ゆったりした姿に着替えるにあたって、蛍だけなら目の前で着替えても良いのだが水無瀬さんもいるので浴室を借りようとしたら


 「先輩、良ければお風呂にも入って汗を流してください。その間にご飯作っちゃいますから」


 そう言われた、確かに一日中動いていたので汗もかいた、有り難くお風呂を借りることにした。蛍の家に預けてある着替えを持って浴室に行く。


 シャワーを浴び、着替えて出てきたら……水無瀬さんの腰にしがみつく蛍を見た。二人で何をして遊んでいるんだ?


 「ああっ、蛍ちゃん!睦月君もう出てきちゃったじゃない!」


 「よ、良かったです!」


 「……お風呂借りたぞ、二人で何をしているんだ?」


 「えへへ、睦月君がお風呂に入るっていうからお背中流そうかなってー」


 「つばめちゃんが先輩の裸を見たいとか言い出したんで必死に止めたんです!」


 「……そうか、蛍よくやった。水無瀬さん、勘弁してくれ……」


 「減るもんじゃないでしょー」


 精神的に何か失われるとは思うぞ?まぁ、覗かれずに良かったよ。見られて男として反応してしまったら蛍に浮気者呼ばわりされるだろう、男には気持ち関係なく反応してしまうことがあるって理解してもらえないだろうしな。


 「……そういえば、ご飯は?」


 「……つばめちゃんが余計なことをするからまだです。すぐに作りますね」


 仕方ないと座布団に座ると、目の前に水無瀬さんも「へへへ、ごめんね」と座る。


 今日はスカートではなくジーンズを穿いている蛍が台所で調理をしている。そんな後ろ姿を眺めていると、水無瀬さんがニヤニヤしながら話し掛けてくる。


 「……睦月君、知ってる?この前、蛍ちゃんと一緒にお風呂入ったんだけど……蛍ちゃんのお尻、小さくて凄く綺麗な形してるの!」


 「……あぁ、知ってる」


 水無瀬さんに言われるまでもなく当然、認識している。昔の俺は若造だったからお胸派だったが、蛍のお陰でお尻も良いなと宗旨替えしたのだ。勿論、そんなことは蛍にも目の前の水無瀬さんにも変態呼ばわりされるから言えない、かといって同性の友人の神宮寺などに「蛍のお尻が最高だ」と言って、「ほう、どれどれ?」と見られるのも想像されるのも嫌なので黙するだけだ。


 「……お二人で何の話をしてるんですか?」


 料理を持ってきた蛍が尋ねてくるので


 「『蛍は可愛いなぁ』って話していた」と伝えたら「……またそんなこと言って」と少し顔を赤くしていた。


 三人で料理を味わい、一息ついたら


 「さぁ、ゲーム大会をしようじゃないか!何のゲームがあるの?」


 水無瀬さんが尋ねてくるので、蛍の家に置かせてもらっている、昔から遊んでいたファ○コンを設置していたら


 「……ゲームってコレ?」


 水無瀬さんがガッカリにしたように言ってきたが「俺達の間でゲームと言えばファ○コンだ、郷に入りては郷に従えということで」と言ってスイッチを入れた。


 『爆笑!!人○劇場3』


 三人で遊べるゲームということでこれを選んだのだが……


 「ふははは、睦月君、刑務所入っちゃった!蛍ちゃん、睦月君が刑務所入っちゃったらどうする!?」


 「だ、大丈夫です!私はいつまでも先輩の帰りを待ってますから!」


 「……二人とも何を言ってるんだか、ゲームの話だぞ」


 あとは……


 「ふははははは、睦月君に愛人ができちゃった!そして隠し子も!?蛍ちゃんどうする!?」


 「……」


 「ほ、蛍!?ゲームの中の話だからな!?黙らないでくれ、本当に怖いから!」


 俺は散々だったが、水無瀬さんはこういうゲームは引きが強かった。ミニゲームとかもきちんと勝ってくる。最終的な順位は


 水無瀬さん

 蛍

 俺


 の順番で決着した。


 「ふふ、私の勝ちだね!次は何をする?次は何か賭けようか?」


 勝者の水無瀬さんは最初のテンションの低さと違い随分とゲームを楽しんでいるようだ。


 「何を賭けるの?」と聞いた蛍に対して、水無瀬さんはちらりと俺を見た後で


 「そうねぇ、じゃ、勝者は好きな相手からほっぺにチューしてもらうってどう?」


 「そ、そんなの駄目だよ!」と蛍は言うが、水無瀬さんは「じゃあ、蛍ちゃんが勝てば良いんだよ!さぁ、始めるよ!」


 と強引にゲームを始めてしまった、やれやれ。


 『テ○リス』


 落ちものゲームの名作のスコアで勝負をすることに、初めは俺がそこそこの点数を取り、次いで水無瀬さんがその点数を超えて終了した、初めてやったという割に何でもこなす器用な子だった。


 「さぁ、面白くなってきたよ蛍ちゃん!頑張って私に勝たないとほっぺにチュー貰っちゃうよ!?」


 「は、はい!」


 そう言って集中してゲームを始めた蛍を眺めながら、水無瀬さんにこっそりと


 「……水無瀬さん、もし勝ったら蛍からキスして貰うつもりだったんだろ?」


 「ふふ、当たり前だよ。好きな人からほっぺにキスなんだから!」


 「まったく、あんまり蛍をからかわないでくれ」


 「ふふ、蛍ちゃんが可愛いから、つい」


 そんなことを話している二人をよそに、蛍はきっちり水無瀬さんのスコアを超えて優勝した。


 「わ、私の優勝です!せ、先輩……」


 そう言って、蛍が目を瞑ってほっぺを差し出してきたので、ニヤニヤ笑う水無瀬さんを横目に蛍の頬にキスをした。また水無瀬さんにからかわれるネタを献上してしまった気がするな。


 「さぁ、次は何をしようかなー」


 こうして朝までファ○コンに飽きたらトランプをやったりと楽しんだ。


 「ふわぁ、随分と遊んだねぇ。眠くなってきちゃったよ」


 「……もう、朝か。今日は仕事も学校もないから帰って寝るかな」


 「睦月君、私のことは気にせずに蛍ちゃんのお家で少し寝かせてもらいなよ!」


 「いや、しかし……」


 「先輩、大丈夫ですよ。つばめちゃんが先輩にイタズラしないように見てますから」


 「ちょっ、蛍ちゃん!そんなことしないよ!」


 「はは、それじゃ少し寝かせてもらおうかな」


 そう言って座布団を敷き詰めて床にゴロンと寝転んだ。


 ☆☆☆☆☆


 「……睦月君、寝ちゃったね?」


 「……お疲れなんだと思います」


 小さな声で、つばめちゃんと会話をする。


 「……蛍ちゃん、私達も少し寝ようか」


 「……そうですね」


 私のベッドにつばめちゃんと横になる。つばめちゃんは隣に横たわる私の方を見ながら


 「……楽しかった」


 そう笑顔で呟いたので、私は


 「……また遊びましょう」


 そう返事をしたら


 「……そうだね、また一緒に遊ぼうね」


 つばめちゃんはそう呟いて私と手を繋いで、そのまま目を瞑った。

 このまま目が覚めないのではないかと思われるような微かな寝息が聞こえた。

 


 

 

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