大学編 第11話
今日は水無瀬さんがお泊まりに来た。女の子の友人がお泊まりに来るなんて初めてだと言ったら
「私もお友達の家にお泊まりするなんて初めて!今日はいっぱいお話しようね!」
と水無瀬さんも嬉しそうだった。
夕食は私が作った、水無瀬さんはお客様だし、あまり料理が得意ではないらしい。
「美味しい!凄く美味しいよ!」
こちらが恐縮するぐらい喜んでくれた、先輩も水無瀬さんも美味しそうに食べてくれるので作りがいがある。夕食後に入浴する順番を考えて、お客様の水無瀬さんに先に入ってもらおうと思ったのだが、水無瀬さんは何故か笑顔で
「ふふ、蛍ちゃんが先に入って。いつもこの時間に観てるニュース番組があるからそれを先に見せて欲しいんだ」
と言うので「それじゃ、お先に」と深く考えずに着替えを取ってお風呂に向かった。洗面所で裸になって鏡の前で見慣れた自分の裸を見れば、貧相だなぁといつもながら思う。
……胸は揉まれれば大きくなるって聞いたのに、そんな説は嘘だって証明された身体だ。
黙って浴室に移動してシャワーからお湯を出していたら、曇りガラスの向こうの洗面所に人影が見えた。
「えっ?水無瀬さん?」
水無瀬さんが服を脱ぐ気配がしてしばらくしたら丸裸の水無瀬さんが浴室に入ってきた。
「な、なんで?」
私がしゃがみこんで大事なところを隠すのに、水無瀬さんは見せつけるように堂々としている。
ぽよん、ぽよん
ううっ、綺麗だ。そして大きいのに張りがあって上向きな胸が羨ましい。
「へへっ、一度お友達と一緒にお風呂に入ってみたかったんだ!ちょっと恥ずかしいね」
そんなことを言いつつも見せつけるように堂々としているので、私はガシッと水無瀬さんの片胸を掴んだ。
「えっ、蛍ちゃん!?ど、どうしたの!?」
と驚き、恥ずかしがる水無瀬さんに
「……ズルいです、こんなに大きくて。胸が小さくなる呪いを掛けます!」
「きゃ、蛍ちゃんのエッチっ。もう、こっちだって!」
「あっ、や、やめて!」
まさか、先輩以外に揉まれることになるとは思ってもみなかった……こっちも揉み返したけど。なるほど、先輩がいつも嬉しそうにする気持ちが少し分かった気がした。
「ふふっ、洗いっこしよう!」
そう言って、私の背中を水無瀬さんが洗ってくれる。
「蛍ちゃんのお肌、凄くキメ細やかで綺麗……すりすり」
そう言って撫でてくる、くすぐったい。お返しと私も水無瀬さんの背中を洗ってあげる、細いのにボン・キュ・ボンとしていて羨ましい。そんな洗いっこを終えて二人で湯船につかる。
「はぁー、いい湯だね。誰かとお風呂に入るってこんなに楽しいんだねぇ。そりゃ、蛍ちゃんも睦月君と一緒に入るわけだ」
「そ、そんなに一緒に入らないよ!恥ずかしいから暗くしてもらったりするし……」
「……蛍ちゃん、暗くするってそれはそれでエッチだよ?」
「あうぅ……」
そんな入浴を終えて二人で交互に髪を乾かし合う。私には姉妹がいなかったが、もし、姉妹がいたらこんな風だったのかもしれない。
そして、色々な事を話した。私が昔、いじめられっこだったこと、そんな私を先輩が救ってくれたこと、そして私が先輩を好きになって、告白して、お付き合いし始めたこと。……そして、高校二年生の夏休みに先輩のお家で初体験を終えたこと。そんな恥ずかしい事まで水無瀬さんには何故か話してしまった。
水無瀬さんも、複雑な家庭環境で、最近は家族と上手くいってないことを具体的な話はしなかったが教えてくれた。
いっぱいお話して喉が乾いたので飲み物を取りに行った隙に、本棚の中にこっそりと潜ませていたノートを水無瀬さんに発見されてしまった。
「み、水無瀬さん!それは見ないで!」
慌てて取り返したが、中を見られてしまったようだ。
「蛍ちゃん、とっても上手じゃない!もっと見せて?」
「だ、駄目っ……恥ずかしい」
私があんまりにも嫌がるので
「……蛍ちゃん、もしかして昔、描いてた絵を誰かに見られて馬鹿にされたとかあった?」
私はその言葉に黙って頷いた、私が小さな頃にいじめられた一因である、それ以来、誰にも描いた絵は見せたことがない。
「蛍ちゃん、私は蛍ちゃんの絵を絶対に馬鹿にしたりしないよ?信用できない?」
「……水無瀬さんは馬鹿にしたりしないと思う、でも……」
「大丈夫だから、ね?」
笑顔で優しく話し掛けてきた水無瀬さんに、私はそっとノートを渡した。水無瀬さんは「ありがとう」と言って一枚、一枚とゆっくり私の絵を見始めた。それは裸を見られた時よりも恥ずかしく思えた。
「……蛍ちゃん、凄い、凄い上手いよ!蛍ちゃんの世界が描かれてる!蛍ちゃんは漫画家になりたいの?」
「そ、そんな漫画家さんなんて……私には無理だよ」
「なんで?」
「なんでって…そんなの無理だよ」
「……蛍ちゃん、何でもやってみなけりゃわからないよ?一回っきりの人生、自分のやりたいことをチャレンジしてみなくっちゃ」
水無瀬さんは怖いぐらい真剣な眼差しで私を見つめていたが、それでも私は頷くことができずに黙っていた。
「……」
「私が保証してあげる、蛍ちゃんの絵はきちんとお金になるよ」
水無瀬さんは「ふふっ、蛍ちゃんは知らないだろうけど、私は生まれつきカネの匂いには敏感なんだ」と笑っていた。
「……まぁ、無理にとは言わないよ、でも、私の言葉は絶対に忘れないでね。あと、睦月君は蛍ちゃんの絵のことは知らないの?」
「……先輩にも見せたことないです」
「なんで?睦月君も笑ったりしないと思うよ?」
「わ、私も先輩は馬鹿にしたりしないと思います、でも……」
私は先輩がご両親の支えもなく、働きながら大学に通っていることを話した。
「……なるほどね。睦月君がそんなに頑張っている時に、蛍ちゃん自身は漫画を描いていて良いのかって悩んでいるんだね」
「……私はこっちの大学に進学して一人暮らしする時にも両親にお願いして余計なお金を使わせてしまってるし……」
「……うん、蛍ちゃんは優しいね。蛍ちゃんが漫画家になりたいって夢を諦めて、就職したとする、そのうち睦月君と結ばれて、子どもができて……きっと子育ては大変だろうけど多分、充実した幸せな日々が来ると思う。でも、時々考えてしまうかもよ?『もし、あの時、漫画家の夢を諦めていなかったら』って」
「それは……そうかもしれません」
「ふふっ、蛍ちゃん!夢を諦めることはないんだよ?漫画家になる夢も、睦月君との幸せな生活も全部望めば良いんだ!」
「……全部なんて欲張りじゃないですか?」
「勿論、対価は必要だね、『才能』や『努力』や『運』が……でも一番大事なのは『好き』って気持ちじゃないかなぁ?」
「……もし、漫画家になれなかったら?先輩に負担をかけてしまうかもしれません……」
「蛍ちゃんは、もし睦月君が身体を壊して思うように働けなかったりしたら……別れる?」
「そ、そんな!絶対に別れたりしません!私が先輩を支えますから!」
「ふふっ、きっと睦月君も一緒だよ。蛍ちゃんが困った時には支えてくれるよ」
「……はい」
「まぁ、決めるのは蛍ちゃん自身だけど、でも私も応援するから夢を諦めないで欲しいな」
ニッコリと水無瀬さんは笑ってその話は終わった。私が水無瀬さんの言葉を受け、少し物思いに耽っていたら、水無瀬さんが思い出したかの様に話しかけてきた。
「あっ、そうだ!蛍ちゃん!蛍ちゃんにお願いがあるんだけど……」
「はい、なんですか?」
「うん、私は『蛍ちゃん』って名前で呼んでるよね?それなのに蛍ちゃんは私のこと『水無瀬さん』って呼ぶじゃない?ちょっと他人行儀だから私のことも名前で呼んで欲しいなーなんて」
「そ、そうですね。それじゃ、『つばめちゃん』」
「ふふっ、これからはそう呼んでね!蛍ちゃん!」
この日から、私は水無瀬 つばめさんのことを『水無瀬さん』から『つばめちゃん』と呼ぶことになったのと、先輩も知らない私のことをつばめちゃんだけは知っていることになった。
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