大学編 第10話


 神宮寺に嵌められた、たまには外で飲もうぜと誘われたので待ち合わせの場所に行ったら合コンだった。俺は恋人がいるんだからそういうのは勘弁してくれって言ってあるのに……


 どうやら神宮寺は童貞を捨て、恋人ができたことで女性恐怖症を克服したらしい。それは良いことなのだが、石井さんには内緒でこっそりと合コンに参加したりしているようだ。


 「……神宮寺、まさか浮気してるんじゃないだろうな?」


 「ば、馬鹿野郎!そんなことはしないっての!これは女の子も参加してるだけのただの飲み会だって!」


 そんなことを言っていたので肉体関係を求めて参加してる訳ではないようだが……神宮寺は流されやすいから信用できない。俺が疑いの目でみていたら


 「なんと今回の合コンのお相手はナースの卵だ!お知り合いになれば喧嘩で怪我したときも看病してもらえるぞ!」


 神宮寺はそんなことを言っている。あぁ、馬鹿だなと思った。


 無理矢理に逃げ出すことも考えたが隣に座る神宮寺から逃げ出そうと思ったら店の中が大変なことになるような闘いになってしまうと諦めた、こいつは酒も好きだが喧嘩も好きな馬鹿だからな。


 だからトイレに行く振りをして神宮寺の彼女の石井 美沙姫さんにこっそりと連絡した。石井さんは


 『……そう、わかったわ……』


 とだけ言って通話が切れた。以前、行われた俺と蛍と神宮寺と石井さんの会食にて、蛍と石井さんが同盟を結んだ為……俺もこっそりと石井さんと同盟を結ぶことを持ちかけた。ある意味、神宮寺包囲網である。


 蛍には黙っていて欲しいが、とりあえず石井さんに伝えてあれば、たとえ蛍に合コンのことがバレてもフォローしてもらえるに違いないと安心して飲み会の場に戻った。


 神宮寺はやたらとはしゃいでいたが、とりあえず俺は無難な話をして場を保った、時が過ぎそろそろ場所を変えようかって時に背後から声がかかった。


 「……真一郎くん?」


 その声を聞いた瞬間、神宮寺の顔色が真っ青になった。振り向いた先には石井さんがニッコリと笑っていた。笑顔というのがこんなにも怖いものだと横にいながらに思い知らされた。神宮寺は俺を睨んできたが「俺は知らんぞ」という顔をした、始めに騙したのは神宮寺の方なので心が痛むことはなかった。


 「……み、美沙姫さん?なんでここに?」


 「ふふふ、偶然ね?……それより楽しそうね?」


 「いえ、そんなことは……ははは……」


 一言二言、言葉を交わして石井さんは神宮寺を連行して行った。石井さんは精神的に怖いが、石井さんの背後には神宮寺の母親の夜風さんと、妹の紅花さんがいる。お二方は物理的に怖いので神宮寺は地獄を見るだろう……合掌。


 石井さんという彼女の出現でその場はシラケてしまったので解散ということになった。さて帰ろうかなと思ったら


 「……先輩」


 背筋が凍るような声が聞こえた。


 「……ほ、蛍?」


 「……はい」


 そこには能面のような表情をした蛍さんがいらっしゃった。石井さんが俺との同盟を裏切って蛍に連絡したのだろう。でも今回のは神宮寺に嵌められたのだからきちんと釈明すれば許してもらえると思ったのだが


 「……昔、先輩がコレクションしていた物の中にナース服を着た女性のものがありましたね?」


 そんなことを冷たい目で言われて、俺は自分の顔が強張るのを意識した。そして俺も蛍にガシッと腕をつかまれて自宅に連行されたのだ。


 そうして、

 被告人=俺

 弁護士=俺

 検察官=蛍

 裁判官=蛍

 の裁判が開廷した。


 必死に被告人を弁護した結果、連絡先を交換していないことを携帯を開示して証明し、なんとか無罪判決を勝ち取った!やったぜ!


 でも、しばらくは蛍のご機嫌をとるのに苦労した、とほほ。

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