大学編 第13話


 「ご機嫌よう、大きなお兄さま」


 街中でそう声をかけてきたのは友人の神宮寺の妹の神宮寺 紅花さんだ。


 「あぁ、久しぶり。紅花さんも元気かい?」


 「ふふ、私は変わりないですわ」


 そう答える紅花さんは高校生になったようだ、可愛いらしい制服に身を包んでいる。


 「……お兄さま?そんなに警戒しなくても……」


 「いや、すまない……」


 悪い子じゃないのはわかっているのだが、何故か苦手意識があるのは否めない。風呂を覗かれて裸を見られたこともあるだろうが、何故かこの子には何かを見透かされているように思えてしまうのだ。


 「ふふ、お兄さまのスーツ姿も素敵です」


 「……あぁ、ありがとう」


 そんな話をしていたら、よりによって、もう一人知り合いに出くわした。


 「あれ?睦月君……な、何をしてるの!?まさか、女子高生をナンパ!?」


 蛍の友人の水無瀬さんが現れた、また厄介な状況になってきた気がするぞ……


 「水無瀬さん、違うからな!こちらは友人の神宮寺の妹さんだ。本当に違うから、蛍には言うなよ!?」


 「えぇー、どうしようかなぁー」


 そんな話を水無瀬さんとしていたら、紅花さんは少しムッとした顔をして


 「……お兄さま、こちらはどなたですか?もしかしてお兄さまの彼女さんですか?」


 「え、いや、違うから。彼女の友人だから……」


 「えぇー、ただの彼女の友人なだけじゃないでしょー?この前なんか一晩中あんなに楽しんだ仲じゃないー」


 「言い方!言い方!!た、楽しんだってゲームやっただけじゃないか!しかも、蛍も一緒だろう!」


 「ふふ、三人で楽しんじゃったもんね」


 そんな俺と水無瀬さんの会話を聞かされた紅花さんは


 「……お兄さま、随分と仲がよろしいようで……」


 紅花さんは美少女なのに何故だか、般若の面を思わせる眼をしていたように見えた。きっと、俺の気のせいに違いない。


 「それじゃ、私は用事があるから行くね。睦月君、本当に浮気なんかしたら駄目だよ?」


 「しないから!本当に勘弁してくれ……」


 そう言って水無瀬さんは風のように去っていった、風と言っても暴風だけどな。


 「はぁ、紅花さんもすまないね。水無瀬さんはああいうノリの子なんだ」


 「……いいえ、大丈夫です。でも随分と強いオーラを感じる方でしたね」


 オーラ?よく分からないが……まぁ、明るいと言えば明るい子だからそういう意味かと判断した。


 「それでは、お兄さま。今度、うちにも遊びにいらしてくださいね?」


 「どうかな?最近は神宮寺も忙しそうだしな」


 神宮寺も石井さんという恋人ができたし、俺にも蛍という恋人がいるので以前ほど二人で飲む機会は減っていた。


 「もう、小さなお兄さまは肝心な時に役に立たないですわ」


 「はは、まぁ、機会があればね。それじゃ、またな」


 「はい、それでは失礼します」


 ☆☆☆☆☆


 去っていく睦月さんの背中を目で追う。あぁ、久しぶりにお目にかかったが、やっぱり好きなんだなと自分の恋心を自覚した。

 睦月さんにはとても相思相愛の彼女さんがいらっしゃるとお兄さまから聞いているが、それでも諦められない切ない気持ちが溢れている。


 「……それにしても先程の女性は……」


 恋人でもないのに随分と睦月さんと仲が良さそうで羨ましい。そんな女として羨ましいという気持ちと同時に、あの方のオーラの大きさ、燃え盛る炎のようなオーラは……


 「……消える寸前の蝋燭の炎のようでした」


 最後の命の炎が燃えているような……そんな風に私には見えてしまった。

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