鈴蘭には毒がある
「……二階堂さん、少し話があるんだ、二人っきりになれるところで話がしたい」
と、翌日の放課後に今度はこちらから話しかけた。そうしたら二階堂さんは
「なあーに?告白とか?」
と笑いながらもついてきてくれた、階段にさしかかり降りようとした時に後ろから押される感じがして
「あ、鳴海君!駄目、危ないっ!」
って二階堂さんの声がして
俺の中のスイッチが自動的に入った、伸ばした右手が辛うじて手摺に引っ掛かり、浮遊する体の全体重を二本の指で支え……辛うじて下までの落下は避けられた。
階段の下から上を見ると短いスカートの二階堂さんが呆然と立っている、周囲には誰の姿も無く……突き落としたのは二階堂さんだと明らかだった。
「な、なんで私……?」
と青い顔をした二階堂さんに
「落ち着いて話が出来るところに行こう、俺は君に謝りたいんだ……」
と俺は怒ることもなく伝えた。空き教室に入り、先ほどから呆然している二階堂さんに対峙して、俺は床に膝をつけて土下座した。
「二階堂
と謝った、二階堂さんはそんな俺の姿を見て「や、やめて鳴海君っ……」と慌てて俺の肩に触れてくる。
二階堂さんが双子の姉妹じゃないことは皆、知っている。何故、二階堂 鈴蘭さん自身が、双子の姉妹だと言い出したか……それは
「あの時、男達に襲われて怖い目にあったのは『私じゃない、妹の蘭の方だ』と思い込むため、自分の心のなかで妹を作り出した。そして、その妹は不登校だから家にいる」
という設定を作り出したらしい。医者から家族に、そして家族から学校の先生に伝えられた為、このことは本人の設定を否定せずに黙認しているようだ。とりあえず、きちんと「二階堂 鈴」さんの方は登校しているのだから……
「……俺は、君に酷いことをした。殴られても文句言えないくらいの……」
と土下座を続けた。先程の階段の件も、二階堂さんの中の秘められた俺への恨みがそんな行動をさせてしまったのだろう。でも、それと同時に、彼女が「危ない」と叫んだのは、彼女の中の良心が叫ばせたんだろう……そんな複雑な思いを二階堂さんにさせているのは俺の責任だ。
俺は昨日、神宮寺家を訪問して、あの時、助けてくれて、後始末までしてくれた紅花さんの話を聞きに行った。
紅花さんと向かい合って正座して話を聞いた。紅花さんがその部屋に入った時、二階堂さんは部屋の隅で小さくなって声を圧し殺し泣いていたらしい。部屋の中には気を失った男が三人。
「もう、大丈夫ですよ」
と紅花さんが声をかけた二階堂さんの服装は……上の服が破られ胸が見えて、スカートのしたの下着も裂かれ脱がされていたらしい。つまり、
……俺は確かに三人の男を瞬殺し、二階堂 鈴蘭さんを助けた……でもその後は最低だった。二階堂さんに「玲楓はどこだ?」と聞いて飛び出していってしまったのだから……
残された二階堂さんはどれだけ心細かっただったろう。部屋に残された男達がいつ目覚めるかわからない、部屋の外にも男達の仲間がいるかもしれない、例え、外に脱出できても服も破かれ表も歩けない……
そんな二階堂さんに対して俺は「大丈夫だから、隠れて待ってて」の一言もなく衛藤 玲楓を助けに行ってしまった。
『私は、衛藤さんのついでに助けられただけなんだ』
と二階堂さんが俺を恨んでも仕方ない最低のことをしてしまった。勿論、俺が急いで行かなかったら玲楓の方が最悪な事になっていたかもしれない……それでも、あまりに考えなしだった。
そんな憶測も含め、紅花さんからその時の状況を伺い、最後に紅花さんから一言
「未熟者」
とだけ真剣な顔で言われた。後は笑って「さぁ、お帰りなさい。若者」と言って帰された。
……これからどうするかは俺に任せるということだろう。
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