最後のエピローグ


 旦那様、榊 創司さかき そうじの葬儀が終わった。半年前に病にかかり、苦しむ姿を私にも見せず……あっという間に逝ってしまった。葬儀には旦那様の甥っ子が来るかもと龍崎達は待っていたようだが……来なかった。私は連絡してないし、「俺の葬儀には顔を出すな」って旦那様が言っておいたらしいので仕方ない。


 本当に悲しかったけれど、老いて衰えた姿を見せずあっさり亡くなったのはある意味、旦那様らしい死に方だった気もする。短い人生だったのも、旦那様は人間じゃない何かが人の姿に化身した存在だったから……人間とは寿命が違ったんじゃないかなんてことも私は考えてしまう。


 『組』はすべて龍崎に任せるようにというのが旦那様の遺言だった。葬儀が終わり旦那様の私財だけを私は受け取り、これからは堅気の世界で一人で生きていこうとする私に龍崎は


 「なぁ、姐さん……俺と一緒になってくれないか?」


 と、そんなことを言ってきたので驚いたが


 「私は、貴方の沢山いる彼女の一人になんてなりたくないわ」


 と、断ったら


 「も、勿論、女関係はきちんと整理するから……」


 と、龍崎は言う。いつもの龍崎とは違って本気のようだった……でも


 「……龍崎、ごめんなさい。私はこれからも榊 創司の妻として生きていきたいの……組のことはお願いします」


 と言って私は龍崎に頭を下げ立ち去った。


 そうして私は大切なものだけを持って、携帯電話の番号も変えて……この地を離れた。この地を離れる前にお墓に行ったら花が供えてあったので……甥っ子夫婦がこっそり来てくれたのだとわかった。


 私、一人だけなら働かなくても生きていけるぐらいの財産を旦那様は残してくれた。最初は姉のいる外国に行こうかと考えたが……


 ……何故か、旦那様の甥っ子の住む街に家を借りて一人暮らしすることにした。別に甥っ子に会いに行くつもりなんて無いのに……なんでだろう?


 昼間はすることもないので公園でぼんやりと日向ぼっことかしていたら……可愛いお友達ができた。


 「……おねえさん、今日も日向ぼっこ?」


 「……もう、おねえさんって年じゃないんだけど。でも、そう日向ぼっこしてるの」


 と言ったら小学校低学年くらいの男の子は私の横にちょこんと座り


 「えへへ」と笑う。とても可愛い。


 「……おねえさん、内緒だよ?絶対、内緒ね?」と、この男の子は自分のお話をしてくれる。小学校の修学旅行ではお泊まりがあるのでそれまでにはおねしょを治したいこととか……


 「……まだ、低学年でしょ?それまでには治るわよ」と慰めたら


 「……でも、僕、見ちゃったの……パパもママも寝る前にお風呂入ってたのに……夜ね、目が覚めちゃってトイレに行ったら……パパとママが一緒にお風呂にまた入ってたの!……きっとパパもママもおねしょしちゃったんだって思ったの!」


 「……そう、パパとママは仲良しなのね……」


 「うん、仲良しだよ!いつもこっそりちゅーしてる!でもパパもママも夜におねしょしちゃうのかも……だから僕もおとなになってもおねしょ治らないかもって心配なの……」


 「……ううん、大丈夫よ。それよりパパとママがおねしょしてたとか、夜にこっそり一緒にお風呂入ってたことは……他の人に言っちゃ駄目よ?」


 「……僕のおねえちゃんも同じ事言ってたよ?だから、おねえさんも内緒ね?」


 と言って男の子は人差し指で「しー」ってポーズをする。


 ……内緒とはなんだろう?と考えていたら


 男の子は立ち上がり


 「おねえさんも僕の家で遊ぼう?一緒に行こう?」


 と言って手を引く。


 「あ、ありがとう。でもね、知らない人を家に連れていっちゃ駄目よ?パパもママも心配するからね?」


 と断ろうとしたら


 「……だって、パパもママもおねえさんのこと知ってたよ、それで僕に『上手く連れておいで』って言ってたんだもん!」


 と言う。私が驚いていたら


 「いいから、皆で一緒にゲームしよう?ね?パパもママも待ってるから!」


 そう言って私の手を引っ張る男の子は……確かに目元が旦那様に似ている気がした。


 「……もう、私なんてファ○コン位しかやったことないのに……」


 目から涙が少し流れているのがわかる、久しぶりの嬉し涙だった。


 


 


 

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