第96話
今日は神宮寺の家に来ている。なかなか大きな屋敷で道場も併設されている。
「……神宮寺はお坊ちゃんだったんだな……」
「そんなことはないぞ、親父は普通のサラリーマンだ」
屋敷や道場は祖父の物らしい。今日、何故に神宮寺の家に来たかと言えば
「いつもお前の家だからたまには俺の家で飲まないか?」
神宮寺からのそんな誘いに乗ってやって来たら……
「よし、少し身体を動かしてから酒を飲もう!」
……そんなことを言い出して強引に道場に連れていかれ立ち合うことに。
「……なぁ神宮寺、結果はわかっていたことだろう……」
避ける神宮寺を俺が攻めるという立合いを行った。良いとこまで追い詰めても最後の詰めまでは行かなかった……汗をかき道場の床に寝転がる俺に対して神宮寺が
「……何を言っている……武術の素人がここまで俺に食らいついていくなんて……相当、場数を踏んでいるな?」
立ってこちらを見下ろす神宮寺の顔は余裕がありながらも驚いていた。
「……なぁ、お前が望むならうちの武術習わないか?その素質は相当なものだぞ」
「……神宮寺の家の大事な相伝なんじゃないのか?」
「ん?あぁ、うちの武術の表業(おもてわざ)は教えることに問題はない、裏業(うらのわざ)は身内にしか伝えられないんだ」
……神宮寺の動きを体感してほぼとある確信を抱いていた俺は
「……なぁ、神宮寺の武術の裏の業に……向かってくる相手の目に指で小石とか飛ばす業ってあるのか?」
と聞いたら神宮寺は今度こそ本当に驚いた顔をして
「な、何で知っているんだ?」
と言うので……あぁ、以前、俺を殺した相手は神宮寺家に連なる者なんだなと確信した。俺はその業で左目を潰されたからな。
「……何で知っている?」
と詰め寄ってくるので
「……思いつきで言ったのだがまさか当たるとは思わなかったよ」
神宮寺は疑っているようだがそう言って誤魔化したら
「……俺の妹と結婚して身内になれば裏の業も覚えられるぞ?」
とか言い出したので丁重に御断りした。俺は蛍と結婚するんだから……勘弁してくれ。
「……とりあえず風呂に入って汗を流せ、檜風呂だぞ?そのあとビールを飲もう!」
と神宮寺が汗を流すように言ってくれたので遠慮なく風呂に入っていたら
「ここに浴衣を置いておきますね」
と神宮寺の母親と思われる女性と神宮寺の妹と思われる中学生くらいの女の子がわざわざ俺の入っている風呂の扉を開けて覗きながら声をかけてくる……しかも、なんでよりによって見計らったかの様に湯槽に浸かってないタイミングで?
「あらあら、ご立派な♪」
「まぁ、お兄様のと形まで違いますわ、お母様……」
「紅花(べにか)さん、あれがひとつ上の殿方の証なのよ……」
……そんなことをキャッキャと言っていた彼女達が出ていってから風呂を出て着替えて、神宮寺の部屋に行く。
「……なぁ、お前んとこの女性達に風呂を覗かれたんだが……」
どうして良いかわからない俺はとりあえず神宮寺に報告したら
「……すまん、本当にすまん、きちんと注意しておくから!」
と土下座する神宮寺を見て、もう二度と神宮寺の家には来ないことを固く決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます