第85話
蛍が手伝ってくれたお陰で引っ越しの準備が進み、部屋の中は随分と寂しくなった。部屋の中も寂しくなったが心の中はもっと寂しい。
「……先輩、寂しくなります」
「……俺もだよ」
卒業して俺が学校からいなくなることもだが、俺はこの街を出て働きながらお金を貯めて進学することを決めた。叔父の名前の届かない場所で真っ当な道を歩む人間になりたいと蛍と二人で話して決めたのだ。
「もし、いじめられたらすぐに言うんだぞ。飛んで行くから」
「……はい、でも大丈夫だと思います」
蛍は以前より強くなったようだ。それに後で知ったのだが蛍は陰で『姐さん』と呼ばれるようになっていたらしい……なんでだ?
「……そういえば、俺の叔父さんに会って怖くなかったか?皆が怖がるような強面な人なんだけど」
蛍が叔父さんと会った件……蛍がこそこそ後をつけていたことを俺に謝ってきたが、俺の事を心配して叔父さんに言ってくれたんだからと、俺は感謝の言葉を伝えた。
「……先輩に似てらっしゃったから……怖くなかったです」
……少し複雑な気分だ。
「……先輩」
「蛍、おいで」
俺の胡座をかいた膝の上に蛍のお尻が乗る、そして蛍の背中から抱き締める。以前のゲームの時にこの体勢をしてから時々こうするようになってしまった。文字通り、蛍の尻に敷かれている幸せ。
「……蛍、愛してる」
「……先輩、私も愛してます」
後ろ髪を引かれる思いだが、そろそろ蛍を送らないとと思っていたら、蛍が少し恥ずかしそうに
「……先輩、今日だけはお泊まりしてきても良いと両親が言ってくれました……」
と言った。いつもより大きい鞄はそういうことだったのかと蛍のご両親に感謝し、この街を離れる最後の夜を蛍と過ごした。
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