第81話
大学の個別二次試験の結果が出た……合格した。これで進路が一つ決まった。蛍は「……おめでとうございます」と祝ってくれた。
そして、今は二人で布団に横たわり、抱き締める腕の中に裸体の蛍が頭を俺の胸にくっつけて寝ている。「試験に合格したらご褒美に蛍が欲しい」と約束したご褒美をいただいて、その後も離れずお互いの温もりを感じていた。
今日の蛍は切なそうだった、俺の希望した進路は……蛍と離れて暮らすことになってしまう、それがわかっているから……
「……先輩、もっと……抱いてください」
蛍はいつもより積極的に求めて抱きついてくるが
「……蛍、そろそろ帰らないとご両親が心配するから」
「よいこだから……」と言ったら
「私は……よいこなんかじゃないです、お父さんとお母さんに言えないようなことを先輩としてるんですから……」
「……先輩、私も連れていってください……学校を辞めて私も働きますから……」と泣きながら抱きついてきた蛍、そんなに俺と離れたくないと思っていてくれたのか……でもそんな駆け落ちみたいなことはできない……
「……蛍、今まで言えなかったことがあるんだ」
「……俺は幸せな家庭を築く自信がないんだ……」と蛍に隠していた……心の奥底を初めてさらけ出した。
俺の親父は働きもせず俺や母親に暴力を振るうような男だったこと、そんな血を引いている俺が同じ様にならないなんて……自信を持って言えなかった。
「……だから、自信が欲しいんだ……ちゃんと生きていける自信が……」
だから、きちんと学校に行って、ちゃんと働いて……その手順を踏んでから
「……蛍と一緒になりたい」
時間は掛かるが蛍のご両親にもきちんと祝福されるような生き方を……
「……蛍もご両親に喜んでもらえる道を歩んで欲しい……」
「……俺にはもう親はいないから」と頭を下げたら蛍は裸の胸に俺の頭を抱えて
「……大丈夫です。先輩は優しい人ですから、必ず温かい家庭を作れます。私も頑張りますから……」
「……弱音を吐いてごめんなさい」と蛍は俺の顔を自分に向かせキスをしてきた。
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