第77話
寒空の中、イルミネーションの光に照らされた蛍の横顔を見てやっぱり来て良かったなと思った。
恋人同士のイベントとしてクリスマスイブは最重要なミッションだろうと蛍を誘った。受験生の俺の事を思って最初は遠慮した蛍だったが来年は蛍自身が受験生なんだから少しだけでもとお願いして連れ出した、勿論、蛍のご両親にもきちんと送り届けることを伝えた。
「……先輩、綺麗ですね」
「……あぁ」
蛍と手を繋いで光の森の中を歩く、このまま蛍を連れて帰りたい気持ちを抑え
「……あまり時間もないから帰ろうか……」
「……はい」
どちらも名残惜しい気持ちを言葉にはせず、帰るためにターミナルに向かう。バスの発車時刻までまだ少しあることがこの時は嬉しかった。
「……バスの時間まで少しあるな……」
「……はい」
このまま帰りたくないとでも言うように俺の手を握る蛍の手を握り返していたらいつの間にか蛍の家の方向のバスが止まり、二人で乗り込み並びの席に座る。扉が閉まり車内の明かりが少し暗くなる。
「……蛍、俺は結構夜のバスの車内好きなんだ……」
昼間のように混んでなく、窓の外の暗闇と流れていく街明かりをみていると何処か知らない所に連れていかれそうな不思議な怖さがないか?と言ったら
「……そうですね、私はちょっと寂しい気持ちになりますね」
ぼんやりと二人、バスに揺られて……蛍の家の近くの停留所に止まる。
あと少しで蛍の家に着くと思うと、二人の歩く歩幅が短くなるが……
それでもいつかは家の門の前には着いてしまう。
「……蛍、プレゼントがあるんだ」と鞄から小さな箱を取り出し渡したら、「私もプレゼントがあります」と蛍も俺に包装された包みを渡した。
「……ありがとうな」
「……こちらこそありがとうございます」
俺が見下ろすと小柄な蛍は背伸びして瞳を閉じる、34センチの高さの差がある唇が触れる。
「……それじゃ、またな」
「……はい。先輩、おやすみなさい」
そうして帰宅して出迎える蛍のお母様に会釈をして自分の家へ向かう、蛍がこの日の外出を後悔しないように必ず合格しなくてはと朝覚えた英単語を繰り返し呟き歩いて帰った。
ちなみに蛍がくれたのは手編みのマフラーだった。俺の世話を焼いてくれたり、自分の勉強もある中で作ってくれたようだ……本当に俺にはもったいない恋人だ。
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