第76話


 「……先輩、あのおじさんに私がお礼を言っていたと伝えてください」


 蛍が不本意そうにそんなことを言っている。何の事かと詳しく聞いたら……


 昨日、蛍はクラスメートの風間達と買い物にお出かけしたそうだ。友達ができたようで何よりなのだが、その時に怖そうな若い男三人に絡まれ……


 「なぁ、お姉ちゃん達、俺達と遊ぼうよ」


 蛍と一緒に出掛けた風間含む女の子達は皆おとなしめの子ばかりで困ってしまっていた時に


 「あれ?坊主の女じゃねぇか……こんなところでナンパされてるのか?」


 通りすがりの龍崎さんが蛍を見つけて話し掛けてきたらしい。横から邪魔をされたと思った若い連中は


 「なんだ、このオヤジは?」


 「おい、邪魔すんなオヤジ!」


 と龍崎さんに矛先が向いたらしい……


 「あぁ!?……お嬢ちゃん達は帰りな、この小僧共は口の聞き方のお勉強しなきゃならねぇみたいだしな」


 そう言って三人を連れていったらしい。それは御愁傷様だな……龍崎さんならそこら辺の奴らが三人がかりでも敵わないだろう。


 「……蛍、なんか微妙そうな表情なのは助けてくれたのが龍崎さんだからか?そんなに苦手か……」


 「……違います。風間さんが……『蛍ちゃん、あの助けてくれた人は知り合いなの?格好良くない!?』って言うから……」


 あー、龍崎さんは……悪い人じゃないんだけど『悪い人』だから……止めておいた方が良いな……昔の俺は人のことは言えないけど。


 「……まぁ、普通の女の子の風間さんが龍崎さんとまた会うことなんてまず無いから大丈夫だと思うぞ。もし紹介してとか言われたら『俺の関係者』だから無理だと言えば蛍に言ってくることは無いだろうから……」


 「……はい、さすがに風間さんにご紹介はできないです……」


 風間は気付いてなかったようだが、蛍は龍崎さんが真っ昼間からピンクの看板のあるビルから出てきた所でこちらに気付いて寄ってきたことに気付いていたらしい……


 「……助けていただいたことに感謝の気持ちはあるのですが……」


 「……はは、龍崎さんは相変わらずだな」


 蛍はジト目で俺を睨み


 「……先輩はそんな所に行っちゃ駄目ですからね!」


 と言うので「はは、そんな所に行かないよ」と蛍を抱き締め……目を合わせないようにして、死に戻る前のことはノーカウントでと心のなかでお願いした。


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