第6話

 あいつは只者じゃない。誰が見てもそう思うだろう。

 あいつは……不良かヤクザだ!!

 間違いない。手に鉄パイプを持っているし、こんなに朝早くにビルから出てきている。恰好がラフすぎて仕事とも思えない。よく見ると、心なしかキョロキョロと周囲を気にしている気もする。ついでに言うと、雨が降っているのに傘をさしていない。

「さあ、追いかけてください」

 プロテインバーを食べ終えたらしいコイツが、俺のポケットにゴミを捨てながら言った。

「は?何をです??」

 まさか、あの危険人物を追いかけろとでも言うつもりだろうか。

「彼ですよ」

 何を言ってんですか、という目をするコイツが指さすのはやはりあの危険人物。

「無理に決まってるだろ!見つかったら何をされるか……!」

 はあ、とため息を吐いたコイツの言葉は何とも信じがたいものだった。

「何しに来たんですか。早くヒーローを追いかけなさい」

 俺のヒーローへの憧れが打ち砕かれた瞬間だった。


 とりあえずヒーローが何人かに声をかけるまではこのままで、とわけのわからないことをいうコイツに従い、俺は人生で初めてストーカーをしていた。しかも対象は野郎だ。

 俺は、涙を流す代わりに質問を口にした。

「なんでヒーローはあんなビルから出てきたんだ?」

「あそこが異世界からのワープ地点なのですよ」

 はい?コイツは何を言っているのだろうか。

「異世界??え?は??」

「あなたはつくづく理解力不足ですねぇ。ヒーローは異世界から来るのですよ」

 もう意味がわからない。よく考えればコイツの存在も現実性に欠ける。もしかすると、俺はずっと夢を見てるんじゃないだろうか。

「痛ッ!」

 現実(だと今まで思っていた世界)から目をそらしていたら、電柱とこんにちはした。

 ここは現実だった(確定)。

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