第3話

 仕事を終え、やっとの思いで家に帰ってきた。同僚たちは心配そうにしてくれたが、部長の言葉のおかげか、あまり深くは聞いてこなかった。嘘をついたことで俺の心は痛んだが、ハゲが知られることや行き返りの通行人の視線に比べれば、これくらいどうってことはない。嘘がばれぬよう、しばらくは職場で帽子を被ればいいだろう。

 やりきった!やりきったんだ!!

 俺は自分を褒め称えた。

「さあ!早く戻してくれ」

 ローテーブルに座ってテレビを見ていたヤツは言った。

「なに言ってんですか?昼間に5時間も寝るわけないでしょう。ボクは健康優良児ですよ??」

「ふっざけんな!」

 ちょっと予想していた自分にも腹が立った。


 となると、問題は風呂だ。できることなら入りたくはないが、一応これも他人様から借りたものだ。キレイにして返さねば。借りたといえば、俺の髪は今頃、隣のおっさんのもとにあるわけだ。おっさんは今日一日俺の髪を楽しんだのだろうか。おっさんからしてみれば、一晩でふさふさになり、一晩でツルンに戻されたことになる。ツルンヘアーを気に入っていたとすれば(まあ、それはそれで一日ふさふさにして申し訳なかったが)いいとして、もしそうではなかった場合、大変申し訳ないことをした。

……ケーキでも買って持っていこう。

 確か甘い物が好きだったはずである。

おっさんのことを考えると、俺の風呂なんてなんでもなかった。その日は、今までで一番丁寧に優しく頭を洗った。


 次の日、朝起きると髪が戻っていた。大変喜ばしいことだが、おっさんを想うと大袈裟に喜ぶのは気が引ける。

「戻してくれたんだな」

 冷蔵庫に頭を突っ込んでガサゴソやっているソレに声を掛けた。

「ええ、約束ですからね。ところで、これ美味しいですね。ハムとは違うんでしょうか?」

「おっまえなぁ!」

 それは!!俺が朝ご飯用に買ってきたベーコンだ!!!


 幸い、ベーコンは残っていた。他に、トーストと目玉焼き、インスタントのスープ、簡単なサラダを作って朝食にした。それを食べ終える頃、なぜか隣で一緒になって俺の作ったものを食べていたソイツに聞いた。

「おまえの言うやってほしいことってなんだよ?平日は仕事があるし、そんなに時間取れねぇぞ」

「ああ、あなたには次に来たヒーローの担当になってもらおうと思っていまして」

「あぁ?ヒーロー??」

 また面倒なことになりそうだ。

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