ドヤカミ――わたし、ドヤの女将さんになるかも……――

梅崎遊熊

Chapter 1『桃、再スタートする』 1-1

『全てが間違っているということはありえない。

どんな壊れた時計でも一日に2回は正しい時刻を示す。』

マーク・トウェイン(アメリカ合衆国の小説家)


           ※


Chapter 1『桃、再スタートする』

1-1

 

 お母ちゃんが『親同士のお見合いパーティー』なるものに参加していたなんて、今日のきょうまでぜんぜん知らなかった。


「なかなかのイケメンはんやろ?」

 童顔ながら少しばかり草臥れた感じの小太りな中年男が、不器用な笑顔を浮かべている。印象的な大きな鼻は、子どものころに観ていたテレビアニメ『ハクション大魔王』を連想させた。わたしは、

(そういえば鼻の大きなオトコのひとはアソコも大きいって聞いたことあるけど、ホンマなんやろか……

 こういうブサイクなのに限って無駄に大きかったりするのよねぇ。わたしのおっぱいと同じように……)

などとどうでもいいことを思いながら見合い写真を閉じると、無言のままお母ちゃんに返した。


「桃ちゃん、気にいらへんの?」

 そう言いながらお母ちゃんは即座に見合い写真開き、

「ほんまにホンマにエエ男はんなんやで。頭もよぉて、元は大きい銀行に勤めてはったエリートはん。条件かて“家付きカー付きババア抜き”おまけに一人っ子やから小姑にいびられたりする心配なんてあらへんし! なっ、最高やんね? お舅さんは大人しい息子さん以上にエエひとなんよ」

と機関銃のようにまくし立てた。さらに、

「それにほぉら、よう見てみぃ。ホンマ徳のある優しそうなお顔立ちしてはるやないの。じじつ、ひとの痛みのわかる、そりゃもうホンマ人間味のある男はんなんやから! そんなもん、べつにイケメンちゃうかてエエやないの!」


  お母ちゃんのあまりのアツに、

「さっき言うたこととぜんぜんちゃうやん」

と、わたしはツッコんだりはしなかったし、「『ホンマ』使いすぎやねん」とも言わなかった。


  そもそもイケメンか否かなんてどうだっていい。人さまの容姿をどうこういえた義理じゃないことくらい自分自身よくわかってる。家事手伝いという名の無職無収入パラサイト(最近では”こどおば〈子供部屋おばさん〉とかいうらしい)の、これといった資格も何らスキルもない、ひきこもり歴24年の49歳にもなろうというわたしなんぞに……


 いまはまだ元気なお母ちゃんも、いずれ介護を必要とするときが来るだろう。

 そしたらわたしは、ありったけの力でお母ちゃんの手となり足となり天寿を全うしてもらう。


  よだれやおしっこにウンチなんて、わたしは平気。

 お母ちゃんは、赤ちゃんに還るのだ。


 そして、かねてからの望みどおり亡き骸は故郷の波のおだやかな海へ散骨して、長年暮らしたこの団地の2DK分の家財道具をすべて処分したら、すぐにわたしもお母ちゃんのもとへと旅立つ――


 大げさに手を左右に振りながら、わたしは言った。

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