鬼ごっこ1 Q市旧発電所 リーダー:オム
「今日のリーダーだぁーれだ。
じゃん、けん、ぽん!」
「あーいこ―でしょ」
「あーいこーでしょ」
街外れの山の中にある、もう使われていない発電所。
誰が決めたでもないのに朝に集まって、日が暮れても飽きるまで遊び続ける。
そんな子供たちの遊び場。
いつも集まってすぐ今日のリーダーを決めるのがルーチンだが、8人もいるためじゃんけんの決着が全くつかない。
少人数に分かれれば素早く終わるが、
「オレサマが勝つのがへるだろ!」
という特定の一人の反対で、ずっとこのままだ。
約30分後、ようやく決着がついた。
空にグーを突き上げたオム。
ぼさぼさの長い前髪で表情が読めないが、どことなく得意げに見える。
「それで、今日は何をして遊ぶの?」
チョキを悔しそうに見つめながら、ハーロンが聞く。
オムは口を開かず、答えない。
「ダーリンは、鬼ごっこがしたいのよ!」
代わりに、オムのパソコンから女性の声が答えた。
彼女はナシル。天才ハッカーであるオムが、母親代わりに作った人工知能。
オムの娘であり、母親代わりであり、恋仲。
無口なオムの代わりに、ナシルが話を続ける。
「鬼は1人で、ステッカーが目印。鬼になったら10数えること。
制限時間は、五時の町内放送まで。
その時に鬼の人は、罰ゲーム!」
高らかにナシルが言うと、おおーと声が上がる。
「罰ゲームってなにするん?」
ユリエルダがワクワクして聞く。
「それは……」
その場の全員がごくりと唾をのむ。
「終わってから発表するわ」
「えぇー」
その場の全員がナシルとオムにブーイングする。
ナシルがじろりとそれを睨む。
「私のダーリンにそんなことしないでくれる?」
ナシルがドスのきいた声でオム以外に言う。
その場がすん、と静かになる。
「ダーリン、気にしなくていいのよ。ダーリンがこいつらバカとは違うことは、私がよく分かっているから。」
ナシルが甘い声でオムに囁く。
オムもそれにこたえるように、優しく微笑む。
その場がしらーっとする。
しかし二人の周りだけ熱いらしく、冷めた空気に気付いていない。
ヤコが2人に聞こえるように舌打ちをする。
「おアツいとこ悪ぃけど、さっさと始めようぜ。
イチャイチャしたければその後してくれや」
機嫌が悪そうに、たばこを捨てて踏み消す。
「じゃあ、アンタが鬼ね」
「は!?」
「ルールは以上よ。バカはバカなりにダーリンを楽しませてね。
反論はないでしょ」
ナシルがニコリとかわいらしく笑う。
「リーダーの言うことは?」
ナシルの問いかけに、全員が声をそろえる。
「「絶対!」」
「じゃあ、スタートォ!」
ナシルの掛け声で、蜘蛛の子のように散った。
その場にはヤコがポツンと1人で立っている。
ヤコは長い溜息をついて、ポケットから新しいタバコを出して咥える。
それからライターを取り出そうとポケットを探る。
「……」
もう一度長い溜息をついて、1から数え始めた。
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