マトリョーシカ
電車の中で集団の若者たちが話をしている。
何の話題かいまひとつわからないが、日本語にすると薔薇乙女。小難しそうな題材のようだ。
「やっぱり~、翠星石が一番かわいいのですぅ~(裏声)」
集団の中の眼鏡をかけてチェックのシャツを着ている1人が、やけに芝居掛かった口調で言った。
「これだからオタクくんはさあ~~~」
やれやれといった具合でそれをたしなめたのは、別の男だった。
「だいたいさあ、今どきオッドアイなんていうありきたりなキャラが流行るわけないだろ。ほんとオタクくんはキモいよね~」
「んだとテメエコラ!!」
別の眼鏡をかけてチェックのシャツを着た男が割って入る。
「まあまあ落ち着きなよオタクくん。やっぱり一番かわいいのは雛苺なんだよなあ~」
「オタクくんさあ~~~」
先ほどの男がやはりたしなめるように論評する。男からすれば眼鏡をかけてチェックのシャツを着た人間はみなオタク呼ばわりのようだ。
「あんなの知恵遅れだろ。何がうにゅ~だよ(笑)」
「……表へ出ろ」
「まあまあ、落ち着きなって。やっぱり蒼星石きゅんだよなあ」
「ボーイッシュなキャラが好きとかホモじゃん」
「なんだァ?てめェ……」
割って入った第3の男(これまた眼鏡をかけてチェックのシャツを着ている)の顔が突然険しくなった。
「ギャハハwwwマジ切れしてやがんのwww」
第4の男は眼鏡はかけておらず、周囲に比べると清潔感のある今風の恰好をしている。
「まあ、結局真紅に落ち着くんだよね」
「出たよ出たよ。お前みたいなやつが自称変態紳士(笑)を名乗るんだろ?そういう奴って女の前でしか紳士にならないよな。女に手を出したいけどその勇気がないから、常に予防線張りながらあわよくばを期待しているヘナチンキョロ充じゃん(笑)」
第4の男はプルプルと震えている。よく見ればこの男の顔が一番醜かった。
「やっぱりバカばっかりかしら。一番かわいいのは金糸雀かしら」
「マ〇キチ速報のイメージしかない」
「次の駅で降りろやテメエ!!!」
第5の男もあえなく顔を真っ赤にして激怒する羽目になった。
「お前らほんとしょうもないなあ(ま、雪華綺晶ちゃんが一番かわいいんだけどね)」
「雪華綺晶好きな奴って女ならメンヘラしかいないし、男なら痛々しい厨二しかいないよな(笑)ほ~んとオタクくんたちキモすぎるよ~」
むっとしたようだが、第6の男はかろうじて言葉を紡いだ。
「じゃあ、お前はどうなんだよ」
「そりゃ水銀燈様が一番かわいくて強くてお美しいに決まってんじゃん」
(こいつら全員オタクじゃん😅)
付近に座ってそれをじっと聞いていた俺は、呆れながらイヤホンを両耳につける。そして大音量で音楽を流すことにする。もはや彼らの会話を耳に入れるのは人生において負の効果しか生まないことがわかったからだ。このくだらない俗世間から離れて、自分の世界に浸るのが一番だ。
そしてイヤホンから流れてきたのは、はっぴぃにゅうにゃあだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます