○○ちゃんを救う会
「海乙女(マーメイド)ちゃんの病気を治すために、みなさんのご協力が必要なんです!お願いしまあす!!」
とあるターミナル駅前広場の雑踏で30代行くか行かないかくらいの女が声を張り上げている。
女の他には、いい年して髪を茶色に染めたままの男が、街ゆく人々に睨みつけるとも懇願するとも言い難い表情で視線を向けていたり、それらの親らしき老夫婦がのぼりを支えている。
その中には海乙女ちゃんと思われる幼い女の子が、無邪気な笑みを浮かべた大きな写真が貼ってあった。
「まだあんな小さいのにかわいそうねえ」
通りかかった50代くらいの女が目を潤ませながら、差し出された白い募金箱に財布から取り出したお札を入れる。
「ありがとうございまあす」
声を張り上げていた女がにこやかに礼を言う。それに後ろの老夫婦も小さな声で続いた。男は見た目にそぐわないほどのボソボソとした声で礼を告げた。まるで気持ちが籠もっていなかった。
「かわいそうにねえ。どんな病気なんだい?」
募金箱に小銭を入れながら、初老の男性が尋ねる。
「心臓の病気です。移植が必要なんです」
「そうかい。頑張ってね」
男性は立ち去る。
「おうおう、かわいそうにねえ」
「絶対に神様が治してくれるんだからねェ〜!!!!🤣」
「なんて運命を背負った子供なのォ〜〜!!!😭」
そうしている間に次のとてもとても親切な人々が続いていく。
その集団は自宅から通える範囲の大きな駅を回り尽くし、一年には数億円に達する大金を集めていた。
数日後――
同じ場所で別の集団が募金活動をしていた。
「子心(コッコロ)ちゃんの病気を治すために、みなさんのご協力が必要なんです!お願いしますー!!」
人々はそれを目に入れた瞬間に、大粒の涙を流しながら駆け寄ってきた。
「まだこんなに小さいのに!!」
「か゛わ゛い゛そ゛う゛に゛ね゛え゛!!😭」
「こんなに辛い現実があるなんて、神様はひどいわ!!!」
「どんな病気なんだい??」
明らかにかつらとわかるそれを被った男が尋ねる。
大量の札束をリュックにしまい込みながら、寄付を呼びかけていた女が手を止めて涙声で答える。
「心臓の病気な゛ん゛で゛す゛ぅ゛〜!!!
アメリカじゃないとできない手術なんですけど今のお金じゃ何ヶ月も待たされるので、薄汚い鬼畜米英人どもの順番をすっとばすために大金が必要な゛ん゛で゛す゛ぅ゛〜゛!゛!゛!゛」
「そうか〜、そりゃ大変だぁ😰」
かつらの男は財布をひっくり返して中身をすべてブチまけて去って行った。
「絶対にこの子を助けるんだ!!」
「な〜にがアメリカだ!!黒人差別ばっかりしやがって😡」
「コッコロママ〜〜😍」
その後も行列になり、子心ちゃん一家は一生金に困らなかった。
数カ月後――
「大介ちゃんの病気を治すために、みなさんのご協力が必要です!よろしくお願いしまーす!!」
今度の集団もまた誠意を込めて活動を行っていた。
通りかかった老いた男は足を止めて尋ねた。
「はて、その大介ちゃんというのはどんな子どもなんだね?」
よくあるはずの本人の写真がなかったのだ。だからふと気になったのだ。
ひょっとしたらとてつもない難病で、人目に出せないほど酷い容態なのかもしれない。
「昔はよく笑う子でしたが今は……」
「どんな病気なんだね?」
「心の病気なんです」
「何歳なんだね?」
「大介は36歳です」
老人は耳を疑った。
「36歳ィ!?」
「そうです。大介の病気は治すのにとてもお金がかかる難病なんです。高校生くらいから今までずっと苦しまされてきました。でも、お金があれば救うことができるんです!」
よく見るとその女は老人と同い年とまでは行かなくとも、それなりの年齢の女だった。
「して、何という病気なんですかな?」
女はとても辛そうに答えた。
「鬱病と言います。この子の場合は一生仕事せずに遊んで暮らすことさえできれば治るんです!!!そのためにお金が必要なんです!!!」
「なんてかわいそうなんだ!!!😭😭😭」
老いた男は急いでATMまで走り、預金をすべて引っ張り出して、その場に置いて去って行った。
ああ、世の中はなんと優しさに満ち溢れているのだろうか!
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