電話
雨は完全に上がっていて雲の隙間から太陽がとても輝いていた。
「もしもし」
「……もしもし」
電話に出たのは、星田だった。
僕らはあの後帰ってそれぞれ、内宮について調べる事になった。
そんな僕は今学校の最寄り駅の改札前で、一枚の紙を握りしめていた。
「あ、僕、天野」
「……どうしたの」
「分かったんだ! 内宮の住所! いやぁ改めて感心しちゃった。僕ってやっぱり天才なんじゃって――」
僕が今握っていたのは内宮の家の住所が書かれたメモだった。
「……それで?」
思ったよりも何倍も反応が薄かった。心なしか声に元気がない気がする。
「それでって、今駅前にいるからさ、今から来てよ」
「……いや、俺はいいよ」
「なんでよ、一緒に内宮の家に行って驚かせてやろう――」
「俺はいい!」
スピーカーから出る音が乱れるほどの大声だった。
「い、いきなりどうしたんだよ。大きい声だして」
明らかに様子がおかしかった。あまり大声を出すようなやつでもないし、さっきまであんなに乗り気だったのに。
「ごめん。でも俺はいい。それで、どうやって内宮の家調べたの? 俺も昨日、内宮の友達にあたってみたけど住所はおろか電話番号すら誰も知らなかったよ」
「ああ、それはさ。昨日先生が内宮はアルバイトしてるって言ってたでしょ? そのバイト先が分かればもしかしたら何か分かるかもって」
「でも、バイト先なんて……。働いてたことすら知らなかったのに」
しんみりした空気になる。星田も、内宮が働いていた事を知らなかったのに思うところがあるようだった。
「そこで僕の才能の発揮だよ。内宮の最近のおかしな言動から推理してみてさ」
「おかしな言動?」
「うん」
「そんなのあった?」
「まぁ、おかしいって言う程じゃないかもしれないけど。主に二つだね」
「なに」
口の中に溜まってきた唾を飲み込むと、
「1つ目は先週の金曜日にクイズ出てきたじゃん。答え言う前に終わっちゃったやつ」
「うん」
「とりあえず答え合わせからか。星田の答えは、Aは持っているパンの売り場を聞いてるって言ってたよね。ほとんど正解だと思うけど、多分これじゃあ足りてなかったんだと思う」
「……」
「Aがどこからそのパンを持ってきたかも答えないと。売り場から持ってきて聞いたんじゃ自作自演で、意味がわからないからね。まぁ、俺が思うにAは優しい人だったんじゃないかな」
「どういう事?」
「スーパーとかにたまに無い? そこにあるはずのない場所に置いてある商品とか。例えば、デザートコーナーにナスがぽつんと置いてあったり」
「よく見かけるよ。多分迷惑なやつが1度取った商品を別のところに戻したんだろうな。見ててイライラするんだよ」
そういって、いつも通り毒を吐いた星田に何故か安心した。
「そうそれ。それで、Aはそれに気づいて戻してあげようと場所を聞いた。それならBがありがとうございますって言ったのにも納得出来るし」
「そういうことか……。案外分かってみれば単純だね」
「まぁ、ただの高校生の作ったクイズだしね。でもそれじゃあ1つ疑問点があるんだよ」
「そう?」
「問題と答えはそれでいいと思うんだけどさ、内宮はコンビニを想定してたって言ってたじゃん。大きさもそんなに大きくないって」
「そういえば確か言ってたような……あっ、そういう事か」
「そう、別にあまり気にするようなことでもない気がするけど。そもそも、コンビニでパンの場所が分からないってことあるか?」
「ないね。スーパーとか広い場所なら案外見つけずらかったりすけど」
「それにコンビニで商品が違う売り場に置かれているのもほとんど見ないし」
「でも、それが何に関係してるいの」
「もし僕があの問題を思いついた時は絶対にスーパーとか、とにかく大きいお店を想像する。だけど、内宮はコンビニを想定した。それは何故か。憶測だけど実際にコンビニであったんじゃないかな」
「実際にあるか? やっぱりパンぐらい分かる気がするけどな」
「わかんないけど。例えば、ものすごく誰かに感謝をされたい人が売り場を知っているにも関わらず聞いたとか」
「あぁ、そういう人いるかも。善行をするにしても、見返りを求めたり、誰かに見られてないとやらない人とか」
「……まぁそれで、その場面にコンビニで遭遇した内宮は、そのクイズを思いついた。だから、内宮の想定してた場所がコンビニだった。内宮はその場面を目撃しただけのだの客Cかもしれないし、感謝されたがりのAかもしれない。もしかしたら店員のBかもしれない」
その事からぼくは、内宮はコンビニでアルバイトしていたと仮定することにした。
「それはわかった。でも現状ほとんど何も分かってないようなもんだよ。コンビニの店員かどうかも怪しいし、もしそうだとしてもコンビニなんて凄い数あるからね」
当然の反応だ。
「まぁ、あくまで一つ目だから。もしかしたら内宮はコンビニで働いていたんじゃないかって可能性が出ただけでも十分」
「二つ目は?」
「これも先週の金曜か。そういえば、星田は帰る時、内宮についてったけど、お目当てのあたふたする内宮は見れた?」
「それが、普通に出れちゃったんだよ」
やっぱりそうだったか。僕は心の中でガッツポーズをした。
「でもそれってやっぱりおかしいんだよ。普通、ICカードは入ったら別の駅からでなくては、出れない。それなのに内宮は出れた。なんでだと思う?」
「……定期とか? 例えばどこか別の駅にある塾に通っていて、その定期を作ってあれば」
それは思ったけど。
「うーんそれは多分無いな。塾に通ってたなんて聞いた事ないし、定期を作ってまで、遠くの塾に行くか? 行っても自転車で行ける範囲か、学校帰りに寄れる場所だと思うけどな」
「……だよね」
「それで、色々調べたんだけどさ一つだけあったんだよ、ICカードで入った駅から出る方法」
「どういうの?」
「定期」
…………、五秒程沈黙が続く。
「まぁ、最後まで聞いてよ。定期にも色々あるらしくてね、入場するためだけの定期があるんだって」
「……本当に? そんなの誰が使うの?」
「駅の通りぬけとからしいよ。大きい駅だと、中突っ切った方がはやいからね」
「だとしてもさ。なんで、それを内宮が持ってるの」
「それが駅の通りぬけのほかにさ。駅内で働いている人もそれ使う場合があるんだって」
あの駅で改札の場所は一つだけしかない。そのため通り抜け用では無い。とすると、その定期の使い道は一つだ。
「内宮が駅内で働いていたって事?」
「――正確には駅内のコンビニだけどね」
「……それはないと思う。学校の最寄り駅、生徒が沢山寄るコンビニだよ。少しぐらい内宮がアルバイトしていること知っている人がいるはずだよ。現に俺も放課後よく行くけど、1回も内宮の事見たことないよ」
やっぱりそこにも気づくか。僕がその矛盾に気づくのにもっと時間かかったのに。
「そこなんだよね。内宮がアルバイトしているって噂は全く聞いたことが無い。いくらバレた時口止めしても、何人にも見られたら無理があるし」
「そうでしょ」
「でも、あそこのコンビニに行くのなんて放課後ぐらいじゃない?」
「まぁ、確かにそうだね……」
「僕らの学校は最終下校時刻って六時半だから……いくら部活後喋って時間つぶしてる生徒がいたとしても、八時以降はあのコンビニに生徒は行かない気がするな。
もしアルバイトの開始が八時以降なら、生徒は全然知らないのに、先生だけ知っているのには納得だよね。先生って残業とか凄いらしいし」
「でも、高校生って十時ぐらいまでしか働けなかった気が。一日二時間しか働かないってできる?」
「殆どの所は無理。調べたけどあのコンビニは三時間からじゃないとダメみたい」
「それなら天野の言ってる事は全部否定されるじゃん」
「いや、そういう訳でもないんだよ。根拠はないけどもしかしたら――内宮は年齢を偽って十時以降も働いていた可能性があるって思ってさ」
「……それは無理がある。普通、年齢を証明するもの何か見せるでしょ」
「普通はね。でももしかしたらそういうのが杜撰で、全然確認しない所かもしれない。それか、コンビニの店長が内宮の親戚とか知り合いで、十時以降も働かせてもらってたのかもしれない」
「いや、流石にそれは……」
正直僕もダメだと思ってた。
「まぁ、僕も殆ど賭けみたいなものでさ。親戚とか知り合いなら、なにか聞けそうだし。杜撰だったなら住所ぐらい教えてくれるんじゃないかなって。そもそもそこで働いてるかどうかすら怪しいけど」
「それで」
「まさかのビンゴ。そこの店長に聞いてみたら、『内宮の友達? あいつ金曜日から無駄欠勤しているんだけどクビにするぞって言っといて。電話にも出ないし。え、家知らないの? 確か住所書いてある紙あったよなぁ。ちょっとまってて』って」
これには本当に驚いた。こんなお店があるなんて。
「それで本当に教えて貰えたの?」
「うん。やっぱり、かなりルーズな所だったよ。まぁという訳で、これから俺は内宮の家に行ってみようと思うよ」
「そっか……」
……やっぱり何かあるな。内宮の家に行くと言うと、明らかに口調に元気が無くなっている。
「お前は本当に行かなくていいの?」
「やめとく。天野もわざわざ行く必要無いと思うよ……」
「何言ってんだよ。お前が、最初に――」
つい熱がこもる。それに気づいて、僕は口を噤んだ。
「お前も本当は……いやなんでもない。切るわ」
そう何かを言いかけた電話からは、通話の切れた電子音が流れ出しとても虚しくなった。。
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