下校

 昇降口を出るとまだ雨が降っていて、雨の埃くさいような匂いが鼻をくすぐる。室内にいた時はそこまで気にならなかったが、まだかなり降っているようだ。

 雨雲が空全体を覆っていたため辺りは暗かった。


 (今、結構元気なはずなんだけどな?)


「梅雨まだ明けないのかな」

 僕は傘のマジックテープを外しながら独り言のように呟く。

 内宮と星田も傘を開きながら、そうだなと何気なく返した。


「あれ?」

 普段なら内宮だけは自転車通学なので、傘をささずに駐輪場まで走っていく。しかし今日は傘を持っている。


「今日は歩き?」

 同じ事を思ったのか星田が聞いた。


「おう、駅内の本屋に寄ろうと思って。チャリでもいいんだが、駐輪代が勿体ないしな」

 そういう事か。


 学校の最寄り駅は少し大きく、駅内に本屋やコンビニ、百円ショップなどがある。ここら辺は本屋がないので、行くとなると自然にそこの本屋に寄ることになる。

 

 正門を出ると、早速あった水溜まりを踏んでしまい靴下に水が染み込んでくる。


「家近いんだっけ?」

「駅から歩いて、十五分ってとこだな」

「そっか。……そういえば、今日テストの点数が酷いって呼び出しくらったんだけどさ。その時三組の柳田やなぎだって人がめちゃくちゃ怒られてたんだよね」

「ああ、あれか……」


 下校中の何気ない世間話のつもりが、何故か内宮の語気が弱まった。


「あれね」

 星田が頷く。

 内宮と星田も同じ三組なので、ある程度事情を知っているらしい。


「なにがあったの? 大人しそうな人がすごい怒られてて気になっちゃって」

「あまり面白いものじゃないぞ? ただアルバイトをしているのがバレたらしい」

「うちの学校はどんな理由があろうとアルバイトダメだしね。頭硬すぎるし、やった柳田もバカ」

 

 僕らの通っている高校はとても校則が厳しく、その中でもアルバイトについてはかなり生活指導部の先生も目を光らせている。

 

 それにしても……星田はすぐに毒を吐くな。


「でも、なんでバレたんだろう。結構隠れてやってるって言う人いるけど」

「てか、前から思うんだけどさ。アルバイトしている人ってなんで自分から皆に言うんだろうね。いやアルバイトに限らずルールを破っている人って……」

「全員そうとは限らないだろ」


 また毒を吐こうとする星田を内宮が遮る。


「そうかもしれないけど、殆ど自分から言っているよ。見ててイライラするんだよね、あぁまた何故か自慢風に話しているって」

 それでもなお毒を吐き続ける星田に呆れていると内宮と目が合い、

「それはお前の性格が悪いからだよ」

「同感」

 少し笑ってそう言った。

「酷いな。友達だろ? 悪口言い合うのはやめようよ」


 そうこうしているうちに、駅に着いた僕らは鞄からICカードを取り出す。

「あ、内宮入場券買わなくていいの?」

「ああ、ICカード持ってきたから」

 と言って、ケースを振って見せた。

「それで入るだけって大丈夫?」

「大丈夫だぞ」


 星田と同じ事を思ったが、内宮に大丈夫と言われると大丈夫な気がしてくる。


「じゃあここらで解散か。星田行こう」

 僕が声をかけると、いやと言い、ブツブツ何か言ったあと僕の耳に口を近づけて、(多分ICカードじゃ出れないんだよね。だから俺は出れなくてあたふたする内宮を見てから帰ることにするよ)と、耳打ちすると満面の笑みで、

「俺も本屋に寄ることにするよ」と言った。


 ……本当にこいつ性格悪すぎる。


「そうか、それじゃあ天野また来週な」

「うん、じゃあね」

 そう言って僕は電車乗り場へと向かった。


 



 


 





 



 

 



 

 


 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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