第50話 王国を継ぐもの
「陛下、今の音はいったい!?へ、陛下!!殿下は気が違われたか!!」
「陛下!!医者だ!医者を呼べ!!」
「殿下から銃を取り上げるのだ!」
王を弑した王子は、すぐに銃声を聞いて駆けつけた近衛兵によって取り押さえられ、城の貴人向けの牢に閉じこめられました。
王子は王を殺したことで茫然自失となっていた上に、病気で体力が失われていたために屈強な兵士達は簡単に取り押さえることができたからです。
簡単に済まなかったのは、その事後処理です。
貴族達は王なしで問題の解決に奔走しなければならなくなったのです。
「陛下は亡くなられた・・・即死だったそうだ」
「おいたわしや・・・」
「言われてみれば、殿下の様子は少しおかしいようには見えた。しかしまさか王族ともあろう方が仕込み銃などという暗殺者の真似事をなさるとは・・・」
王が亡くなったからには、後継者を指名しなければなりません。
国難の下、積極的に簒奪を図りたい貴族などいませんから、早急に責任を押しつける対象が必要なのです。
「問題は後継者だ。次の王には速やかに立っていただかねば」
「そうだ!遺言はないのか?こんな情勢だ。後継者の指名が必要だ!」
「残念ながら無いようだ。戦争前は王子に内定したようだが・・・」
「あの王子に継がせるわけにはいくまい。となると・・・」
「派閥から出すか・・・?だが、誰がそのような貧乏くじを引くのだ」
国家のリーダーの価値は個々の利害調整を越えて国家の利益を追求する決断を行うことにあります。貴族達はそれなりに政治家として優秀ですが、その視界はあくまで自派閥の利益の追求に留まっています。
現在の王国が置かれている「誰がやっても損をするし批判される」困難な状況でリーダーシップを取る訓練も受けていませんし、そうした経験もありません。
「いなくなってわかる、陛下の偉大さですな・・・」
「全くだ。派閥争いも強い国家あってこそ、だ」
王国は王の力が極めて強い絶対王政とも呼ばれる政体でしたから、王に代わって独裁的に国家のための政務を執り行う機関が存在しないのです。
「ではどうする?とにかく誰か王族を立てるか?摂政でも宰相でも置いて政務をお補佐する形とすれば良かろう。前例がないわけではない」
水の聖女が文献調査で指摘したように、王家の血筋の濃さは王国では伝統的さほど絶対視されてはいませんが、傍系であっても取りあえず血筋を引いていることは必要です。
「だが王子でなければ誰を立てる?直系の血筋の男子はいないぞ」
「となると、傍系となるが対象者が多すぎる」
王家と貴族というのは何代にも渡って婚姻関係を結んでいるものですから「誰か適当な王家の血筋を引くものを」などという条件で選ぶようにすると、該当者は何十人の単位で上がってきてしまうのです。そして、どの対象者も王となる教育も訓練も受けていません。
「それにしても陛下が亡くなられたことを公表するのか?原因はなんとするのだ」
「まさか王子が王を弑したと発表するわけにはいくまい。ご病気になっていただくしか」
「王子の件はどうするのだ。同じようにご病気になっていただくのか?2人揃ってご病気になられたなど、誰も信じまい」
「そうだな・・・普通に考えれば、我らが王族を排除してクーデターを企てたと見られよう。国内の他の貴族達の反感は免れまい」
「ばかな・・・いや・・・そうか・・・」
王の間に集った貴族達は頭を抱えました。
「王子が王を殺した」と発表をして国内政治に混乱を招くか「王と王子が揃って病気になった」と他の貴族達に指弾されるかの2択に追い込まれていることを自覚したからです。
誰がこのような国難の時期にクーデターを起こしてまで政権を握りたいものでしょうか。
彼らは国家の利権にあずかりたい凡人の集まりであって、国家の困難を背負い込みたい奇人や英雄の集まりではないのです。
「殿下は最悪の時期に、最悪の行いをしてくれた・・・」
頭を抱えた貴族の一人がつぶやきましたが、それを咎めたり否定する者は王の間に一人としていませんでした。
◇ ◇ ◇ ◇
「今日はなんぽん揚がるかなー、いちにち よんほん、ふつかで はちほんー、あたしは 気楽な ブルジョワジー 金貨に銀貨、どんどん どんどん 貯まってるー」
あたしは自作の鼻歌を披露しながら、土地神様が大砲の引き揚げ作業をしている川原までやってきています。
映像歯車の監視は聖女様と御柱様に交代です!
最近の聖女様はときおり神殿の中庭の畑の面倒を見る以外は、御柱様と何やら難しいお話ばかりしているので、土地神様のことはあたしが気にかけてあげないとならないのです。
「映像歯車を見るのも飽きちゃいましたしねー」
最初は面白かった映像歯車も、じっと見ていると飽きてきました。
そもそも最近は羊飼いのおじさんが連れてきてくれた人達もまじめに屑拾いをしているので、あたしがやることは少ないのです。
「やっぱり体を動かしてる方が落ち着くんですね」
なかなか立派な資本家や有閑淑女への道は遠いです。
「あれ?縄・・・いえ、鎖?」
今日は土地神様の作業の様子が、いつもと違っています。
普段はざぶざぶと川に踏み行って、ずるずると泥にまみれた大砲を引き上げてくるのですが、何だか太い鎖を持って水の中に入って行っています。
「川もなんかへんですね。丸いのが見えます?」
川の中程にも、いつもと違うモノが浮かんでいます。
空中眼を大きくしたような、丸くて大きなものがいくつも川の流れに逆らって浮かんでいるのです。
しばらくすると、土地神様がゆっくり、ゆっくりと一歩ずつ力強く大地を踏みしめるように川から上がってきました。
土地神様の足の車輪がゆっくりと力強く回転しています。
そして肩から背負った太い鎖が水中に向かって強い力で、ぴんと張っています。
ものすごく重いモノを引きずっている証拠です。
ずり・・・ずり・・・と土地神様が一歩ずつ進みます。
それに連れて、川中の浮きに支えられたものがだんだんと姿を現してきました。
「ふね・・・のそこ・・・?」
それは沈んでいた軍艦の底部のようでした。
さしわたしは数十ヤード以上あるでしょうか。重さとなるとまるで見当がつきません。
一瞬で沈んだためか、舳先から後部のスクリューまで、ほとんどの構造が残っているのです。
「すごい・・・」
あたしは目の前の光景に圧倒されたまま、王国軍艦の魔導蒸気推進機関が土地神様の手でゆっくりと揚陸されるところを眺めていました。
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