第17話 王国の進撃

本日3話目です


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 王国は隣国を攻めるために大軍を発しました。


「行け!我が軍団達よ!敵をなぎ倒すのだ!」


 王国の軍勢は質・量共に圧倒的です。


 魔導蒸気機関推進式マギスチームエンジンスクリュー戦列艦シップオブラインから一斉に打ち出される最新式の大砲は一隻で100門を越えます。虎の子の戦列艦10隻が一斉に火を吹けば、未だに帆船が主流の隣国艦隊に歯が立つものではありません。

 王国は慌てふためく隣国の艦隊をさんざんに打ち破り、あっという間に上陸を果たしました。

 上陸してからは、陸軍による牽引式魔導式大砲マギカノンと一兵卒にまで行き渡った王国小銃キングスライフルによる一斉射撃がものを言います。

 奇襲に対応できず小集団でバラバラに立ち向かった隣国は無惨に敗退しました。


 わずか半日間の戦闘でした。


「ははははっ!見ろ!敵の兵がゴミのようではないか!鎧袖一触とはまさにこのこと!」


 太陽の王子様は得意満面です。


 王子と主要な貴族は上陸後に仮の司令部として地方貴族の屋敷を接収していました。

 兵士達が血と泥にまみれてテントか野宿で生の芋をかじっているのをよそ目に、彼らは快適な屋敷で戦勝を記念して豪華な食事と酒のパーティーを開いています。


「さすが王子、完璧な戦略でございます」


 先日まで王子を責めていた新興貴族も手のひらを返して太鼓持ちに徹します。

 そのぐらいのことができなければ、市場の激しい競争に打ち勝って貴族に昇り詰めることができないからです。


「あとは農地を接収するだけですな。農民は王国に山ほど余っておりますから容赦の必要はございません。いっそ綺麗に掃除してしまうのも手ですな」


 新興貴族以上に揉み手で胡麻をすっているのは保守派の貴族達です。

 彼らは隣国へ勝利の暁には、奪い取った農地を我がモノにするために必死です。

 揉み手で胡麻をすりすぎて摩擦熱で火傷をするのが心配になるほどです。


 王国は勝利に湧いています。


「それにしても粗末な対応でしたな。我が方の戦略にまるで対応できていなかった」


 将軍の一人がお酒に酔った赤ら顔で上機嫌に敵の不備を評しました。

 戦争では、戦力を一カ所に集中することがとても大事です。

 王国は兵器の性能で圧倒していましたが、それ以上に敵の軍隊の指揮の不味さが目立ったのです。


「それはそうだろう。なにしろ完璧な奇襲だったからな!」


 王子様はご機嫌です。

 周囲の取り巻き貴族達も追従します。


 ですが、将軍の笑顔は途中で固まりました。


「まったく、宣戦布告なぞ愚か者のすることだ!勝てばいいのだ、勝てば!!」


 と、王子が言い放ったからです。


「で、殿下!すると、今回の戦争は宣戦を布告なさらなかったのですか!?」


「当たり前だ!貴様も軍人ならば勝つために全力を尽くせ!勝てば全ては正当化されるのだ!」


 動揺する無能な将軍を王子は叱りつけました。


「しかし、そうなると戦争を停止することができなくなります。ある程度勝利したところで停戦を提案しても、先方がこちらの宣言を信用しなくなってしまいます」


 言い募る敗北主義の将軍に、王子は子供にかんでふくめるように教え諭します。


「良いか?王国は勝利する。勝利意外にはあり得ないのだ。よって停戦は敵方が提案するものであって、王国が求めることはない。勝利するのだから宣戦の布告は必要なかった。単純な理屈ではないか」


「そうだ!将軍は王国の勝利を疑っているのか!」


「全くだ!将軍は敗北主義者だ!」


 酒で気が大きくなったのか、取り巻き達は軍事の専門家であるはずの将軍をさんざんに責め立てるのです。


「まあまあ。諸君、将軍は心配性なのだ。何しろ前例のない勝利なのだ。信じられないのも無理はない」


 鷹揚に止める振りをして、実際のところ王子は貴族達をけしかけています。

 そうして軍から作戦の主導権を奪おうとしているわけです。


 将軍はわかっていても口を挟むことはできません。

 明確な命令であれば職責として反論もできますが、今行われているのは王国の宮廷政治の延長に過ぎないからです。


(敵地でこのような政治ごっこにかまけていて、王国は本当に勝利できるのか?初戦は確かに勝てた。しかし、これは単なる局地戦における勝利に過ぎない。敵は態勢を立て直すだろう。同盟国を引き込むかもしれない。そうなれば戦争は泥沼だ。王国は果たして最後まで勝ち続けることができるのか?)


 将軍の胸のうちに疑念が渦巻くのを感じずにはいられません。

 ですが、将軍は軍人です。


 与えられた職責のうちで、最前を尽くす他はないのです。


「それでは失礼します。兵を見てやらねばなりませんので」


 王国式の敬礼で踵を鳴らし将軍はバカ騒ぎを続ける屋敷を後にしました。


「我々は勝たねばならん。勝たねば先はないのだ。しかし勝ったところで・・・」


 その先の言葉は、急に強く吹いた西風に紛れ、聞こえてくることはありませんでした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「聖女様!チーズ!チーズですよ!見て下さい!チーズです!こんなに大きい!」


 家畜を放牧する代金として羊飼いが持ってきたのは、頭よりも大きな立派なチーズでした。


「あらあら。こちらはハムかしら。ソーセージもあるわね」


 おまけにお肉まで!ずらりと葡萄の房のように吊されたお肉達の量ときたら!

 保存を考えると加工肉なのは仕方ないですが、上等のハーブや塩を練り込んだ高級品の香りがします!


「平べったいけど、これはパン・・・でしょうか?」


 円形のシート状に積み重ねられた円形のものは、あたしの知っているパンとはだいぶ形が違います。


「この地方のパンね。竈に貼りつけて焼くそうよ。後で焼いてみましょう」


 さすが聖女様は博識です。


 焼いたパンにチーズにハムとソーセージ!

 それと蒸した芋があれば食事は完璧です!

 食後には紅茶だって飲めるのです!


 今夜はごちそうです!


 今日の世界はとっても平和に違いありません!

 世界が平和で皆が美味しいご飯が食べられますように!

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