第16話 人は欲望に弱いもの
本日2話目です
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聖女様の言葉に、あたしは混乱しました。
「海から?え、だってこの川は新しくできたばかりで・・・」
この土地は乾いていて、聖女様のお力で雨が降るようになって、川ができて・・・
そういえば「川の水はどこにいくのだろう?」と真剣に考えたことはありませんでした。
てっきり、広い砂漠のどこかに染み込んで消えてしまうのだろう、とぼんやりと思っていたのです。
「そうです、我々は海から川を遡ってきたのです」
と、男の人達が応えました。
これが実際に起きたことです。
聖女様のお力は思ったよりもとんでもなくて、雨が流れをなし、流れは小川となり、小川は寄り集まって大河となり、大河は海へと流れこむようになった、ということでしょう。
「まさか川の先にこのような緑の楽園があるとは・・・」
草原を見つめる男の人達の目が羨望に輝いています。
砂漠の数少ないわき水の畔で細々と痩せた家畜を放牧している者達からすれば、この土地は楽園にも天国にも見えるでしょう。
「ダメですよ。ここは王国の土地です」
釘を刺すと、男の人達は揃って悔しそうな表情で俯きました。
一方でギラギラと欲望に光る目で上目遣いをしている人もいます。
あー・・・だめです、上目遣いで許されるのはカワイイ男の子だけです。
「無断で上陸したら撃ちますからね」
あたしは革紐で背負っていたボルト
ちょっと鼻で笑われているような雰囲気を感じますが、とりあわずに川の方を指さします。
「あそこに、水鳥がとまっている岩があります。見えますか」
川の中程、約200ヤード離れた場所に少し水から頭を出した岩があり、そこで水鳥が羽を休めています。それが目標です。
「撃ちます」
初弾は既に装填してあります。素早く構えて息をとめ射撃!バンッ!岩に命中!
続けて装填!射撃!命中!装填!射撃!命中!装填!射撃!命中!装填!
側で聞いている人には「ガチャバンッ!ガチャバンッ!ガチャバンッ!ガチャ」と一連の機械の作動音にしか聞こえなかったでしょう。
ボルト式小銃による連続射撃!
狂った1
「いいですね。不法侵入したら撃ちます」
一斉に飛びかかっても無駄です、と
とても素直で良い態度です。
この土地の方々にもおいおい「
◇ ◇ ◇ ◇
すっかり態度を改めた男の人達から聖女様が聞き出したところによりますと、やはり彼らは海から川を遡ってやってきたそうです。
普段は沿岸を航海して商品の買い付けや販売をしている、とのこと。
「作物の種や家畜を購入することはできますか?」
と聞けば、最近は周辺が豊かになってきたので格安で購入できるようになったとか。
王国銀貨での支払いも可能だそうです。
さすが王国。
「小銃の弾も買えますか?」
「・・・
「充分です」
ちょっとイヤな顔をされましたが手に入るそうです。
王国を出るときに自衛のため箱いっぱいに持ち出してきたのですが、お肉を狩るためと今のパフォーマンスにずいぶん使ってしまいました。
弾丸はあればあるだけ安心を与えてくれます。
「それより、この豊かな土地に家畜を放させてもらえないか!代価は払う!」
男の1人が必死な表情で提案してきました。
なるほど・・・これは一考の余地があるように思えます。
そもそも、この草原は広すぎて管理しきれていないのです。
気がつけば草はあたしの背丈ぐらいまで生い茂っている場所もあります。
視界も良くないですし虫が湧いたら面倒です。
適宜、土地を貸し出して草を食べてもらった方が良いかもしれません。
「聖女様、どうしましょうか?」
「そうね・・・」
聖女様は形の良い顎に指をあてて躊躇しています。
メリットがある一方で、デメリットもありるかでしょう。
秘密保持の問題です。
土地神様が動いているところを見られれば、いずれ噂になるでしょう。
それが王国の耳に届くようなことがあれば面倒なことが起こりかねません。
「利用の代価に新鮮なミルクとチーズと羊毛を差し上げます」
「許可しましょう!」
思わず聖女様の会話に割り込んで叫んでしまいました。
無礼は承知の上です。
ですが、ミルク!チーズ!羊毛!
それらがあれば、食生活も寝床も格段に豊かな暮らしが送れます!
「・・・わかりました。人は互いを信じて、助け合って生きてゆかなければなりませんものね」
聖女様は生真面目な顔で取り繕っていましたが、あたしには分かっています。
人は欲望に弱いものなのです。
話し合いの末、男は定期的に船で家畜の群を連れてきて、神殿周辺の進入は禁止した上で放牧することになりました。
これで少しは土地神様の除草仕事の負担が減るでしょう。
代価は当然、前払いですね!
それが
チーズ、楽しみです。
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