2020 夢の話
建物の夢ばかり見る。
十三階分延々と続いているエスカレーターの夢とか、巻き貝のような螺旋階段の壁にぎっしりと本が詰まった図書館とか、そんな夢を見る。
昭和レトロな建物の夢を見る。白いタイル張りの広い温泉の浴槽とか、黄土色の土壁に木の板を張り付けた住宅とか。大学病院に併設した黒い尖塔とか、東京駅につづくジェットコースターのような滑り台とか、そんな夢を見る。
夢のなかで出てくる人間はあまり重要ではなく、知り合いであったり、見知らぬ人だったりする。自分はただ見知らぬ建物や風景のなかを歩いている。ピンが抜ける形のふしぎな鍵がついていたり、玄関にメガマウスのぬいぐるみが置かれていたりする。化け物みたいなサメの仲間だ。
出てくる建物は自分の家だったり、そうでなかったりする。実際の自分の家が出てくることはほとんどない。
本が好きなので、本屋の夢も見る。ひたすら赤い本が並んでいる本屋だったり、カフェみたいに座るスペースのある本屋だったりする。閉店前の蛍の光が流れていることもある。ああ出ていかなくては、と私は思うが、べつに急かされるわけでもない。
架空の建物や街のなかを歩いているだけなので、悪夢ではないと思う。
共通しているのは、人物が主体ではないということだ。夜に見る夢は覚えておらず、中途半端に眠ったときの夢を覚えている。たいてい夢のなかで私は歩いている。家を探索していたり、見知らぬ街をぶらぶらしていたりする。
そんな話をすると、人から「前世で建物に関する仕事をしていたんじゃない?」と言われた。今の仕事は建物には関係ないが、建物はなんとなく好きだ。とくに次の空間に何があるかわからない、大きな建物が。
夢のなかで別の国に行っていることはあまりない。たぶん日本だ。新しい建物よりも、古い建物にいることが多い。建物のなかに蔦が這っていることもある。廃屋を探検していることもある。
異世界の日本を夢のなかで歩いているのかもしれない。夢判断があまりできそうにない夢である。重要な夢や予知夢は見ない。基本的にはあまり夢を覚えていないほうである。
なにか意味のある夢で思い出すのは、十代のころに見た夢だ。
私はある小説の懸賞に応募している。実際に応募していた。そして小説は落選するのだが、黒い髪の女の子に私が尋ねる。
「そんな小説を書きたいわけじゃないんでしょう?」
黒い髪の女の子がうなずく。それだけの夢だ。
「そんな小説」がどんな小説なのかはわからないが、黒い髪の女の子は自分の無意識に繋がっているような気がした。
たぶん私はいまだに黒い髪の女の子を心に飼っている。黒い髪の女の子が納得する小説を書きたいと思っている。
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